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ニュース&レポート

新春経済講演会 新春トークセッション どうなる!? 2024 ~我々を取り巻く環境の変化と対策~

1月17日に開催された新春経済講演会では、新たなプログラムとして各業界の有識者の方々による新春トークセッションが行われました。当日は、経済動向や住宅需要、2024年問題をはじめとする法改正への対応、カーボンニュートラルに向けた取り組みなどのテーマについて、それぞれの視点から見解が示されました。今回はその一部を収録してご紹介します。

テーマ① 経済動向及び住宅業界予測

2024年は緩やかな円高基調へ

杉田 2024年の為替予想は、1ドル130~140円という見方が多く、円高方向に進むと予測されています。また、日経平均株価については、過去最高の株価になるのではとの予測も出ています。そのような中、2024年の経済の見通しについて、シンクタンクの立場から㈱農林中金総合研究所の安藤様にお聞かせいただきたいと思います。

安藤 まず中国については、不動産部門の調整長期化により景気が減速する見込みで、政府も巨額の景気刺激策について慎重なスタンスのため、成長率鈍化は避けられないと思います。米国では、供給制約が緩和し、経済活動の正常化とインフレの鈍化が同時に進行しており、具体的には労働市場の需給緩和が進んでいます。一人の失業者に対する求人倍率が低下基調にあり、過度な金融引き締めの必要性は低下しています。結果として、今年はこれまでの金融引き締めの影響から景気は減速するものの、2025年にかけて緩やかに回復する見込みです。欧州では、金融引き締め効果が顕在化し、今年前半にかけて景気が減速する見込みです。欧州中央銀行は、景気減速懸念を受けて今年前半から利下げを開始する見込みですが、労働需給のひっ迫などから賃金インフレへの懸念が続いており、その後の利下げペースは緩やかなものにとどまる見通しです。東南アジア諸国は、内需が底堅く景気は堅調に推移すると見られますが、中国経済の低迷等が下振れ要因となります。一方の日本国内は、サービス消費やインバウンド需要の回復が一服する見込みで、海外経済の減速や賃金の伸び悩みを受けて持ち直しテンポが緩やかなものにとどまるため、成長率は鈍化する見通しです。

 為替については、日米金利差が縮小方向となり、ドル円相場は年末にかけて緩やかな円高基調に転じる見通しです。日銀は、2024年第2四半期にマイナス金利解除とイールドカーブ・コントロール撤廃を実施することが予想されますが、その後は賃金・物価の伸び率が鈍化する中で、ゼロ金利政策は継続する見通しです。

住宅の資産価値向上に向けた提案が重要

杉田 続いて、パナソニック ハウジングソリューションズ㈱山田社長にお伺いします。住宅需要・マーケットの変化について、見通しをお聞かせください。

山田 2024年は、新設住宅着工戸数は減少傾向にあるものの、住宅価格の上昇等の影響で民間の住宅投資額は横ばいの水準を維持すると予測されており、悲観する必要はないと考えています。加えて、2025年4月に予定される省エネ基準の適合義務化や4号特例制度の縮小に向けて、より高性能な家づくりが求められるようになります。住宅の資産価値を維持していくという方向性に基づく政策であると捉えて、我々も住宅の建設に向き合わなければならないと考えています。もう一つ、住宅価格の上昇に伴う住宅業界の構造変化を捉える必要があります。工務店の注文住宅が苦しい状況になる中、メーカーや流通が支援していくことが重要であると考えています。

 リフォームについては、引き続き堅調に推移すると見ていますが、住宅の資産価値が見直される中、耐震性能や断熱性能の向上により、資産価値を高めるリフォーム提案が重要になります。非住宅についても、高齢者施設をはじめ、オフィスや店舗、倉庫といった施設の改修案件も相当数あり、堅調に推移すると予測されます。住宅、非住宅含め、リフォーム市場については、どのような価値を提供できるのかを含めた提案をすることで、拡大の余地があると考えています。

