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シリーズ 特別寄稿「木材・住宅市況を読む」① 2025年の日本経済と住宅市場の見通し ~内需主導の回復と木材市場の構造的転換~ 株式会社農林中金総合研究所 安藤 範親 氏
特別寄稿「木材・住宅市況を読む」として、㈱農林中金総合研究所の安藤範親氏による定期連載シリーズがスタートします。第1回となる今回は、「2025年の日本経済と住宅市場の見通し」と題して、国内景気や金融政策の動向が住宅市場に与える影響や、米国市場の動向が日本の木材価格に及ぼす影響などについて見通しを語っていただきました。

民需主導で進む緩やかな成長軌道
2025年の日本経済は、低成長ながらも民間需要に支えられた緩やかな回復基調をたどると見込まれます。農林中金総合研究所では、第1表のとおり、25年度の実質GDP成長率を前年比0.9%と予測しており、前年度(24年度)の0.7%からやや加速する見通しです。世界経済の先行きに不透明感が残る中、日本では賃上げや雇用環境の改善を背景に民間消費や設備投資が持ち直し、景気回復の足取りを支えると見込まれます。民間最終消費支出は前年比0.9%増と見込まれ、物価上昇による購買力の制約を受けながらも、賃上げによる可処分所得の増加が支えとなります。企業の設備投資も堅調で、デジタル化や省力化を目的とした投資が進展しており、民間企業設備投資は前年比1.8%の増加が見込まれます。
インフレ持続と金融引締めの影響
物価動向には引き続き注意が必要です。全国消費者物価指数(CPI、生鮮食品除く)は前年比2.3%の上昇を見込んでおり、高止まり傾向が続きます。こうした中、日銀は25年度も段階的な利上げを継続する見通しであり、政策金利は25年度末までに1.0%に達する見通しです。長期金利も1.8%台まで上昇する見込みであり、特に住宅投資においては負担増の要因となります。
民間住宅投資の展望
民間住宅投資は、住宅価格の上昇を反映して名目ベースではわずかに増加する見込みですが、実質ベースでは前年比1.0%減と予測しています。住宅着工戸数は引き続き減少傾向にあり、数量的な成長には限界が見られます。とりわけ建設コストや住宅ローン金利の上昇が持家の需要を抑えています。ただし、貸家や分譲住宅は都市部を中心とした賃貸・分譲ニーズが底堅く残っています。住宅市場においては、政府による補助金政策により、省エネ住宅やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)、高性能リフォームなどの需要が高まりつつあります。数量的な拡大が見込めないなかで、住宅投資は「量」より「質」に比重が移行しているといえます。
日本の木材価格に影響を及ぼす米国市場の動向
住宅建設における木材需要の規模や輸入依存度の高さから、米国市場は世界の木材需給と価格形成において極めて大きな影響力を持つ存在です。特に、カナダからの輸入材に依存する米国の住宅市場は、通商政策の変化が国際木材市場全体に波及する構造となっています。こうした状況を踏まえ、2025年度における米国の通商政策、特にトランプ政権による関税強化の動向は、日本にとっても重視すべき動きです。米国は2025年3月4日、カナダに対して25%の追加関税を賦課しました。その結果、米国内の木材価格が上昇し、住宅建設コストの上昇や販売価格の高騰を通じて住宅販売は伸び悩むと予想されます。
カナダ産木材の輸出動向と日本市場への限定的影響
追加関税により、カナダ企業にとっては採算性の悪化が懸念されるものの、米国国内での木材価格は関税のコスト上昇分を吸収する形で上昇しており、輸出量は大きく落ち込むことなく、わずかな減少にとどまる可能性が高いと見ています。米国市場は依然としてカナダにとって魅力的な販売先であり続けています。
ただし、木材価格の上昇に伴い、欧州からの米国向け木材輸出が増加し、米国の需給はある程度緩和すると見られます。しかし、欧州材の米国向けシフトにより、アジアや中東など他の地域への供給がひっ迫する恐れもあり、これが国際的な木材価格を押し上げる一因となる可能性があります。
以上を踏まえると、日本市場への影響は複雑です。カナダから見た日本市場は、独自の品質仕様、流通コスト、円安基調といった複数の制約を抱えており、仮に対日供給量が若干増加しても、輸出価格の大幅な下落や国内木材価格への強い下方圧力にはつながりにくい側面があります。一方で、欧州材の米国向けシフトにより、アジア地域への供給が絞られることで、日本が調達できる欧州材の価格が上昇する可能性もあります。結果として、日本の住宅建設における木材価格は、下落余地が限定されるだけでなく、むしろ緩やかな上昇圧力が継続する局面も考えられます。
金利上昇、外部環境の変化がもたらす住宅市場の行方
総じて、2025年の日本経済は、輸出の鈍化や物価高といった制約の中でも、内需主導で緩やかな回復を遂げる見通しです。住宅市場においては、構造的な需要の縮小と金融環境の引締めによる逆風の中で、省エネ化やストック型市場への移行など質的な転換が進む年となります。
加えて、米国の通商政策とそれに伴う国際木材市場の動向も、日本の建設コストや投資判断に新たな影響を与える局面に入っています。住宅関連産業にとっては、世界の政策動向や国際需給の変化、資材価格の動向といったさまざまな要素に目を配ることが今後いっそう重要になると思われます。(2025年3月31日執筆)
株式会社農林中金総合研究所
農林中央金庫100%出資のシンクタンクとして、農林水産業と食と地域に特化したリサーチ、アドバイザリー、コンサルティングを展開。多岐にわたる領域をカバーし、多様なステークホルダーに価値を提供している。
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