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ニュース&レポート

新春経済講演会 第一部講演収録 持続的な成長と更なる企業価値の向上に向けて

杉田社長

持続的な賃上げで更なる経済成長へ

 2023年は、ロシアによるウクライナ侵攻が2年目に突入したほか、イスラエル・パレスチナ自治区における新たな紛争など、不安定な世界情勢が続きました。大規模な自然災害も多く発生し、トルコ南部で発生した地震では6万人を超える方々が亡くなられました。また、世界の平均気温が上昇を続ける中、アラブ首長国連邦のドバイで開かれた「国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)」では、化石燃料について「脱却を進める」ことで合意がなされ、今後の各国における政策が問われることになります。

 一方で、日本国内では、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類に移行したことで、経済活動が正常化に向かいました。これにより、個人消費が回復したほか、非製造業を中心に設備投資再開の動きが見られたことで、2023年の年初には実質GDP成長率が高い伸びを記録しました。コロナ禍からの需要回復が一巡した影響などで、年の後半には成長率が緩やかなペースとなったものの、総じて景気が緩やかに回復した一年となりました。

 今後、企業による価格転嫁が更に進むことで、企業活動の活発化、賃金の上昇につながり、更に消費が拡大する好循環になることが期待されます。賃金については、賃上げへの機運が高まっているものの物価の上昇に追いついていないため、実質賃金はマイナスの状態が続いています。焦点となるのは今年の春闘で、昨年を上回る賃上げが実施され、所得が物価上昇を安定的に上回る状態が継続すれば、個人消費がプラスになり、経済成長への期待が高まっていくと考えています。

2024年は上場相場への期待が高まる年

 2024年は、「甲辰」(きのえたつ)の年に当たり、証券業界では辰巳天井と言われ、「上場相場への期待が高まる年」として位置付けられています。日経平均株価については、1月4日の大発会では一時700円以上の下落でスタートしたものの、1月16日(新春経済講演会前日)の終値は、3万5,619円とバブル後の最高値を更新しています。

 また、今年は世界各国で重要な選挙が開催される「選挙イヤー」となります。特に、アメリカ大統領選挙の行方によって世界情勢が大きく変化すると見られており、ロシア・ウクライナ情勢やイスラエル情勢にも影響を及ぼす可能性があります。日本国内では、新しいNISA(少額投資非課税制度)がスタートしました。個人マネーが株式市場に流入し、日本株にとってプラスとなることが期待されます。

 ナイスビジネスレポートの2024年新春特大号では、日本銀行横浜支店長の大竹弘樹氏をお迎えして、「2024年 日本経済の展望」というテーマで特別対談を実施しました。対談では、堅調な企業収益が株価に良い影響を与えており、今後、物価上昇を上回る賃上げが持続的に実現することで、経済成長への期待が高まっていくこと、更に、住宅需要が回復する可能性についても言及されています。

制度改正を中心とした業界の課題

 今年、我々の業界では、2024年問題をはじめとした法改正への対応、木材利用や省エネ化の促進などによるカーボンニュートラルへの貢献など、取り組むべきことが多くあり、業界が一体となって対応していくことが重要となります。

 喫緊の課題として「2024年問題」があり、今年4月以降、物流・建設業界において残業時間の上限規制が適用となり、労働力不足、運賃や建築費の上昇など、様々な課題が顕在化すると言われています。物流や建設は他の産業を支えるという側面もあり、影響の大きさが懸念されています。また、建築基準法や建築物省エネ法の改正などによって木造化の促進や住宅の省エネ化が図られるため、当社グループが果たすべき役割は更に大きくなると認識しています。そのほか、花粉症対策における具体的な取り組みの一つとして、国産木材活用住宅ラベルの表示制度がスタートする予定です。国産木材を多く活用する住宅であることを分かりやすく表示することで、消費者の選択を促し、国産木材利用の一層の促進を図ることを目的とした制度です。国産材100%の家づくりを推進する当社においても、積極的な活用を検討していきます。

 当社グループでは、これらの様々な課題に対して、建築資材事業・住宅事業で培ったノウハウを生かしたソリューションの提供により、お客様やお取引先様へのお役立ちを図っていきます。

持続的な成長に向けた「中期経営計画2023」

 当社グループでは、持続的な成長と更なる企業価値の向上を目指し、昨年5月に「中期経営計画2023」を公表しました。本計画では、木材の取り扱い強化や省エネ商品・サービスを推進する「素材」、耐震・健康・省エネな住まいづくりを推進する「暮らし」、人的資本経営を柱とする「人」の三つの基本方針を掲げています。また、お取引先様やお客様をはじめとしたステークホルダーの皆様との連携によって、バリューチェーン全体での温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにすることを掲げて、「ナイスグループ環境目標」を策定しました。その足掛かりとして、2026年にScope1・2のカーボンニュートラル達成を、2030年には、Scope3を含めたナイスグループのサプライチェーンにおけるカーボンニュートラル達成を目指しています。定量目標としては、本計画の最終年度に売上高2,800億円、営業利益80億円、経常利益75億円、親会社株主に帰属する当期純利益50億円を目指しています。併せて、自己資本比率30%以上、D/Eレシオ1倍以下、ROE9%以上、ROIC5%以上、配当性向20%以上とする財務指標の目標も掲げています。

