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新春経済講演会 第一部講演収録 共存共栄でともに「成長と進化」を目指す
事業環境の変化を見据えてセグメント方針を策定
2024年の新設住宅着工戸数は80万戸を下回る見通しで、2025年は建設コストの高止まりや人口減少に加えて、4号特例の縮小に伴う建築確認検査の一時的な遅れなどの影響により、更に減少すると見られます。こうした事業環境の変化への対応も見据えながら、本年の事業方針を策定しました(図1)。
建築資材セグメントの方針は、①木材の取り扱い強化、②2025年法律・制度改正への対応、③成長市場への対応の三つです。木材の取り扱い強化では、米国の関税や不安定な為替相場といった不透明な要素はあるものの、情勢を見極めつつ安定調達に努めるとともに、ニーズが高まっている国産材の取り組みを強化していきます。法律や制度改正への対応については、建築基準法や建築物省エネ法の改正に対する対応に加えて、「子育てグリーン住宅支援事業」をはじめとする住宅取得支援策の活用などを提案してまいります。そして、住宅市場が縮小傾向にあるなか、今後の成長が見込まれる非住宅、エネルギー、リノベーションの三つの市場への取り組みを強化していきます。
住宅セグメントの方針は、①新築マンションの高付加価値化、②一戸建住宅の高性能化、③ストック市場への対応、④建築資材事業とのシナジーの四つです。新築マンションの物件価格は上昇の一途を辿っていますが、価格に見合う付加価値の高いマンションの供給に努めます。一戸建住宅については、国による支援策を追い風にしながら、差別化が図れる商品の開発に取り組んでいきます。また、ストック市場への対応としては、マンションの中古買取再販事業を強化しているほか、今後はOB顧客物件を中心とした一戸建住宅のリノベーションにもチャレンジしていきます。そして、建築資材事業と住宅事業を有する強みを発揮し、シナジーを創出することで、取引先の皆様との協業を推進していきます。
ZEH水準を上回る住宅が今後のトレンドに
NICE GX志向型住宅パッケージを提案
今年4月から、原則全ての新築住宅に省エネ基準への適合が義務付けられますが、先行して住宅ローン控除の適用要件となっていることから、既に対応済みの事業者様が多いのではないかと思います。
一方、今年度の補正予算による「子育てグリーン住宅支援事業」では、ZEH水準を上回る断熱等性能等級6以上、一次エネルギー消費量の削減率35%以上などを要件とする、「GX志向型住宅」という区分が創設され、1戸当たり160万円の補助金が支給されます。当然コストは上がりますが、イニシャルコストを補助金で賄い、ランニングコストの低減や快適性といったメリットを得られることから、今後の住宅のトレンドになると思われます。制度の詳細が公表され次第、GX志向型住宅の要件を満たす仕様をパッケージ化してご提案していく予定です。昨年10月には、サッシやエクステリア等の販売及び施工を手掛ける㈱セレックスがナイスグループの一員となりました。外皮性能に大きく影響するサッシを含め、断熱材、高性能設備機器、太陽光発電システムなどの商材をトータルでご提案し、これからの時代に求められる高性能な家づくりに貢献していきます。
今後高まる構造信頼性へのニーズ
NICE 全棟構造計算対応のパワービルド工法
改正建築基準法も同じく4月に施行され、4号特例制度が縮小されます。これにより、建築確認の手続きが簡略化されていた木造2階建てを含む小規模建築物は、構造関係規定図書や省エネ関連の図書の提出が必要となるため、建築確認が下りるまでの期間の長期化が懸念されます。また、住宅の高性能化に伴って重量化している建物の安全性を確保するために、建物の仕様に応じて必要壁量や柱の小径が算定するように基準が見直されます。基準が厳しくなることで材積が増えることが見込まれますが、当社で試算したところ金額的な影響は軽微と見ています。なお、新基準への移行については1年間の経過措置がとられる予定です。
一方、壁量計算などの仕様規定は、構造安全性を担保するための最低限の基準であり、南海トラフ地震をはじめとする巨大地震の発生確率が高まっていくことを加味すれば、今後、許容応力度計算などの構造計算に対するニーズが高まっていくことが想定されます。ナイスグループオリジナル金物工法「パワービルド工法」は、高性能な金物による接合や、立体解析と構造計算を行う専用CADによって高い構造信頼性を実現しています。また、構造計算は構造設計事務所などに委託することが一般的で、その場合プレカット図面との整合に手間や時間を要しますが、パワービルド工法であればプレカット入力から構造計算をワンストップで行うため、打ち合わせや構造計算書の発行期間を短縮することが可能です。法改正への対応を着実に行いつつ、更なる差別化を図ることができる工法となっています。