高額マンションの販売が好調に推移

杉田 マンション価格の高騰が続いています。㈱長谷工コーポレーションの熊野専務は、需要との乖離や価格の調整局面の時期などについてどのように見ていらっしゃいますか。

熊野 首都圏におけるマンションの平均価格は、昨年1~11月が8,424万円と、前年比30.3%アップとなっています。東京23区の供給戸数構成比が高まったこと、都心で大規模高額物件が供給されたことなどが、大幅に上昇した要因です。一方、東京23区を除いた平均価格は5,315万円と緩やかな上昇となっており、全体感として大幅に上がっているという印象は持っていません。1億円を超える高額マンションの販売は好調に推移しており、購入層は国内富裕層や資産家が中心で、最近では優良中小企業の経営者やスタートアップ企業の若い経営者なども購入しているようです。資産の入れ替えなどを目的に購入するケースが多く、用途は自己居住用、賃貸、セカンドハウス、ゲストルームなど多岐にわたっています。いずれも実需用であり、バブル期とは少し異なると捉えています。全体的に首都圏の販売状況は底堅く、金利やマンション価格の先高観が具体的な検討を進める動きにつながっており、今後、大幅に金利や価格が上昇することがない限り、値崩れはしないと見ています。

今後も変動金利型が主流に

杉田 今年の住宅需要を左右するポイントとして、住宅ローン金利の動向は注視が必要です。安藤様、日銀の金融政策の変更による影響など、今後の住宅ローン金利の展開はどのように見ていらっしゃいますか。

安藤 日銀は物価上昇などの影響を受けて、イールドカーブ・コントロールについて、2022年12月、2023年7月、10月と3度にわたって修正を行いました。具体的には、長期金利について上昇方向の変動を段階的に容認する形となっており、3回目の修正では、長期金利の事実上の「上限」であった1%を「目処」に変更することを決定しました。先ほども述べた通り、マイナス金利解除とイールドカーブ・コントロール撤廃が予想されるため、今後も金利は上昇傾向にあると見込まれます。昨年11月1日に10年国債利回りが0.956%まで上昇しましたが、足元は0.6%前後の水準で動いています。今年は上昇が見込まれますが、0.9%から1%程度の水準に収まると予想しています。

 住宅ローンについては、日本では長年にわたって低金利の状況が続いてきました。2022年度から国債金利は上昇傾向にあるものの、住宅ローンの変動金利型の金利水準は、ネット銀行では優遇金利適用後0.3%前後など、むしろ低下しています。これは、住宅需要が低迷する中、金融機関による競争が激化していることを示していると思われます。一方で、全期間固定金利型の代表格である【フラット35】は、1月現在で1.870%と、変動金利型との差は1%を超えています。金利の上昇不安はありますが、過去の金利水準と比較すると、変動金利が現在の固定金利を超える水準まで上昇する局面には至らないと考えています。そのため、今後も変動金利型が選ばれていくと予想しています。

杉田 ありがとうございます。当社では、価格や金利の動向を注視しつつ、地震に強い住まいづくりをはじめ、木質化や性能向上等の取り組みを通じて、住宅の資産価値向上を目指していきます。

テーマ② 法改正への対応

残業規制の中核はビジネスと人権

杉田 2024年問題をはじめ、法改正への対応が今年の業界における大きなポイントになると考えています。匠総合法律事務所の秋野先生にお伺いします。2024年問題については、具体的にどのような相談が寄せられているのでしょうか。

秋野 昨年前半は、残業規制の内容に関する相談が多かったのですが、秋頃から「本人の了解を得た上で隠れ残業をしてもらっているが、労働基準監督署に知られるとどうなるのか」「どうしても残業時間の上限を超えてしまう場合はどう対応すればよいか」といった相談が寄せられています。この点については、なぜ働き方を法律で制約されなければならないのか、法改正の趣旨を説明するところからスタートしています。残業時間として、「発症前1カ月間に概ね100時間または発症前2カ月間ないし6カ月にわたって1カ月当たり概ね80時間を超える時間外・休日労働」が認められる場合は、過労死リスクが高まるとされています。この過労死リスクから労働者を守るために刑事罰付きの残業規制が導入されるのであり、立法趣旨の中核は「ビジネスと人権」にあります。人的資本経営に取り組む各企業において、ビジネスと人権に関わる法律を守らないという対応はあり得ないということを申し上げています。