 本計画における到達目標として、「国産木材№1」「超・物流」「エリア№1」の三つを掲げ、具体的な成長牽引策を定めており、これらの諸施策を着実に実行することで本計画の達成を目指していきます。

大倉工業㈱様との協定締結及び新工場建設

 成長牽引策の一つである「国産木材製品(製材品・集成材)取扱量№1」の実現に向けた具体的な取り組みとして、昨年12月、香川県に本社を置く大倉工業㈱様と、当社の連結子会社であるウッドファースト㈱の3社で、地域材を活用した構造用集成材事業に関する協定を締結しました(図1)。本協定では、大倉工業㈱様と当社グループが、構造用集成材の製造と関連する販売事業を通じて相互に協力し、地域材の活用を促進することで、国産木材の振興を図ると同時に、相互の事業を発展させることを目的としています。本協定によって構造用集成材の供給体制を強化するとともに、香川県、徳島県を中心とした地域材について、山林からの出材を含めて、素材生産、製材・加工、流通、再造林に至るまでの一気通貫したサプライチェーンを構築し、森林資源の循環利用及びカーボンニュートラルの実現等に貢献していきます。

 本協定に基づき、徳島県で製材事業を手掛けるウッドファースト㈱の敷地内に、新たに工場を建設いたします。新工場では、構造用集成材の材料となる挽き板を製造し、大倉工業㈱様に供給、同社が構造用集成材を製造します。今年4月に着工し、来年3月の竣工、4月の稼働開始を予定しています。

 製材・プレカット事業の拡充に向けた設備投資についても、具体的な取り組みを進めています。ナイスプレカット㈱滋賀工場においては、月間生産能力3,000坪相当のプレカット加工設備を増設しました。この加工設備は、在来工法・金物工法いずれにも対応し、構造材、羽柄材、合板の生産ラインを備えています。生産能力の向上により、西日本エリアにおける供給体制の強化を図っていきます。そのほか、徳島県において木質内装建具の製造を手掛ける㈱アルボレックスにおいて、木質内装建具の新工場建設が着工しました。

大蔵工業株様との協定締結式

建築物の木造化・木質化を更に推進

 国産木材の取り扱い強化に向けては、住宅における国産材比率を更に高めていくことが求められます。当社グループでは、国産材比率の低い横架材も含めて、住宅1棟分の木材を国産材でコーディネートする「国産材パッケージ」を開発し、提案しています。工務店様やビルダー様のニーズに応じて、仕様のバリエーションを設定し、邸別にアッセンブル・プレカットして提供する体制を整えています。

 また、非住宅の木造化についても取り組みを強化しています。「木造テクニカルセンター」では、木造化に関する初期段階でのご相談を受け付けており、2020年の設立以来、相談件数は1,200件を超えています。構造設計、木材調達、生産加工、施工など、中・大規模木造建築に必要な各分野において、最適なソリューションを提案することが可能となっています。これまでに手掛けた非住宅建築物の木造化・木質化事例は、保育園、高齢者施設、病院、駅舎、学校など多岐にわたっています。

新たな領域での木材需要の創出を目指す

 当社はこれまで、スギの大径木を有効活用したオリジナル商品の開発に取り組んできました。今後、素材開発を更に推進していくために、昨年10月に「脱プラ・木質化R&Dセンター」を設立しました。国産木材の魅力や可能性を生かした素材を開発し、住宅から非住宅、更には非建築分野における木質化市場の開拓を目指していきます。当社がこれまでに開発したオリジナル商品として代表的なものが、表層圧密テクノロジー「Gywood®」です。針葉樹の表層部を特に高密度化することで、衝撃吸収性や軽さなどを維持しつつ、表面の硬さと形状安定性を高めた無垢の新素材となっています。今後、新たなオリジナル素材の開発によってスギの付加価値を高めるとともに、傷が付きやすく用途が限られるという固定観念を払拭し、需要創造及び用途拡大に取り組んでいきます。

 昨年11月には、当社の本社ビルにおいてオリジナル商品を用いた外装木質化工事を行いました(図2)。外装については、紫外線や汚れによる影響を受けやすいことから、木質化の事例はまだ多くないのが現状です。木質化した本社ビルを実証物件として活用し、塗装の違いや日の当たり方による経年変化の比較、メンテナンス管理に関する検証を実施し、アフターメンテナンスに必要なエビデンスの蓄積に取り組みます。

