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特別インタビュー ダイキングループ経営理念 ~事業モデルと組織・人材マネジメント~ ダイキン工業株式会社 専務執行役員 舩田 聡 氏

 グローバルな空調専業メーカーであるダイキン工業株式会社は、今年で創業100周年を迎えます。今回は、専務執行役員の舩田聡氏に、100周年を機に策定された新たなグループ経営理念や同社が有する強みなどについて伺いました。

ダイキン工業 舩田氏

強固な販売網がダイキン工業の礎

―御社は今年で創業100周年を迎えられました。改めて、御社の歴史についてお聞かせください。

舩田 1924年に大阪金属工業所として創業し、金属加工の会社ながら化学の研究開発に注力し、1935年にフロンの生産に日本で初めて成功しました。フロン式冷凍機とフッ素樹脂などを独自開発したことで、現在の主力事業である空調事業の基礎をつくり上げました。1970年には滋賀製作所を新設し、家庭用ルームエアコンの生産を本格的に開始しました。その後、1973年に発生した第一次オイルショックによって工場が機能せず、大幅な過剰人員を抱える事態となりましたが、「人員整理回避宣言」が出され、製造部門から販売部門へ大量配置転換がなされるなど、雇用の維持と会社の存続が図られました。工場が稼働しないのであれば、自分たちで販売して工場を稼働させようということで、販売会社を順次設立していきました。この全社一丸となった取り組みによって、販売部門に異動した従業員たちが日本国内の強固な販売網を築き上げていきました。これが、当社の礎となっています。

―海外にも積極的に進出され、グローバル企業へと発展されてきました。

舩田 バブル経済崩壊後、家庭用ルームエアコンや工場・ビル用のセントラル空調の部門は苦戦を強いられており、国内の空調機市場は既に成熟していたことから、海外市場に着目しました。当時、海外では米国を除いて空調機が普及しておらず、業務用から家庭用、工場・ビル用まで幅広く扱っているのは当社を含めて2社しかなかったため、この三つの部門の力を結集すれば世界トップの総合空調機メーカーになれると考えました。「空調三本柱計画」を策定するとともに、この計画を実行性のあるものにするために、中国進出や欧州での拡大、海外M&Aなどを実行し、グローバル№1に向けた基盤を築いてきました。厳しい環境の中、思い切ってリスクを取る決断を繰り返してきたことで、これまで発展し続けてこられたと考えています。

四つのポイントでグループ経営理念を見直し

―創業100周年を機に、新たなグループ経営理念を策定されました。

舩田 グループ経営理念の見直しに当たっては、「企業経営を取り巻く環境の変化」「当社のこれまでの進化と外部からの期待の変化」「20・30年先を考えた時に、当社が目指す役割、ありたい姿」「時代が変わっても継承すべき強み・競争力の源泉」の四つをポイントとしました。

 2002年に従来のグループ経営理念を策定してから20年以上が経過し、この間、当社グループは170を超える国や地域で事業を展開するグローバル企業へと発展してきました。同時に、環境対応と事業拡大の両立を掲げ、環境技術を軸とした差別化商品やシステムを世界中に展開し、環境先進企業として社会から認めていただけるようになりました。一方、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。今後、企業に求められるのは、収益による経済価値だけではなく、環境や社会にどれだけ貢献できるかという社会価値の向上であり、こうした外部の期待や要請に真摯に応えていくことが企業の責任であり、使命であると考えています。また、20年、30年先を見据えて、当社が目指す役割やありたい姿として、社会への貢献や新たな価値の提供を目指し続ける企業姿勢を重点にしています。更に、当社が培ってきた強みや競争力のベースには、当社が大切にしてきた価値観や考え方があり、時代が変わっても継承すべきものを明確にしました。

 具体的には、ダイキングループのありたい姿を「人の力で、豊かな未来を追求する」と定義しました(図)。世界中の人に快適と安心を提供し続けることがダイキンの使命・責任であり、人が持つ無限の可能性を信じ、情熱を結集して、新たな技術を生み出し、持続可能で豊かな未来を切り拓いていくという意志を示しています。