 その上で、人材不足の中、法律を守りたくても守れないといった相談については、伴走する形で一緒に対応策を考えています。具体的には、労働基準法が法定労働時間として設定している週40時間は、100%の力で働くことを求めていますが、社員の皆さんは100%の力で働いているのかということを問いかけています。中には、残業代を生活給としている人もいるため、こういった部分から改善していくためのアドバイスをしています。例えば、電子契約の導入に向けたアドバイスをするなど、効率的な経営の実現に向けて相談に乗っています。

物流問題の解決には荷主の理解と協力が重要

杉田 続いて、全日本トラック協会の馬渡副会長に、2024年問題によって物流業界がどのように変化していくのかお聞きしたいと思います。住宅業界は運送業者様に個別委託しているケースが多い中、注意点や必要な対策についてお聞かせください。

馬渡 トラックドライバーについては、年間960時間の残業規制がこの4月から適用されます。私どもの調査では、時間外労働が年間960時間を超えるドライバーがいる事業者が約3割、長距離輸送を主に行う事業者に限れば約4割となっています。4月以降、長距離輸送から撤退するという事業者も出始めているほか、法令を守れない依頼は受けないという声も聞かれます。労働時間の改善のためには、十分なリードタイムを確保した運行や、全線高速道路の利用等が必要であることをご理解いただきたいと思います。

 また、ドライバーの働き方は、時間外労働の上限規制だけでなく、改善基準告示において、拘束時間、運転時間などが細かく定められています。ドライバーが告示を遵守した運行をするためには、荷主の方にもその内容を理解していただく必要があります。住宅関連の輸送では、現場配送の際に持ち帰りや転送を行う場面もあるほか、現場での長時間にわたる待機や手荷役作業を行うケースもあり、改善していただきたい課題であると認識しています。また、運送以外の待機料や附帯作業料、持ち帰り・転送料についても収受できないことが多く、書面化・明文化していただく必要があります。

 現在、(一社)日本建材・住宅設備産業協会が事務局となって「商習慣見直しタスクフォース」が設置され、納品条件適正化に向けたガイドラインを作成されると聞いています。また、国土交通省では「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン」を定めていますので、こちらもご覧いただければと思います。本日のトークセッションを機に、物流に対する理解を深めていただき、これまで以上のご支援、ご協力をお願いします。

山林からの丸太運搬が最大の課題

杉田 続いて、ノースジャパン素材流通協同組合の鈴木理事長にお伺いします。木材業界では、原木生産地、製材事業地と消費地とで距離が離れていることが多いのですが、安定的な流通を目指す上でどの様な対応が必要となるでしょうか。

鈴木 国産材の利用拡大を進める中、物流における最大の問題は、山林からトラックで丸太を運ばないといけないということです。しかし、林道の整備が進んでいない中、丸太を積んで下りてくるのに時間を要するケースが多く、ドライバーの長時間労働につながっています。対策として、林道から出た国道や県道など舗装された道路に面する場所に、中間のストックヤードを整備するという方法があります。このストックヤードからフルトレーラーで運搬することで、労働時間を短縮することが可能となります。もう一点は、運搬先が大型工場の場合、受け入れ時間に数十台のトラックが並ぶケースが非常に多くなっており、待ち時間の発生につながっています。大型工場に対して、受け入れの時間帯をもう少し広げていただくよう要望しているところです。地域ごとに一定の間隔で必要な国産材工場が建っているわけではないので、現時点で労働時間を削減するためには、こうした方法が必要と考えています。また、山林から丸太を降ろすトラックドライバーの働き方が不安定にならないようにするためには、川中・川下からの安定的な発注が必要です。これらの取り組みが実現されれば、2024年問題も解決に近づくのではないでしょうか。

