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特別インタビュー 企業理念の実現に向かって ~バトンを受け継ぎ、 次世代へ~ TOTO株式会社 代表取締役 社長執行役員 清田 徳明 氏

 1917年に創立したTOTO株式会社は、代々引き継がれている創立者の言葉を全社員の精神の基本とし、「世界の人々から信頼される企業」を目指して、国内外で事業を展開しています。本日は、同社の清田徳明社長に、経営者としての考えや方針などについて伺いました。

清田氏

「どうしても親切が第一」を基本の精神に

―今年で創立108年目を迎えられます。改めて、御社の歴史や事業内容についてお聞かせください。

清田 当社の設立は、1903年に創立者の大倉和親が渡欧したことを契機としています。白物磁器の研究のためにオーストリアを訪れた際、欧州の衛生陶器による衛生的な生活を目の当たりにし、トイレの衛生面が当時の社会課題であった日本での普及を目指して、1912年に衛生陶器の研究・開発のため「製陶研究所」を設立しました。その後、試作を繰り返し、1914年に日本初の陶器製腰掛水栓便器の製造に成功、1917年に当社の前身である「東洋陶器株式会社」を設立しました。現在は、衛生陶器やウォシュレット、システムバスルーム等を展開する住設事業に加え、新領域事業として半導体の製造装置に用いるセラミックの部品の生産も行っており、日本国内で46拠点、海外17カ国で38拠点を展開しています。

―どのような精神や理念が継承されてきたのでしょうか。

清田 創立者である大倉和親の精神は、工場の設立にあたり起草された「定礎の辞」に示されています。ここでは、「誓って至誠をもって事に当たり、欧州斯界の製品を凌駕し、世界の需要に応じ、ますます貿易を隆盛ならしめんことを期す」と謳われており、国産の衛生陶器によって快適で衛生的な生活文化を世界に広めたいという、良いものづくりとグローバル市場を目指す意志が込められています。

 そして、当社グループに所属する全社員の基本の精神となっているのが、大倉和親が2代目社長の百木三郎に送った書簡の言葉です。「どうしても親切が第一」という言葉とともに、事業者が求めるべきは顧客の満足であり、利益はその影のようなものだと述べられています。17代目の社長である私まで代々引き継がれており、何か大きな決断を必要とする時や自身の行動を振り返る時は、この精神に立ち返って考えるようにしています。また、当社グループ全社員にもこの書簡の内容を公開しています。そのため、この精神に基づいて私が行動できているか、社員から常に見られているという意識で活動しています。

 こうした創立者の想いを、社是を筆頭に理念として受け継ぎ、2004年には海外拠点も含めてグループ全体で共有できる企業理念を制定しました(図1)。

TOTOグループ企業理念

―海外の社員にはどのように企業理念を浸透させているのでしょうか。

清田 海外に向けては現地の言葉に翻訳することで、世界の仲間たちへ浸透を図っています。私が海外拠点を訪問すると、理念に基づいた行動に関する多くのエピソードが社員から語られる場面もあり、海外の社員もこの企業理念を深く理解してくれていると感じています。

 象徴的な例として、コロナ禍での社員の行動に関する話があります。新型コロナウイルスが蔓延しはじめた頃、日本や中国ではマスク不足が大きな社会問題となっていました。その状況を知ったヨーロッパの社員が自主的に情報収集を行い、インドにマスクの在庫があるということを突き止めてくれました。その後、インドの社員と連携し、中国や日本の各工場にマスクを調達してくれました。これは、当社の活動が止まってしまっては、社会やお客様の役には立てないという意識から起こした主体的な行動です。当社は何のために存在するのか、社会に対して何を提供しなければいけないのかという存在意義を、企業理念を通じて社員全員が理解している結果だと考えています。

共通価値創造の実現に向けた「TOTO WILL2030

―社会的な混乱が起きたコロナ禍において社長を就任されました。当時の状況についてお聞かせください。

清田 当時は新型コロナウイルスで重症化する事例も多くあり、当社としてもどのように活動すべきか決めかねていました。この逆境の中、社員とそのご家族を守り、当社を存続させるために私が考えたのは「TOTOの存在意義とは何か」ということです。世の中や人の役に立っている企業なのか、社会やお客様にどのような価値を提供できるのかなど、就任した当初は常に頭の中で問い続けました。

 最終的に行き着いた答えは、創立者の想い、すなわち企業理念に立ち返ることでした。社会の発展に貢献し、豊かで快適な生活文化を創造していくことが当社の存在意義であり、グループ一丸となって長期視点で実現したい暮らしや社会・環境を追い求めることを決意しました。

2021年には、新たな長期戦略として「TOTO WILL2030」を策定されました。

清田 当社では従来から5年ごとに経営計画を策定し続けており、私が就任したタイミングは2018年から2022年までを期間とする5カ年計画が進行中でした。しかし、5カ年計画は、多少の浮き沈みはありながらも、ある程度の経済活動ができる外部環境を前提として策定されるものですが、著しい環境変化によって根底から覆ってしまうリスクがあるということをコロナ禍で痛感しました。そのため、長期戦略を策定する方針に切り替え、2021年から始まる10カ年の計画「TOTO WILL2030」を新たに打ち出しました。これは、不確実な経営環境を想定しながら、長期視点で目指すゴールを定め、そこに向かって一つずつ課題を解決していくバックキャスト型の戦略です。各地域で起こる様々な環境変化に対応するため、経営サイクルを短縮化して組織能力を高め、機動的にスピードを向上させることを目指しています。