ダイキングループ経営理念 図

 その上で、「社会課題の解決に取り組み、企業価値を高める」「『次の欲しい』を先取りし、新たな価値を創造する」「世界をリードする技術で、理想の社会を実現する」「社会との関係を見つめ、行動し、信頼される企業であり続ける」「地球規模で考え、柔軟で活力に満ちたグローバルグループであり続ける」「『人を基軸におく経営』を実践し、挑戦するチャンスにあふれ、社員が挑戦・成長し続けられる環境を提供する」という六つの観点で構成されています。

ダイキンの強み① -事業モデル-

―創業から100年、成長・発展し続けてきた御社の強みについてお聞かせください。

舩田 当社の強みの一つは「事業モデル」です。空調事業では、家庭用ルームエアコンから大型のセントラル空調まで、空調総合メーカーとして幅広くラインアップを取り揃え、直販を主軸とした独自の販売・サービス網を有しています。また、空調製品の開発から生産、販売・サービスまでのバリューチェーンを自社グループ内で完結する垂直統合型の事業モデルを、世界各地で展開しています。更に、地産地消を柱とした国や地域ごとの自律分散型の体制を構築しています。コロナ禍で世界的なサプライチェーンの分断が起こった際にも、当社の海外拠点が自律的に連携したことで、欠品を生じさせることなく対応することができました。

 ただし、経営環境が変化していく中で、これらの競争優位性が今後も続く保証がないことを念頭に置く必要があります。これまで強みであったものが弱みに転じるリスクが潜んでいないか、異業種の参入によって自分たちが優位に戦っていたゲームのルールが変わることはないかなど、自社の事業モデルを冷静に見つめ直すことが非常に重要です。先行き不透明な時代に、10年後、20年後の世界を見通すことはできませんが、常に新しいものを生み出し、事業モデルを変革していかなければ生き残れないことは間違いありません。絶えず新陳代謝を繰り返すことが、持続的な成長・発展を遂げる組織の必要条件だと考えています。

ダイキンの強み② -組織・人材マネジメント-

―「人を基軸におく経営」に象徴されるように、人材マネジメントに力を入れていらっしゃいます。どのような思いが込められているのでしょうか。

舩田 「人を基軸におく経営」は、創業以来、ダイキンの長年の企業活動の中で脈々と培われてきた暗黙知であり、企業文化とも言えるものです。ベースにあるのは、企業の競争力の源泉は人であり、従業員一人ひとりの成長の総和が企業の発展の基盤であるという信念です。その上で、働く人の意欲と納得性を引き出し、自らの個性を磨き高め、能力を最大限に発揮して成長することによって、組織としての力を徹底して高めていこうとする考え方です。これは、一人ひとりが持つ多様な個性や強みを、組織の力に生かすダイバーシティ・マネジメントそのものです。企業経営が「人の営み」である限り、そこで働く人の意欲や納得性を向上させない限り成り立ちません。競争力の源泉である人に対して本気で向き合い、挑戦と成長を加速させます。

 また、「人を基軸におく経営」をはじめとする企業文化は、他社にはない独自性として競争力の源泉となっています。「企業文化は戦略に勝る」と言われますが、100年を超える長寿企業に共通するのは、強い企業文化が組織のDNAに刷り込まれていることです。その一つが、失敗を咎めず、チャレンジ精神を育む「性善説のマネジメント」です。「性悪説」に基づいて監視するガバナンスの観点を否定するものではありませんが、攻めの経営におけるマネジメントに関しては、人の能力や可能性を信じて「性善説」に立つことが、個人のモチベーションを高め、能力の発揮につながると考えています。重要なことは、数を打って失敗から学ぶ組織文化を育むことです。当社の社是の一つに「進取の経営」という言葉があります。進取とは、自ら進んで物事に取り組むことであり、当社では従来から社員の自主性やチャレンジ精神を大切にしてきました。