物流を建設工程の一部に

杉田 山田社長、メーカーとしては2024年問題についてどのように対応されるのでしょうか。

山田 2024年問題の本質は働き方改革であり、自社の業務も含めてAIの導入などの取り組みを通じて効率化を図っていくことが必要です。最も懸念されている物流の問題として、輸送コストの増加だけではなく、必要な商品をタイムリーにお届けできない、あるいはそもそも運んでもらえないというケースが既に出てきており、業界にとって深刻な問題であると捉えています。メーカーとして、原材料を調達して現場まで商品を届けるというサプライチェーンにおいて、改善に向けた知恵を出していく必要があります。具体的には、これまでの建設現場は家を建てるという工程をメインにしており、物流に対して意識が集中していなかったように感じます。今後、建築資材を現場に納入することが建設工程の一部であるという考えを持たない限り、メーカーとして物流問題は解決できないと考えています。サプライチェーン全体として、物流まで含めた新しいシステムを構築することが必要であると考えています。

DX活用で技術者の業務負荷軽減

杉田 熊野専務には建設の立場からお聞きしたいと思います。職人不足が懸念される中、工期や建築コストへの影響についてお聞かせください。

熊野 まず、2024年問題による建築工期への影響については、さほど大きくないと考えています。建設業は他の産業に比べて実労働時間が長い傾向にありますが、工事現場での長時間労働はさほど起きておらず、時間外労働は現場管理を行う技術者の事務作業において多く発生しています。事務作業時間の削減を図る必要はありますが、工事の稼働時間を現状よりも短縮する必要性は薄く、工事の遅延リスクが高まる可能性は低いと思われます。現場管理を行う技術者の長時間労働については、DXの推進、ICTの活用、ペーパーレスによる業務省力化・効率化を通じて、業務負荷の削減を図っています。一方で、コスト面では、輸送コストの上昇やそれに伴う資材価格の高騰などにより、価格面に影響してくる可能性があります。また、堅調な建設需要に対して技能労働者数の減少傾向が続いており、労務費高騰の可能性は否定できません。人材確保に向けては、労働者が働きやすい環境をつくることが重要であると考えています。当社では、(一社)日本建設業連合会などと連携し、労働環境改善のために4週8閉所や残業時間の短縮、処遇改善を推進しています。

新しい技術の開発で「かっこいい建築業界」へ

杉田 最後に秋野先生、これまでのお話を踏まえ、法的にはどう対応すればよいのかアドバイスをお願いします。

秋野 まず、DXによって働き方改革が実現できれば、建設業法や労働安全衛生法といった法律も改正され、効率的な体制になっていくと考えています。建設業法は、過去の不祥事事故などを踏まえて、性悪説に立って技術者の配置を厳しく求めています。この点について、デジタル技術を生かせば技術者が複数の現場を効率よく監視することが可能なため、デジタル時代に適合した建設業法とする必要があると考えています。また、事業所への巡視を求める労働安全衛生法についても、遠隔管理の方法による巡視を認める法改正をすべきです。この二つの法改正によって、大幅な時間短縮が可能になると考えています。

 次に、国土交通省が昨年、2027年度にBIM確認申請を全国展開するロードマップを策定しました。BIMの普及と技術革新が進むことによって、大きく二つの業務効率化が実現すると考えています。一つは、BIMと現場動画を自動照合できる技術開発です。自動照合ができれば、図面通りに現場が進捗しているかをデジタル上で確認することができ、大幅な業務効率化が果たせます。もう一つは、BIM普及の延長線上にあるメタバース上での建築です。例えば耐震性能について、メタバース上に建物を建てて震度7の振動実験を行うといったことができれば、お施主様に対するリスク説明としても非常に有効であると思っています。

 今回の残業の上限規制は、労働者に対する安全配慮義務というビジネスと人権の観点から強い決意で取り組む必要があります。その障壁となる法規制は改正すべきであるというのが私の意見です。新しい技術の開発によって、魅力あるビジネススタイルの構築を果たしていくことが、若者から支持される「かっこいい建築業界」への第一歩となります。2024年問題の克服を機に、住宅建築業界が魅力ある業界に発展していくことを期待しています。

杉田 2024年問題に向けて、当社が全国に保有するストックヤード拠点の活用などの対策を検討しつつ、皆さんと様々な知恵を出し合いながら連携していければと考えておりますので、よろしくお願いいたします。

テーマ③ カーボンニュートラルへの取り組み

中国の国産材供給量拡大が日本の木材輸出に影響か

杉田 温室効果ガスの削減に向けて、省エネ化の一層の加速や、木材利用の促進による森林資源の循環利用が求められます。まず、安藤様にお伺いします。世界の木材需給に影響を与える米国、欧州、中国における住宅市場はどのような見通しでしょうか。