先行き不透明な木材マーケットの変化
NICE 国産構造用集成材の供給体制整備
今後、米国における関税政策などにより需給バランスが崩れた場合、輸入材が日本に入りにくい、あるいは価格が高騰するなどの影響も想定されます。為替相場などを注視しつつ、輸入材の安定調達に努めると同時に、外的要因に左右されない国産材をいかに安定的に供給していけるかが重要となります。
当社における国産材の取り扱い材積は着実に伸びていますが、今後更に強化していくための具体策の一つが、国産構造用集成材の供給体制の整備です。昨年締結した大倉工業㈱様との協定に基づき、集成材の材料となるラミナを生産する工場を徳島県に建設しており、今年4月から稼働を予定しています(図2)。生産したラミナで大倉工業㈱様が集成材を製造し、西日本を中心に流通拡大を図っていきます。また、住宅部材のうち特に国産材比率が低かった横架材について、ウッドショック以降、国産材へシフトする動きが見られており、需要が多様化しています。当社では、輸入材はもちろんのこと、拠点によっては国産材仕様の横架材もストックし、アッセンブル供給できる体制を構築しています。
上昇する住宅価格、縮小する専有面積
NICE 付加価値の高い商品で差別化を図る
全国的に住宅価格は上昇傾向にあり、当社が供給する物件についても、マンション、一戸建住宅ともに価格が上昇している一方、面積については縮小傾向です。要因としては、総額を抑えるための面積縮小だけでなく、世帯構成の変化に対応し、DINKsや単身世帯向けの商品の開発を進めたことなどが挙げられます。今後も価格上昇が続くことを踏まえると、付加価値の高い商品開発が必要となります。当社では、「住まいは命を守るものでなければならない」という思いのもと、2024年3月末時点で累計85棟、8,398戸の免震マンションを供給してきました。今後も、免震構造を原則とするほか、来期以降に計上を予定する物件については、「ZEH-M Oriented」を標準仕様としています。
一戸建住宅では、建築基準法で定められる耐震強度の2倍を超える強度を標準採用しているほか、構造材については国産材を100%使用しています。更に、木造住宅の倒壊解析ソフトウェア「wallstat」と連携し、安全性を客観的に示すことができる仕組みを構築中です。今後、お取引先の皆様へご提案するパワービルド工法についても幅広く「wallstat」との連携を検討するなど、住宅事業で得た知見やノウハウを建築資材事業へ生かすことで、シナジーを発揮してまいります。
非住宅の木造化・木質化が今後も拡大
NICE 4階建て木造の商品開発で提案強化
近年、国と民間企業による建築物木材利用促進協定の締結が相次いでおり、特に、日本マクドナルド㈱や㈱良品計画、㈱セブン-イレブン・ジャパンといった、全国規模で店舗を展開する企業による協定が増加しています。こうした動きを受けて、ロードサイド店舗を含めた商業施設の木造化・木質化が進んでいくことが見込まれます。
木造の耐久性評価についても見直しがなされます。昨年12月に国土交通省が公表した「木造建築物の耐久性に係る評価のためのガイドライン」に基づいて、第三者機関による評価において一定の基準を満たすことで、耐用年数が現状の24年から50年に伸長されます。耐用年数が伸びることで利回りが改善し、金融機関から融資が受けやすくなることから、木造のオフィスや店舗の普及が更に拡大していくことが見込まれます。
こうした動きに対応するために、当社グループでは今後、4階建て木造建築の商品を開発し、様々な用途の建築物において木造化を提案していくことを検討しています。
需要底堅い再生可能エネルギー
NICE 住宅用から産業用まで提案強化
今年4月から、東京都や川崎市において太陽光パネルの設置義務化がスタートするなど、再生可能エネルギーの需要は今後も底堅く推移していくと見ています。昨年7月に資本業務提携契約を締結した㈱シェアリングエネルギーでは、初期費用無料で太陽光発電システムが利用できる「シェアでんき」を提供しています。提携を通じて、太陽光発電システムや蓄電池などのエネルギー関連商品の提案強化を図っていきます。