―組織運営については、どのように取り組まれているのでしょうか。

舩田 組織マネジメントにおいて大切にしていることは、「オープンで柔軟な組織運営」です。当社では、幹部やリーダーが現場の第一線に入り込み、社員の声を聴き、議論した上で意思決定をしています。そして、意思決定したことについては、議論に参加した全員が参画します。こうした当社独自の組織運営がメンバーの納得性を高め、課題に挑戦し続ける現場力の強さにつながっていると思います。
 そして、もう一つ大切にしていることは「実行力」です。当社では、「一流の戦略と二流の実行力」ではなく、「二流の戦略と一流の実行力」という考え方が重視されています。一流の実行力とは、「解くべき問いを立てる力」と「一歩前に踏み出す力」の掛け算だと考えています。解くべき問いを見極めることは、企業経営にとって非常に重要なことです。言い換えれば、解く必要のない問いを捨てる力です。そして、解くべき問いを見定めたら、いち早く一歩前に踏み出すことが必要です。グローバル競争の最前線では、意思決定のスピードが勝負を左右する「先手必勝」「先発優位」の様相が強まっているように感じます。

ダイキンの強み③ -経営幹部・リーダーに求められるもの-

―御社において、経営幹部やリーダーの皆様にはどのような要素が求められるのでしょうか。

舩田 一つは、経済学者のケインズが提唱した「アニマルスピリット」です。これは、困難を前に委縮することなく、真正面から挑んでいく野心的な意欲であり、意志の強さのことです。グローバル競争を勝ち抜いていくためには、タフネスや貪欲さ、修羅場を生き抜くための生存本能のようなものが必要です。アニマルスピリットに溢れた経営幹部やリーダーが組織を鼓舞し、率いていく必要があると考えています。また、先ほど申し上げた「解くべき問いを立てる力」も求められます。顧客や市場の変化、競合他社の動き、技術の変化などを鋭く察知していかなければ、企業が永続的に成長・発展していくことは難しいと思います。その上で、組織の目的と目標を示すことが必要ですが、重要なことは枝葉ではなく幹を描く大きな構想力を持つことです。そして、経営環境の変化が激しい時代において、「正解のないことに答えを出す決断力」が必要です。決断の基準としているのは「六分四分の理」です。どちらか一方に六分の理があれば実行に移し、必要であれば戦略を軌道修正するという考え方です。戦略が有効かどうか検証する唯一の方法は、実行してみることです。

―企業を取り巻く環境が目まぐるしく変化する時代において、どのようなリーダーシップが必要とお考えでしょうか。

舩田 過去の成功体験を自ら否定することです。失敗の本質は過去の成功体験にあるとよく言われますが、それは競争の土俵が変化していくからです。慣れ親しんだものを捨てるのは難しいことですが、日々のルーティン業務に埋没していると、いずれ新陳代謝の機能が低下して組織の老化が始まります。これまでにない新しい考え方や手法を生かすためには、それに応じた新しい戦略や組織の変革が求められるということです。また、今の時代、異業種からの参入などで業界の勢力図が一気に変わる可能性もあり、全ての経営資源を自社だけで賄うことはできません。外部との連携で自社に不足している技術や経営資源を積極的に補うことが必要となります。多様なパートナーとの協創によるオープンイノベーションを、積極果敢に進めていきます。

 そして、何よりも重要なことは「人材育成」です。経営幹部やリーダーは多様な人材を束ねて結果を出すことが求められます。どのような気持ちで、どのような悩みを持って働いているのか、一人ひとりの心のひだを読み取ろうとする感性がなければ、人を動かすことはできません。従業員一人ひとりの成長と帰属意識が、企業を発展させる原動力であることは間違いないと思います。

―最後に、業界の皆様へメッセージをお願いします。

舩田 ウィリアム・ウォードという教育者の言葉に、「凡庸な教師は指示をする。良い教師は説明をする。優れた教師は範を示す。偉大な教師は心に火を灯す」というものがあります。社員の心に火を灯せるように、情熱を持って一人ひとりに接することこそが、当社が大切にしてきた「人を基軸におく経営」の根幹であると思います。今後も更に成長・発展し、皆様とともに飛躍していきたいと考えています。


―本日はありがとうございました。

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