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ナイスビジネスレポート編集部 地球温暖化防止月間 脱炭素社会へ住宅・建築物での取り組み加速
1997年12月の京都議定書採択を受けて、1998年より12月は「地球温暖化防止月間」と定められ、国民、事業者、行政が一体となって普及啓発事業をはじめとした様々な取り組みが行われています。今回は、改めて地球温暖化問題について振り返るとともに、脱炭素社会の実現に向けて大きな役割を担う住宅・建築物分野の動向をまとめました。
「地球沸騰の時代」が到来
気象庁が発行する「気象業務はいま2024」によると、世界の平均気温は様々な変動を繰り返しながら上昇を続けています(図1)。2023年は記録的な高温の1年となり、世界の平均気温は統計を開始した1891年以降最も高くなりました。2023年7月には、国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏が「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が到来した」と述べ、気候変動による最悪の事態の回避を訴えました。
また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表した第6次評価報告書統合報告書では、地球温暖化の原因は人間の影響であると初めて断定したうえで、世界の平均気温は工業化以前(1850~1900年)に比べ既に1.1℃上昇しており、短期のうちに1.5℃上昇に到達する可能性が高いことが示されました。
こうした状況の中、世界各国は現在、2015年に採択されたパリ協定に基づいて温室効果ガスの排出削減に努めています。本協定では、2020年以降の温室効果ガス削減に関する世界的な取り決めが示されており、世界共通の長期目標として「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求」することや、「今世紀後半のカーボンニュートラルの実現」が掲げられています(図2)。資源エネルギー庁によれば、こうした目標の達成に向けて、現在は日本政府を含む120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、温暖化対策に向けた取り組みを加速させています。
カーボンニュートラル実現に向けた住宅・建築業界の動向
日本では、2020年に「2050年カーボンニュートラル」を宣言、翌年に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を掲げ、産業政策・エネルギー政策の両面から、成長が期待される14の重要分野における実行計画が策定されています。このうち、「住宅・建築物・次世代電力マネジメント」や「食料・農林水産業」等の分野においては、住宅・建築物の省エネ化や木材利用の促進による炭素の吸収・固定の推進等が方針として示されており、具体的な施策が順次推進されています。
住宅・建築物の省エネ化 ―エネルギー消費量の削減―
〇省エネ基準適合義務化 国交省
2025年4月から、原則全ての新築住宅・建築物に、省エネ基準への適合が義務付けられ、建築確認手続きの中で省エネ基準への適合性審査が行われます。2030年にはZEH水準の義務化が目指されており、今後も省エネ基準の段階的な引き上げが予定されています。
〇住宅トップランナー基準の見直し 国交省 経産省
大手住宅事業者に対し、一般よりも高い省エネ性能の目標を課し、省エネ性能の底上げを図る同制度の見直しが適宜行われています。10月には、2027年度を目標年度として、「太陽光発電の設置が合理的な住宅」における設置率の目標を、建売戸建て住宅で37.5%、注文戸建て住宅で87.5%とする方針が示されました。
〇建築物の省エネ性能表示制度 国交省
新築建築物の販売・賃貸の広告等における省エネ性能ラベルの表示が4月から義務付けられました。加えて、省エネ性能の把握が困難な既存住宅を対象に、省エネ性能の向上に資する改修等を行った部位を表示する「省エネ部位ラベル」を新たに設定し、11月より運用が開始されています。
木材利用の促進 ―二酸化炭素の吸収・固定―
〇森林環境税・森林環境譲与税 林野庁
今年度より国税として一人当たり年額1,000円が「森林環境税」として賦課徴収され、国を通して「森林環境譲与税」として全国全ての市町村と都道府県に配分される仕組みが開始されました。「森林環境譲与税」は、森林整備やその促進のための取り組みへの活用が義務付けられます。
〇都市(まち)の木造化推進法 林野庁
2021年10月、非住宅分野や中高層建築物の木造率の向上等を目的に、「都市(まち)の木造化推進法」が施行されました。これにより、木材利用促進の対象が民間建築物を含めた建築物一般に拡大されたほか、国または地方公共団体と事業者等が建築物木材利用促進協定を締結できる仕組みが設けられ、活用が進んでいます。
〇建築物への木材利用に係る評価ガイダンス 林野庁
近年のESG(環境、社会、ガバナンス)を考慮する投融資の拡大等を受け、建築物への木材利用の効果が適切かつ積極的に評価されるような環境を整備することを目的として、建築物への木材利用に関する評価項目や開示の例等をまとめたガイダンスが策定されました。
ナイスグループ 環境方針に基づき脱炭素社会の実現に貢献
ナイスグループは、日本の潤沢な資源であり、地球温暖化対策として重要な役割を担う木材の取り扱いを強化し、建築物の木造化・木質化の推進など、積極的な利用の促進を図るとともに、良質な住宅の供給等を通じて環境問題の解決に取り組む方針を掲げ、2024年4月に「環境方針」を策定しました(図3)。ここでは、同方針の概要と、それに基づく当社の主要な活動についてご紹介します。
主要な活動
国産木材の積極的な利活用を推進(適切な森林管理と資源の循環利用の促進)
社有林「ナイスの森®」の保全・育成から、素材流通、製材、加工、製品流通、設計、施工、住宅供給など、建築物の木造化・木質化のサプライチェーンにおけるネットワークを生かし、グループ各社が連携することで森林資源の循環利用を促進しています。加えて、国産針葉樹の大径材を活用したオリジナル商品「ObiRED®」「Gywood®」といった素材の開発・普及等を通じて、国産木材の需要拡大を推進しており、建築分野以外の暮らしの領域での木材の利活用の拡大にも取り組んでいます。
消費電力の再生可能エネルギー化を促進(環境負荷の最小化)
温室効果ガス排出量をはじめとした事業活動に伴う環境への影響を把握し、負荷の低減に努めています。温室効果ガス排出量の削減については、拠点への再エネ由来電力やエコカーの導入などを進めています。加えて当社グループでは、全国8カ所、総面積2032.2ヘクタールに及ぶ社有林「ナイスの森®」の保全・育成を行っており、2024年3月期では、当社グループにおける温室効果ガス排出量(Scope1・Scope2)について、「ナイスの森®」の二酸化炭素吸収量とオフセットすることで、カーボンニュートラルを達成しました。
環境に配慮した商品やサービスの推進(高性能住宅の普及によるエネルギー消費量の削減)
省エネ計算や申請代行をはじめとする工務店様向けの住まいづくり応援サービス「ナイスサポートシステム」を通じた家づくりのサポートや、ZEHに不可欠な建材・住宅設備機器等のトータル提案により、高性能住宅の普及促進に努めています。7月には太陽光発電システムの第三者所有(PPA)サービス「シェアでんき」を提供する㈱シェアリングエネルギーと資本業務提携契約を締結しました。加えて、10月にはセレックスホールディングス㈱の株式を取得し、サッシやエクステリアまで取り扱い商品を拡充するなど、省エネ・再エネ商品の取り扱いを一層強化しています。
省エネ・健康・快適な住まいの供給(高性能住宅の普及によるエネルギー消費量の削減)
住まいの断熱性能を高め、快適かつ消費エネルギー量が抑えられる暮らしを提供するべく、当社が分譲する一戸建住宅は、ZEH水準の断熱性能を標準としています。また、2023年からは、構造部に仕様する木材を全て国産材とすることで、より環境性能を高めています。
マンションについては、断熱性能の向上と効率的な設備等の導入により、2026年3月期に供給する物件から、ZEH-M Orientedを導入していく方針です。