再生可能エネルギーの導入拡大に向けて、国も制度の改正を検討しています。固定価格買取制度における買い取り価格を増やし、給付期間を短くすることで、太陽光パネルなどの投資回収期間を短縮する仕組みの検討がスタートしました。現状では10年以上の回収計画となるため投資対効果が見えづらくなっていますが、この制度が実現すれば再生可能エネルギーの導入が更に拡大すると見て注目しています。また、電気代の上昇に伴い、自家消費目的で太陽光発電システムを設置するケースが増えています。当社グループのスマートパワー㈱ではシステムの提案から施工までワンストップで対応しており、これまでの請負実績は約100件にのぼり、発電容量は17,000kwを超えています。工場や倉庫などの屋根設置をご検討される際には、ぜひお声がけください。
性能向上リフォームへ手厚い補助
NICE 顧客基盤を生かしたリフォーム需要の喚起
住宅のリフォーム市場規模についても拡大傾向で、今後も堅調に推移していくと見られています。国の施策としても、特に性能向上に向けたリフォーム工事に対する補助金は手厚くなっており、国土交通省、経済産業省、環境省の三省連携による住宅省エネキャンペーンは今年も継続となり、リフォーム市場にとっては追い風となります。
当社の住宅セグメントにおいては、OB顧客基盤を生かしてリフォーム提案を行っています。例えば、約68,000戸のマンションを管理するナイスコミュニティー㈱では、居住者様向けにリフォームに関する様々な情報を掲載した冊子を定期的に配布し、リフォーム需要の喚起につなげています。今後、冊子内容の充実を図るために、リフォーム商材を扱うメーカー様や施工業者様との協業を図っていきたいと考えています。
また、中古買取再販事業の強化にも取り組んでいます。木材流通をルーツとする当社の特長を生かした木質化リノベーションによって差別化を図り、成約戸数が着実に伸長しています。今後は、建築資材事業の取引先である工事業者様との協業によって、構造計算された一戸建住宅の買取再販にも取り組んでいく予定です。
木質化による経済的な価値の向上については、客観的なデータで示していきたいと考えています。当社が所有する賃貸マンションにおける木質化リノベーションの事例について東京大学の研究室が検証したところ、木質化によって1㎡当たり約288円の賃料増加につながったとの結果が出されました。木材の情緒的な価値だけではなく、経済価値を示す事例を今後も積み重ねていきます。
新たな木材需要の創出に向けて
NICE 事業領域を住まいから暮らしへ
将来的な展開として、事業領域を住まいから暮らしへと拡大し、非建築分野での木材需要の創出を目指しています。国産針葉樹の強度を高めたオリジナル木材商品「Gywood®」によって、トラックの荷台や学習机、家具、筆記用具といった非建築分野での木材利用の可能性を追求しています。このうち、学習机については、森林環境譲与税の使用用途として、各地域の木材事業者様と連携して提案活動を行っています。
また、「Gywood®」を用いて本社ビルの外装木質化も行いました。第一期工事から1年以上が経過し、今年に入って第二期工事が完工しました(図3)。本社ビルにおいては、2022年に内装木質化も実施しており、木質化を検討する多くの事業者様にご見学いただき、その後の事業化につながっています。ぜひ一度ご見学いただき、事業者様へのご提案の場として活用していただければと思います。
おかげさまで75周年
当社は、今年で創立75周年を迎えます。これもひとえに、創業時から長きにわたる皆様方のご支援があったからこそであり、心から感謝申し上げます。昨年4月に社長に就任した際、「誠実」「成長と進化」「社会課題の解決」という三つの経営方針を掲げました。当社グループの企業活動の源泉は、皆様からの信頼に応えるという思いであり、「ナイスでなければならない」と言っていただけるよう「誠実」に対応してまいります。また、事業活動を通じて「成長」を図るとともに、既存の概念にとらわれることなく成長基盤の創造を図ることで、飛躍的な「進化」を遂げてまいります。そして、これらの活動を通じて「社会課題の解決」に貢献し、持続的な成長を目指してまいります。
今後、本日ご来場いただいたパートナーの皆様との連携を更に深め、共存共栄を図りながら皆様とともに「成長と進化」を遂げてまいりたいと思います。引き続き、変わらぬご支援とご協力を賜りますようお願い申し上げます。