安藤 米国は、金利の変動幅が大きいため固定金利が選ばれやすく、金利動向が住宅需給に大きく影響する傾向にあります。特に新築住宅については、利上げが大きく影響しています。2020年の中頃から住宅価格の上昇が続き、2022年10月にはコロナ禍前に対して1.5倍まで価格が上昇しました。その後は下落基調となりましたが、足元はその下落幅も落ち着き、コロナ禍前の1.3倍の水準を維持しています。一方、販売件数は、2020年には年率換算で100万戸にまで上昇しましたが、2022年以降は65万戸前後で推移しています。住宅需要に対して供給が足りていない状況にあるため、2024年は金利の下落とともに徐々に回復すると思われます。

 欧州では、人口流入によって住宅が不足している一方で、建設業界で働く担い手が不足している状況です。住宅供給が需要に応えられていないことから、住宅価格、家賃が上昇する一方です。住宅事情を変えるために、住宅開発に関する規制を緩和することが考えられます。都市部やその近郊の土地利用やゾーニングに関する規制を緩和することで、開発を行いやすくすることが可能となります。フィンランドに本社を置く森林業界大手のメッツァ・グループは、以前から既存建築物の上に木造を建てることをPRしていましたが、そのような建築を可能にする緩和が広がれば、欧州の住宅市場は明るくなるのではないかと思います。

 続けて需要の多い中国については、政府が住宅は居住用であって投機対象ではないとの方針を維持しており、不動産販売の低迷は続くと見ています。木材需要については、2000年代に入ってから拡大基調にありましたが、近年は頭打ちとなりつつあります。一方、中国の国産材の供給量は増加傾向にあります。商業林の在庫量は56億㎥で、このうち収穫可能量が27億㎥に達しており、供給ポテンシャルが非常に大きい状況です。また、2010年代前半は年間8,000万㎥であった供給量が、2022年には1億㎥まで拡大しています。更に、2021年から始まった第14次5カ年計画における伐採割り当て量は、年間2億7,500万㎥に達しています。こうした国産材供給量の拡大は、今後、日本からの木材輸出や世界からの木材輸入量に影響を与える可能性があると見ています。

国産材もクオーター契約で安定発注を

杉田 続いて鈴木理事長、国産材利用の機運が高まる中、木材自給率はどこまで上げられるとお考えでしょうか。また、日本の森林を活性化させるため、我々木材を取り扱う企業はどう取り組むべきでしょうか。

鈴木 用材の自給率だけで見れば、10年後には80%程度までは上げられると思っています。この水準まで上がれば、国産材で価格が決められる時代が来ると考えています。その実現に向けた課題は、自給率が低い部材、特に梁・桁などの横架材です。レッドウッドやベイマツの集成材から国産材へ代替するためには、やはり国産集成材業界に頑張ってもらう必要があります。それが、日本の山林の活性化にもつながっていくと思います。また、木造の公共建築物などを訪ねた際、唯一木が見えないのがサッシやドアなどの開口部です。熱伝導率が低く、高い断熱性を持つ木材をいかに開口部に使っていくかということは、今後10年間で取り組むべき課題であると認識しています。木への代替という意味では、木製品がなかなか出てこないキッチンやトイレ、バスといった水回りに、どう木材を取り入れていくかという点も大きなポイントです。

 国産材の利用拡大に向けて、川上から川下の連携が欠かせません。輸入材にこだわりのある工務店があるのも事実で、いかに国産材の魅力を伝えて採用していただくかということが重要です。また、供給を安定させるためには、安定的な発注が必要です。輸入材と同様に、国産材についても3カ月単位のクオーター契約をぜひお願いしたいと思います。

CO2削減のポイントは輸送の効率化

杉田 続いて、馬渡副会長に物流の観点からお聞きします。物流業界におけるCO2排出削減に向けた取り組みについてお聞かせください。また、木材業界に対するご要望などがありましたらお願いします。

