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防災の日特集 重要性が高まる自然災害に対する日頃の備え
毎年9月1日は、災害への認識を深め、これに対処する心構えを準備するために「防災の日」と定められています。今回は、改めて自然災害に対する備えの重要性について考える機会とするため、今年発生した「令和6年能登半島地震」や、初めて発表された「南海トラフ地震臨時情報」などについてまとめました。また、激甚化・頻発化する気象災害と地球温暖化の関連性について示された研究内容についてもご紹介します。
切迫性が高まる大規模地震の発生
「令和6年能登半島地震」
最大震度7、大津波警報を発表
1月1日16時10分、石川県能登地方の深さ16㎞(暫定値)を震源とするマグニチュード7.6(暫定値)の地震が発生し、石川県の輪島市及び志賀町で震度7を観測したほか、北海道から九州地方にかけて震度6強から1を観測しました。
また、本地震によって石川県能登に対して大津波警報が、山形県から福井県及び兵庫県北部に対して津波警報が発表され、北海道から九州地方にかけて、日本海沿岸を中心に津波が観測されました。加えて、現地調査によって石川県珠洲市や能登町で4m以上の津波の浸水高、新潟県上越市で5m以上の遡上高が確認されました。
多様な応急仮設住宅による被災者支援
避難者の方々に対する応急的な住まいに関する支援としては、「応急仮設住宅(建設型)」のほかに、民間賃貸住宅を借り上げて供与する「賃貸型応急住宅(みなし仮設)」、「公営住宅等の提供」等が順次手配されてきました。このうち、応急仮設住宅(建設型)については、8月13日時点で6,742戸が着工しており、5,598戸が完成しています。ムービングハウス、トレーラーハウス、プレハブなど多様な応急仮設住宅が建設されているほか、里山里海景観に配慮した木造長屋タイプのまちづくり型や、賃貸型応急仮設住宅等で生活する被災者がふるさとに回帰できるように木造戸建てタイプのふるさと回帰型の建設も進められています(図1)。
「南海トラフ地震臨時情報」
「巨大地震注意」で1週間の注意を呼びかけ
8月8日16時43分、日向灘の深さ31㎞(暫定値)を震源とするマグニチュード7.1(暫定値)の地震が発生し、宮崎県の日南市で震度6弱を観測したほか、東海地方から奄美群島にかけて震度5強から1を観測しました。
地震発生を受けて、同日17時に「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」が初めて発表されました。これは、南海トラフ沿いで異常な現象が観測され、その現象が南海トラフ沿いの大規模な地震と関連するかどうか調査を開始した場合などに発表されるものです。その後、「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」の臨時会合における調査結果を受けて、想定震源域内のプレート境界においてマグニチュード8.0以上の地震が発生したと評価した場合の「巨大地震警戒」、同境界においてマグニチュード7.0以上8.0未満の地震が発生したと評価した場合などの「巨大地震注意」、いずれにも当てはまらないと評価した場合の「調査終了」のいずれかのキーワードを付した臨時情報が発表されます(図2)。
調査の結果、南海トラフ地震の想定震源域内において、大規模地震の発生可能性が平常時と比べて相対的に高まっているとして、同日19時15分に「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されました。最大規模の地震が発生した場合、関東地方から九州地方にかけて広い範囲で強い揺れが、また、関東地方から沖縄地方にかけて太平洋沿岸で高い津波が想定されることから、8日の地震発生から1週間、政府や自治体などからの呼びかけ等に応じた防災対応をとるよう注意が呼びかけられました。
平常時でも発生確率は70~80%
「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の発表後、南海トラフ沿いの地殻活動の推移について注意深く監視が行われた結果、8日の地震発生後、南海トラフ地震の想定震源域ではプレート境界の固着状況に特段の変化を示すような地震活動や地殻活動は観測されませんでした。地震の発生から1週間が経過したことから、8月15日17時をもって「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の発表に伴う政府としての特別な注意の呼びかけが終了しました。
一方で、過去の世界的な事例では、大規模地震が発生する可能性は最初の地震の発生直後ほど高く、時間の経過とともにその可能性が低下していくものの、最初の地震から1週間を経過した後に大規模地震が発生した事例もあります。また、南海トラフ沿いの大規模地震は、平常時においても今後30年以内に発生する確率が70~80%とされているほか、昭和東南海地震・昭和南海地震の発生から約80年を経過していることからも、切迫性が高い状態であると言われています。政府は、南海トラフ沿いにおいて、いつ大規模地震が発生してもおかしくないことに留意し、日頃から地震への備えを引き続き実施するよう呼びかけています。
