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国土交通省 2024年4月施行 改正建築物省エネ法・建築基準法等 防火規定の合理化で建築物の木造化を更に促進

 住宅・建築物の省エネ対策を強力に推進するための「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」が2022年6月に公布され、改正に基づく具体的な施策が順次施行されています。今回は、今年4月に施行された、木材利用や省エネ対策の推進に向けた施策をご紹介します。

建築基準法

大規模木造建築における部分的な木造化の促進

 従来は、4階以上等の大規模な建築物や、不特定多数の者が利用するなど避難上困難が生じる用途の建築物においては、原則として耐火建築物とすることが求められていました。この耐火建築物では、全ての主要構造部をRC造や被覆S造といった耐火構造とし、火災時に損傷を許容しないことが原則となっています。

 改正後は、耐火建築物においても、火災を区画内にとどめることによって建物全体が倒壊及び延焼しない構造とした場合、当該区画内において主要構造部の損傷を許容し、耐火構造等とすることなく、「あらわし」の木造で設計することが可能となります(図1)。これにより、最上階の飲食店やメゾネットの住居、客室といった建築物の見せ場となる特定の居室や空間について、部分的な木造化など混構造建築物の設計ニーズに対応することが可能となります。当該部分を区画する床や壁、防火設備については、木材使用量等に応じて長時間の火災に耐えうる強化防火区画とするために、区画内の木造部材等が火災により燃焼等した場合、区画外や周囲の建築物への延焼を有効に防止することが求められます。なお、具体的な性能や仕様については、今後告示にて規定される予定です。

合理化による部分的木造化

 また、損傷を許容する主要構造部を含む区画が避難経路にある場合には、別の方向に有効な避難経路を確保する必要があります(図2)。

避難経路確保

防火規程上の別棟扱いの導入による低層部分の木造化の促進

 従来は、混構造建築物や複合用途建築物の場合、防火規制については一部の構造や用途に合わせて建築物全体に厳しい規制が適用されていたため、設計上の大きな制約になっているとの指摘がありました。

 こうした点を踏まえ、今回の改正では、延焼を遮断できる高い耐火性能の壁などや、十分な隔離距離を有する渡り廊下で分棟的に区画された建築物については、その高層部と低層部をそれぞれ防火規定上の別棟として扱うことが可能となります(図3)。これにより、防火規制を一部適用除外とすることができるため、同一敷地内において、棟単位で低層部分の木造化を容易に行うことが可能となり、混構造建築物や複合用途建築物において木造化等の設計を採用しやすくなる効果が見込まれます。

合理化による部分的木造化

防火壁の設置範囲の合理化

 従来は、壁や柱などの構造部材に、被覆等の防火措置がなされていない木造建築物については、1,000㎡ごとに防火壁を設置することが要求されていましたが、木造部分と一体で鉄筋コンクリート造などの耐火構造部分を計画する場合、この耐火構造部分にも同様に1,000㎡ごとに防火壁を設置することが求められていたため、設計上の不合理が指摘されていました。

 今回の改正により、他の部分と防火壁などで有効に区画された建築物の部分であれば、1,000㎡を超える場合であっても防火壁などの設置は要さないこととされます。

避難経路確保

3,000㎡超の大規模建築物の木造化の促進

 従来は、延べ面積が3,000㎡を超える大規模建築物を木造とする場合は、主要構造部を耐火構造等とすること、床面積3,000㎡以内ごとに高い耐火性能を有する構造体で区画することのいずれかが求められており、主要構造部を耐火構造とする場合は、木造部分を石膏ボードなどの不燃材料で被覆する必要がありました。そのため、建築物の利用者が木の良さを実感しづらいほか、耐火構造体で区画する場合には建築物を二分化する必要があるなど、設計上の制約が多い点が課題となっていました。

 改正後は、延べ面積が3,000㎡を超える大規模建築物を木造とする場合にも、構造部材である木材をそのまま見せる「あらわし」による設計が可能となるよう、新たな構造方法を導入することで大規模建築物への木材利用の促進が図られます(図5)。新たに追加される構造方法の例として、大断面の木造部材を使用しつつ、防火区画を強化すること等により、火災による周囲への延焼を制御できる構造が示されています。

新たな構造方法の導入

既存不適格建築物における増築時に関する規制の合理化

 従来は、既存不適格建築物について、増改築、大規模な修繕や模様替え、用途変更などを行う場合、原則として建築物全体を現行基準に適合させる遡及適用が必要となっていました。この場合、増改築部分とは空間的及び性能的に関係のない部分を含めて防火・避難規定、集団規定への適合が求められ、建築物の所有者等にとって時間的・費用的な負担が大きいとの指摘がありました。

 今回の改正により、既存不適格建築物について、安全性の確保等を前提条件として遡及適用の合理化が図られます(図6)。具体的には、防火規定、防火区画規定、接道義務、道路内建築制限等について、建築物の長寿命化や省エネ化等に伴う一定の改修工事が遡及適用対象外となります。また、防火規定、防火区画規定について、分棟的に区画された建築物の一つの分棟のみに増築等する場合は、当該分棟部分に限って遡及適用されます。加えて、廊下等の避難関係規定、内装制限、建築材料品質規定について、増築等をする部分に限って遡及適用されます。

現行基準の遡及適用の合理化

建築基準法

省エネ性能表示制度

 省エネ性能表示制度は、販売・賃貸事業者が建築物の省エネ性能を広告等に表示することで、消費者等が建築物を購入・賃貸する際に、省エネ性能の把握や比較ができるようにする制度です。住まいやオフィス等の買い手・借り手の省エネ性能への関心を高めることで、省エネ性能が高い住宅・建築物の供給が促進される市場づくりを目的としています。

 これにより、事業者は新築建築物の販売・賃貸の広告等において、省エネ性能の表示ラベルを表示することが必要となります(図7)。国土交通大臣が表示方法等を告示で定め、従わなかった場合は勧告等を行うことができます。また、既存建築物についても表示は推奨されますが、表示しない場合の勧告等の対象とはなりません(3月15日号2、3面にて詳報)。

省エネ性能ラベルの表示例

建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度

 建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度は、地域によってその利用条件が異なる再生可能エネルギーについて、地域の実情を踏まえた利用拡大を図ることを目的に創設されました。これにより、太陽光パネル等の再エネ設備設置の促進を図ることが必要である区域について、市町村が促進計画を作成することが可能となります。作成に当たっては、行政区域全体または一定の街区等を設定することができますが、住民の意見を踏まえて、気候や立地等が再エネ設備の導入に適した区域を設定することが求められます。促進計画に定める事項は、①再エネ利用促進区域の位置、区域、②設置を促進する再エネ設備の種類、③再エネ設備を設ける場合の建築基準法の特例適用要件に関する事項の三つです。

 今回の改正に伴い、建築士は、当該利用促進区域内において市町村の条例で定める用途・規模の建築物について設計の委託を受けた場合、建築物へ設置することができる再エネ設備に関する一定の事項について、建築主に対して説明する義務が生じます。説明内容としては、温室効果ガス削減の必要性をはじめとする再エネ設備導入の意義、設置することができる再エネ設備の種類及び規模、設備導入による創エネ量や光熱費削減の効果などが挙げられています。

 併せて、市町村が定める再エネ利用設備の設置に関する促進計画に適合する建築物に対する高さ制限、容積率制限、建ぺい率制限の特例許可制度が創設されます(図8)。

特例の流れと促進区域において認められる例

 

図は全て国土交通省資料より作成