馬渡 国内のCO2排出量の約2割が運輸部門からのものであり、更にそのうちの2割が緑ナンバーの営業用トラックから排出されています。こうした中、当協会では「経団連カーボンニュートラル行動計画」に参画し、目標値を「2030年にCO2排出原単位を2005年度比で31%削減する」こととしています。ただし、小型トラックにおいては、最近になって電気トラックが市販化されて普及が進みつつありますが、大型トラックについては、積載量の確保や走行距離の問題などから全てを電動化することが難しく、カーボンニュートラルに向けた課題の一つとなっています。こうした状況を踏まえると、物流業界の自助努力だけではカーボンニュートラルの実現は難しく、荷主企業様のご理解、ご協力が不可欠となります。2024年問題への対応という観点からも、再配達の防止を含めた輸送の効率化や生産性の向上に向けて、ご協力をよろしくお願いいたします。

 また、輸送の効率化に欠かせないパレットは、プラスチック製が増加傾向にあります。そこで、木材業界の皆さんに、国産材による木製パレットをぜひ開発していただきたいと思っています。軽量かつ安価で、腐食しにくい頑丈な国産材パレットが開発されれば、輸送だけでなく環境面でも貢献できるのではないかと思います。

集合住宅の共用棟木造化を推進

杉田 続いて、熊野専務にお伺いします。マンションでの木材活用について、取り組みや今後の展開についてお聞かせください。

熊野 弊社では木造推進委員会を設置し、集合住宅における主要構造部の適材適所の木造化をテーマに様々な研究を進めています。その第一段階として、集合住宅における共用棟の木造化を推進しており、マンションの共用部や独立した共用棟を中心に14件が竣工済み、9件が施工中となっています。2020年に長谷工グループとなった㈱細田工務店の知見を生かしながら、共同住宅本体の木造化にも範囲を広げ、マンション居住部分の木造化も積極的に推進しています。また、国土交通省の「優良木造プロジェクト2022採択プロジェクト(第Ⅲ期)」で、「目黒中央町一丁目計画 新築工事」が選ばれました。地上7階建ての共同住宅で、上層4層を耐火木造化し、2025年3月に竣工する予定です。現状は、賃貸マンションにおける取り組みのみとなっていますが、今後は分譲マンションの展開へとステージを進めたいと考えています。

2050年にCO2排出量削減3億トンを目指す

杉田 最後に、山田社長からカーボンニュートラルに向けた取り組みと今後の展開についてお聞かせください。

山田 当社グループでは、「Panasonic GREEN IMPACT」として、2050年に向けた目標を三つ定めています。一つ目は、自社バリューチェーン全体のCO2排出を実質ゼロとする「OWN IMPACT」、二つ目は、既存事業領域において社会へのCO2削減に貢献する「CONTRIBUTIONIMPACT」、三つ目は、新技術や新規事業で社会へのCO2削減に貢献する「FUTURE IMPACT」です。この三つを進めることで、世界のCO2総排出量の約1%に当たる3億トン以上の削減を目指しています。そのマイルストーンとして、2030年度までに「全事業会社のCO2排出量ゼロ」と「約1億トンのCO2削減貢献」を目指すとともに、2024年度までの3カ年の具体的な環境行動計画として「GREEN IMPACT PLAN 2024」を策定しました。まず、「OWN IMPACT」の進捗については、2024年度までにCO2排出ゼロ工場を37拠点とする目標を掲げていますが、2022年度末時点で28拠点において達成しています。また、「CONTRIBUTIONIMPACT」については、2024年度削減貢献目標の3,830万トンに対して、2022年度実績は3,723万トンとなっています。具体的な取り組みとしては、ヒートポンプ式温水暖房機や真空断熱ガラスなどの開発と更なる省エネ化によって、当社が提供する製品の使用におけるCO2排出削減を目指しています。このように、我々自身の努力とお客様に提供する商品の省エネ化、新たな技術や新規事業などを通じて、カーボンニュートラル実現への貢献に向けて取り組みを進めています。

杉田 カーボンニュートラルに向けて森林が果たす役割は大きく、当社においても木材の利用拡大を通じて、森林資源の循環利用への貢献を目指していきます。皆様、本日はご登壇いただきありがとうございました。