 本計画では、2050年カーボンニュートラルの実現に貢献することを見据えながら、2030年に目指すべき目標として「きれいで快適・健康な暮らしの実現」「社会・地球環境への貢献」を設定しました。この目標には、企業理念を掲げただけで終わらせず、着実に実現させていくという意志を込めています。加えて、当社では本計画を「共通価値創造戦略」と表現し、縦軸の「経済価値」と横軸の「社会的価値・環境価値」の双方の向上を図っています(図2)。従来の5カ年計画では「経済価値」に関する指標を中心に設定していましたが、「社会的価値・環境価値」を重視する指標を取り入れることで、事業を通じて社会課題の解決と経済的成長を同時に実現することを目指しています。

TOTO WILL2023全体像

―どのように双方の価値を高めていくのでしょうか。

清田 当社が手掛ける事業は水資源との関わりが深く、「経済価値」と「社会的価値・環境価値」の相関関係が強いと言えます。水は循環資源と言われながら、実際に人間が利用できる淡水は地球上の水のわずか0.01%程度と言われています。世界中に水不足の国や地域が多くあり、限られた水資源を有効活用することが求められています。更に、水を使用する上では、ダムのろ過、ポンプによる町や建物への供給、温水利用のための加熱など、多くのエネルギーが消費されてCO2が排出されるため、水の使用量の削減が結果としてCO2排出量の削減に繋がります。つまり、当社の最新製品を通じて水の使用量を削減することで、「社会的価値・環境価値」が生み出されるほか、水道料金の削減が可能であるという付加価値によって「経済価値」も高めることができるのです。

 「TOTO WILL2030」では、「きれいと快適・健康」を実現しながら、環境にも配慮した商品を「サステナブルプロダクツ」と定義しています。お客様に我慢を強いるのではなく、環境負荷を軽減しつつ快適性を維持することを目指しており、これらの商品比率を高めるために技術開発を進めることが、「社会的価値・環境価値」の向上につながります。また、それによって商品の付加価値が高まることで、「経済価値」も向上させることができます。双方の相関関係が強い事業を行う恵まれた会社として、当社グループが一丸となって共通価値創造に取り組んでいます。

 「WILL」という言葉は、意志や想いを意味します。当社はこれまでも、創立者の意志や想いと向き合い続け、衛生陶器にはじまり、ウォシュレットの導入、米国事業の展開、半導体関連市場への事業拡張など、様々な挑戦を繰り返してきました。「TOTO WILL2030」においても、「どうしても親切が第一」という言葉を起点にした企業理念を受け継ぎながら、長期の視点と高い志を持って事業を運営していくことに加え、いかに次世代に良い形で継承していくかが重要だと考えています。

「取り組むべき課題」から「取り組みたい課題」へ

―「TOTO WILL2030」の実現に向けて、具体的にどのようなことに取り組んでいらっしゃるのでしょうか。

清田 企業の組織力は人の総力で成り立っており、それは同じ想いを持つ人の数と個々の技量の積分値で決まると考えています。野球で例えると、今年絶対に優勝すると意気込むチームが二つあった場合、想いの強さは同じでも、打率や防御率などの個々の技量が優れているチームが優勝する確率の方が間違いなく高くなります。つまり、同じ想いを持つ人を増やすことだけではなく、個々が持つ技量を引き出すことも、組織が成功する上では非常に大切です。そのため、「TOTO WILL2030」を社内で推進するにあたっては、企業理念の実現に向けて、重要課題であるマテリアリティ「きれいと快適・健康」「環境」「人とのつながり」を、「取り組むべき課題」から社員一人ひとりが「取り組みたい課題」に変換していくことに最大限注力しています。会社から与えられた課題について、当社グループの社員がプロとして着実に実行するだけに留まらず、それ以上の難易度の課題を自分自身に課すことで、個人の能力がより多く引き出され、組織力が高まっていくと考えています。

 社長就任からの5年間、これを実現するために社員と対話する機会を積極的に設け、企業理念の実現に向けて活動しようとしている社員の後押しをしてきました。私はこれまで国内外の拠点におけるダイレクトコミュニケーションや、オンラインを活用した少人数での対話などを通じて、延べ2,000人を超える社員と対話してきました。併せて、海外拠点の社員を含めて次世代のリーダーに向けた研修を開催し、私の想いを語りながら、企業理念に基づく行動・思考を醸成するなど、次世代へのバトン渡しを実施しています。

今すぐの結果を求めず、後世に良い種をまく

―最後に、社長として心がけていることをお聞かせください。

清田 当社が今後も成長を続けるための持続的な企業経営を目指す上で、いかに良い形で次世代へ継承するかということを第一に心がけています。これまで、先人の方々がまいてくれた種を育み大きくすることで会社として成長し続けてきましたので、今すぐに結果が出ることだけを目指すのではなく、次世代の人達へ良い種をまくことに努めています。

 そのために、誠実・真摯であることを心がけています。常に初代の書簡が見ている、お天道様が見ているというつもりで、正しいことを正しくやることを徹底しています。加えて、リーダーとしてあるべき心構えを持つことも必要です。社長とはあくまで組織における役割分担の中の権限であり、決して権力ではないと考えています。また、権限を与えていただいたからには、それ以上の責任を担わなければならないと思っています。そのため、会社を正しい方向に導いていくためには、偶然ではなく、常に理論に基づいた判断をし続けて勝つ確率を上げていく必要があります。また、当然のことながら、私自身が当社の中で誰よりも努力して勉強しなければならないと考えています。世の中には大きな成功を収めている方々が多くいらっしゃいますが、その多くは天賦の才によるものではなく、私たちの見えないところで多くのチャレンジと失敗を繰り返した結果ではないでしょうか。私自身も、学び続ける意志と努力を惜しまない姿勢を持ち続けたいと考えています。これらを心がけながら、社会やお客様から本当に必要とされ続ける企業を目指してまいります。

―本日はありがとうございました。

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