「国土強靭化年次計画2024」
住宅・建築物の耐震化を更に促進
政府は、近い将来に発生する可能性が高い大規模地震をはじめ、自然災害による被害を最小限に抑えるための対策を講じ、自然災害に強い国づくりを目指す「国土強靭化」の取り組みを推進しています。7月26日には、2024年度の国土強靭化の具体的な取り組みについて定めた「国土強靭化年次計画2024」が決定されました。本計画では、国土強靭化基本計画で定められた35の「起きてはならない最悪の事態」を回避するための施策グループについて、推進方法や主要施策などが示されています。
このうち、住宅・建築物に関連する主要施策として、大規模地震に伴う、住宅・建築物・不特定多数が集まる施設等の複合的・大規模倒壊による多数の死傷者の発生を防ぐために、住宅・建築物の耐震化の促進や学校施設の防災機能強化、老朽化対策等に取り組むとしています。具体的には、耐震化の必要性に対する所有者の認識の向上を図るとともに、住宅や耐震診断義務付け対象建築物の耐震改修等に対する支援措置や、耐震性に優れた木造建築物の建設、CLTを含む新工法や金融商品の開発、老朽化した公営住宅の建て替え、空き家の除却や適切な管理の促進等、あらゆる手法を組み合わせて耐震化を進める方針です。
また、災害時に避難所としての機能を果たす学校施設、公民館等の社会教育施設、不特定多数の人が集まる文化施設等の耐進化が推進されます。更に、発生が想定される南海トラフ地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震、中部圏・近畿圏直下地震等の巨大地震については、最新の知見等を踏まえた人的・物的・経済的被害想定や見直しを定期的に行い、これに基づいて具体化された対策について、関係機関等が連携して推進する方針が示されています。
地球温暖化に伴う気象災害の激甚化・頻発化
増加傾向にある雨の強度と頻度
近年、異常気象は激甚化・頻発化しており、水害や土砂災害といった気象災害をもたらす豪雨について、雨の強度や頻度などが長期的な傾向として変化していると言われています。気象庁の観測によれば、1976年以降の統計期間において最初の10年と直近の10年を比較すると、1時間降水量50㎜以上の短時間強雨の発生頻度は約1.5倍に、1日の降水量が200㎜以上の大雨を観測した日数は約1.6倍に増加しています。
2023年も、梅雨前線による大雨や台風などの影響で、全国各地において河川の氾濫による浸水被害等のほか、土砂災害や車両水没等による人的被害が発生しました。
地球温暖化による影響を定量的に研究
こうした気象災害をもたらす大雨や短時間豪雨の頻発化の背景には、自然変動の影響に加えて、地球温暖化の影響があると考えられています。気象庁によると、2023年の日本の平均気温の基準値(1991~2020年の30年平均値)からの偏差は+1.29℃で、1898年の統計開始以降、2020年を上回り最も高い値となりました(図3)。
文部科学省気候変動予測先端研究プログラムでは、こうした地球温暖化が異常気象に与える影響を定量化するための研究を行っています。これは、温暖化した気候状態と温暖化しなかった気候状態について、大量の計算結果をつくり出して比較する「イベント・アトリビューション」という手法を用いて実施されるものです。具体的な取り組みの一環として、2023年6月から7月上旬の大雨及び7月下旬から8月上旬にかけての記録的な高温を対象とした研究が実施されました。この結果、6月から7月上旬の日本全国の線状降水帯の総数が、地球温暖化によって約1.5倍に増加していたと見積もられたほか、7月9~10日に発生した九州北部の大雨については、地球温暖化の影響で総雨量が約16%増加していたことが確認されました。また、7月下旬から8月上旬にかけての記録的な高温については、地球温暖化の影響が無かったと仮定した状況下では、その他の気候条件が同等であっても発生し得ない事例であったことが示されました。
分かりやすい防災気象情報を検討
これらの気象災害に対して、その危険度や取るべき避難行動を直感的に理解できるよう、災害の危険性について5段階の「警戒レベル」が導入されています。一方、各警戒レベルに相当する防災気象情報の種類が多く名称が統一されていないなど、複雑で分かりづらいといった指摘もありました。こうした状況を踏まえ、気象庁及び国土交通省は、2022年1月より「防災気象情報に関する検討会」を8回にわたり開催しました。
同検討会では、情報を体系的に整理して災害の危険度を分かりやすく伝えるための見直しに向けた議論がなされ、このたび検討結果が取りまとめられました。
取りまとめによると、警戒レベル相当情報の名称について、「氾濫」「大雨」「土砂災害」「高潮」の四つのキーワードに、警戒レベルの数値及び「警報」等の名称を付記することで統一されています(図4)。また、従来は「特別警報」「警報」「注意報」のみでしたが、新たに「危険警報」を設け、警戒レベル4に相当させる案が示されています。
気象庁及び国土交通省は、現行の情報から大きな変更を伴う案となるため、具体的な運用に向けた検討を継続するとともに、情報利用者に対する周知活動を徹底していく考えです。