 非建築分野においても、オリジナル商品を積極的にご提案しています。例えば、トラックの荷台については、耐久性や強度の面から南洋材が使用されることが一般的ですが、これを「Gywood®」へ代替する取り組みを推進しています。また、家具メーカーである柏木工㈱様が製作するテーブルやソファーなどの素材として、「Gywood®」を提供する取り組みも行っています。今後も、建築物にとどまらず、多分野における木材利用の促進に取り組んでいきます。

本社ビル外装木質化

首都圏物流機能の再構築で効率的な物流を実現

 当社グループでは、物流拠点の効率的な配置や機能の再構築を進めることで、建築資材を総合的かつ計画的に建築現場へ配送する機能の拡充を図っています。2022年10月に2期工事が完了した関東物流センターは、首都圏物流におけるストックヤード機能を担う物流センターとして稼働しています。建築資材のピッキングやアッセンブル機能などにより、広域配送における優位性を確保していきます。また、越谷物流センター、相模原物流センター、横浜物流センターについては、現場物流機能を担う拠点として位置付けており、関東物流センターと連携した効率的な物流の実現を図っていきます。安定的な木材流通の実現に向けては、創業時から培った木材メーカー様とのネットワークを生かし、特定の産地に依存することなく木材を調達しています。今後、約700社に上る製材品仕入先様と、安定的に国産材の取扱量を増やしていくための取り組みを進めていきます。

 また、当社グループは、住宅建材EDI「ナイスアドバン」や販売店様向けの経営管理システム「木太郎®」といった建材・住宅設備機器に関する受発注プラットフォームを通じて、建築資材流通におけるDX化を推進してきました。昨年1月にはクラウド型サービス「木太郎6」を新たに開発し、販売をスタートしたほか、受発注プラットフォームのリニューアルも進めています。木太郎®とナイスアドバンの相互連携により、在庫照会や発注機能、納期管理など、機能の拡充を図ります。そのほか、高断熱基準に即した家づくりに向けて、太陽光発電や蓄電池などを組み合わせた商品のトータル提案を行っています。あらゆるメーカー様の省エネ・創エネ商品のトータル提案を通じて、住宅会社様の高性能な家づくりをサポートしていきます。

「住まいは命を守るもの」免震マンション供給№1

 当社グループは、「住まいは命を守るものでなければならない」という強い想いのもと、1997年から免震マンションの供給を開始し、2023年3月期までに、83棟・8,128戸を供給しています。現在、横浜市鶴見区において2棟、仙台市において1棟の免震マンションを供給しており、いずれも販売が順調に推移しています。今後も、免震構造の採用を原則として、当社が顧客基盤を有するエリアにおける供給拡大を図っていきます。また、全ての物件において共用部の木質化を実施しているほか、省エネ性能の向上に向けてZEH-M Orientedの導入も見据えています。

 一戸建住宅については、これまで高い耐震性能、断熱性能等を持つ住まいを提供してきましたが、現在では、これらに加えて国産材使用率100%の住宅を提供しています。今年からスタートする国産木材活用住宅ラベルの表示制度についても活用し、国産木材活用レベルなどについて、一般消費者の方々に分かりやすく伝えていきます。

 新築住宅の供給に加えて、横浜を基盤とする住宅ストックサービスの拡充と既存住宅流通の強化にも取り組んでいます。特に、「横浜」エリアでは、ナイスコミュニティー㈱、ナイスアセット㈱、リナイス㈱、YOUテレビ㈱などのグループ会社を含めて、ストックビジネスに関する顧客接点の基盤を構築しています。今後、各社の相互シナジーを更に高めていくことで、横浜エリアにおけるナイスブランドの浸透を図っていきます。そして、生涯を通じたお客様へのお役立ちを実現し、顧客生涯価値の最大化を図っていきます。

価値創造の循環による持続的な成長を目指す

 今後の経営体制として、1月1日付で資材事業本部長に取締役の清水利浩が就任したほか、4月1日付で代表取締役の異動を行い、取締役の津戸裕徳が代表取締役社長に就任いたします。新たな経営体制の下、更なる企業価値の向上を目指していきます。

 当社グループでは、強みである「木」の活用を源泉として、建築資材事業と住宅事業を両輪に事業活動に取り組んでいます。今後、マテリアリティ及び「中期経営計画2023」を成長ドライバーとして事業の発展を目指していきます。また、事業活動を通じて、社会課題の解決に貢献していくことで、環境価値・社会価値・経済価値の向上を図るとともに、豊かな住まいや暮らしを社会に提供していきます。そして、価値創造のプロセスを循環させ、当社グループの企業価値の向上と持続的な成長、社会的存在意義の実現を目指していきます。

 当社グループは、企業理念として「私たちは 信頼を礎に 豊かな住まいと暮らしを実現します」を掲げています。この理念のもと、お客様やお取引先様をはじめ、全てのステークホルダーの皆様からの「信頼」に応え続けてまいります。そして今後も、ナイスグループ一丸となって、皆様の事業の更なるご成長と業界の発展のため、一層のお役立ちを図っていきます。