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ニュース&レポート

ナイスビジネスレポート編集部 普及が見込まれる自家消費型太陽光発電

 脱炭素社会の実現に向け、国内における太陽光発電システムの導入量は着実に拡大しています。そうした中、固定価格買取制度に基づく買取価格の減少や昨今のエネルギー価格の高騰などを要因として、自家消費型の太陽光発電が今後普及することが予測されています。今回は、太陽光発電の導入が拡大してきた背景に触れながら、初期投資ゼロで設置できる仕組みについてご紹介します。

年々導入量が拡大している太陽光発電

 2021年に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」では、2030年度の電源構成として再エネ導入目標を3638%としており、そのうち太陽光発電システムは1416%とされています。2030年度温室効果ガス削減目標の達成の鍵となる太陽光発電システムは、国内における導入量が着実に拡大しており、資源エネルギー庁が公表した「令和5年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2024)」によると、2022年度末の導入量は累計で7,394kwに達したほか、企業による技術開発や導入量の増加により、設備コストも年々低下しています(図1)。

 太陽光発電が急速に拡大した要因として、2012年に開始された固定価格買取制度(FITFIP制度)が挙げられます。再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する本制度により、企業や個人において太陽光発電システムの設置が進みました。一方、同制度に基づく買取価格は年々引き下げられており、現在は当初と比較して売電収入が得づらい状況となっています。

太陽光発電の国内導入量とシステム価格の推移

初期費用0円で自家消費型太陽光発電の導入が可能

 FIT制度における買取価格の引き下げや昨今の電気料金の高騰等を背景に、電気代の削減効果が見込める自家消費型の太陽光発電に対する需要が高まっています。自家消費型の太陽光発電は、設備の保有者と契約形態に応じて「自己所有モデル」「オンサイトPPAモデル」「リースモデル」の三つに分類されます(図2)。

 自社や個人で太陽光発電設備を購入する「自己所有モデル」では、サービス料がかからない等のメリットがあるものの、初期投資が大きい点が懸念点として挙げられます。一方、「オンサイトPPAモデル」と「リースモデル」の二つの設置方法では、初期投資をかけずに太陽光発電を導入することが可能です(図3)。「オンサイトPPAモデル」とは、発電事業者が、需要家の敷地内に太陽光発電システムを設置し、所有・維持管理した上で、発電された電気を需要家に供給する仕組みです。リース事業者が需要家の敷地内に太陽光発電設備を設置する「リースモデル」と同様に、維持管理の費用も発生しません。

 これらの仕組みによって、目的に応じて導入形態を選択できることから、太陽光発電の導入は引き続き拡大することが見込まれます。

自家消費型太陽光発電の携帯.

各モデルのメリットデメリット

太陽光パネルの再資源化が今後の課題

 こうした中、政府による太陽光パネルのリユース・リサイクルの促進に向けた動きも見られています。経済産業省によると、太陽光パネルの年間排出量は20352037年にピークを迎え、年間約1728万トン程度になると予測されています。そこで、今後の使用済み太陽光発電設備の排出量の増加に備え、計画的に廃棄物としての処理量を削減し再資源化を促進するため、経済産業省・環境省が共同事務局となり、「再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルのあり方に関する検討会」が設置されました。昨年4月からこれまで計7回にわたって議論が行われ、今年1月には、議論された事項の方向性に基づく中間取りまとめが公表されました。本取りまとめでは、地域の実情を踏まえたエリア単位での効率的な廃棄・リサイクルの実現、循環経済の考え方を踏まえた事業性を有するリサイクルの実現、デジタル技術等の効率的な活用によるコストの最小化などを基本的な方向性に据えて、論点が整理されています。

 また、本取りまとめを踏まえ、環境省は8月22日、「太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン(第三版)」を公表しました(図4)。本ガイドラインでは、太陽光発電設備の所有者や解体・撤去業者における対応、リサイクルや埋め立て処分などの使用済み太陽電池モジュールの処理、リユースにおける実施事項や関連法制度への対応などについて、具体的な方針が示されています。同省は、本ガイドラインが広く周知されることで、循環型社会の形成や太陽光発電設備の普及による脱炭素社会の実現に資することが期待されると述べています。

ガイドラインの構成

>太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン

自治体による再エネ設備設置義務化の取り組みを紹介

 脱炭素化に向けた動きが加速する中、各自治体における太陽光発電システム設置義務化の動きが広がりを見せています。義務化の運用が開始もしくは予定されている自治体に焦点を当て、制度の概要等についてご紹介します。

東京都

国内初となる一戸建住宅への設置義務化

 東京都では、2030年までに都内の温室効果ガスを50%削減する「カーボンハーフ」の実現に向けて、202212月に環境確保条例を改正し、新築住宅などへの太陽光発電設備の設置や断熱・省エネ性能の確保などを義務付ける「建築物環境報告書制度」を創設しました。同制度の義務対象者は、延べ床面積の合計で年間20,000㎡以上を都内で供給する大手ハウスメーカー等の事業者で、年間供給5,000㎡以上の事業者についても、任意で参加申請をすることが可能です(図1)。対象となる建物は、1棟当たりの延べ床面積2,000㎡未満の住宅等の新築建築物で、一戸建住宅において太陽光発電設備の設置が義務付けられるのは、全国で初となります。

制度対象事業者の種類

>東京都 太陽光ポータル

    

川崎市

民生部門におけるCO2排出削減を図る

 川崎市では2023年3月、一戸建住宅を含む新築建築物に太陽光発電設備等の設置を義務付ける「川崎市地球温暖化対策等推進条例」の改正案が可決され、「建築物太陽光発電設備等総合促進事業」が新たに創設されました(図2)。これにより、延べ床面積2,000㎡以上の特定建築物を新築・増築する建築主に対して、太陽光発電設備等の設置が義務付けられます。加えて、延べ床面積2,000㎡未満の新築建築物を、市内において年間一定量以上建築、供給する建築事業者に対して、太陽光発電設備の設置が義務付けられます。

建築物太陽光発電設備等総合促進事業.

>川崎市地球温暖化対策等推進条例

    

京都府

全国に先駆けて設置義務化の運用を開始

 京都府では、「京都府地球温暖化対策条例」及び「京都府再生可能エネルギーの導入等の促進に関する条例」により、一定規模以上の建築物を新築・増築する建築主に対して、再生可能エネルギー設備の導入及び府内産木材の使用を義務付けています。具体的には、2022年4月より、延べ床面積300㎡以上2,000㎡未満の準特定建築物に対して、再エネ設備導入が義務付けられているほか、延べ床面積2,000㎡以上の特定建築物については、再生可能エネルギー設備導入に加えて府内産木材の使用が義務付けられています。自治体による建築物への再エネ設備設置義務化の運用が開始されたのは、全国で初となります。

対象となる建築物及び建築主の義務

>京都府再生可能エネルギーの導入等の促進に関する条例

     

群馬県

2050年に向けた「ぐんま5つのゼロ宣言」

 群馬県では、様々な環境問題を2050年までに解決し、災害に強く、持続可能な社会を構築するとともに、県民の幸福度を向上させるため、「ぐんま5つのゼロ宣言」を掲げています。同宣言における取り組みの一つとして、再生可能エネルギーの導入促進が位置付けられ、2023年4月以降、延べ床面積2,000㎡以上の特定建築物を新築、増築または改築する建築主に対して、再生可能エネルギー設備の導入が義務付けられています(図4)。また、延べ床面積に60MJを乗じた数値が、設置義務量の下限値として設定されています。

再エネ設備導入に関する義務規定

「ぐんま5つのゼロ宣言」実現条例

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