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森林・林業白書 特集 花粉と森林 花粉症対策の加速化で新たな森林づくりへ
林野庁は6月4日、2023年度の「森林・林業白書」を公表しました。特集では、「花粉と森林」が取り上げられています。今回は、日本の森林資源の歴史や花粉症対策の具体的な取り組みなどについてまとめました。
人工林の約4割を占めるスギ
日本国内では、木材利用の拡大に伴う天然資源の減少に対応して、北山(京都府)や吉野(奈良県)等でスギなどの植林による林業が発生し、資源確保や産業育成に向けて全国各地でスギの林業地が形成されました。スギは、幅広い立地で生育可能で成長が早い、通直で柔らかく加工がしやすい、面積当たりの収穫量が多いといった利点があり、建築物や船、生活用具等の幅広い用途に利用できることから、全国で造林技術が発達しました。そして第二次大戦後、国土保全と旺盛な木材需要への対応などの社会的要請からスギの人工林造成が進み、現在では人工林の約4割を占める主要林業樹種となっています。
一方、スギを原因とする花粉症が1964年に初めて確認されて以降、その有病率は増加の一途を辿っています。自然に治癒することが少なく患者数が蓄積されていくことに加えて、花粉症の発症や悪化には、スギ人工林の成長に伴う花粉飛散量の増加や大気汚染、食生活の変化等が影響していることも指摘されています。
こうした状況を踏まえて、1990年に「花粉症に関する関係省庁担当者連絡会議」が設置され、花粉の少ないスギ品種の開発などの取り組みが進められてきました。
社会問題となる花粉症への対策を強化
2023年4月に「花粉症に関する関係閣僚会議」が設置され、同年5月に「花粉症対策の全体像」が決定されました。これにより、花粉症の発生源であるスギ人工林を減少させる「発生源対策」、飛散防止剤の開発等の「飛散対策」、治療薬の増産等の「発症・曝露対策」など、社会問題となっている花粉症を解決するための道筋が示されました。
同年10月には、「花粉症対策の全体像」が想定している期間の初期段階から集中的に実施すべき対応について、「花粉症対策初期集中対応パッケージ」として取りまとめられました。このうち、「発生源対策」においては、10年後にスギ人工林を約2割減少させ、30年後には半減させる将来像が示され、伐採・植え替え等の加速化、スギ材の需要拡大、花粉の少ない苗木の生産拡大などの対策が推進されています(図)。
スギ材の需要拡大で利用を促進
スギ材需要の拡大に向けては、住宅分野におけるスギ材製品への転換促進や、木材を活用した大型建築の着工倍増等により、スギ材需要を現状の1,240万㎥から10年後には1,710万㎥まで拡大することが目指されています。
住宅分野では、国産材比率の低い横架材等について、スギ材の利用拡大に向けた技術開発のほか、平角や異樹種集成材、LVL等を効率的かつ安定的に生産できる木材加工流通施設の整備などが促進されます。
非住宅・中高層建築分野では、製材やCLT、木質耐火部材等に関する技術の開発及び普及、公共建築物の木造化・木質化が進められるほか、木材利用の促進に向けた建築基準法の合理化などが推進されます。更に、柔らかさや断熱性、調湿性といったスギの特性を生かして、内外装や家具類等にスギ材を活用する取り組みや、製材及び合板を重点品目として、国や地域等の規制やニーズに対応しつつ輸出が促進されます。
森林は「緑の社会資本」
林野庁は、森林は多様な恩恵を国民にもたらす「緑の社会資本」であり、森林の多面的機能を高度かつ持続的に発揮させるために、多様な森林がバランスよく形成されるように取り組みを進める必要があると述べています。同庁が定める森林・林業基本計画では、森林が有する多面的機能を発揮する上で望ましい姿と、その姿への誘導の考え方が明示されています。多様な森林づくりを加速化することは、花粉発生源対策につながると同時に、花粉発生源対策の強化は同基本計画の目指す姿の実現を促進するとしています。
戦後造成されたスギ人工林は、近年ようやく利用期に入り、新たな森林づくりを進めるタイミングとなっています。この機運を捉え、花粉発生源の着実な減少と林業・木材産業の成長発展のために必要な取り組みを集中的に実施していく方針です。