ニュース&レポート
新春特別対談 2024年 日本経済の展望
2023年の日本経済は、雇用・所得環境の改善、インバウンド需要の回復等が見られた一方で、物価やエネルギー価格の高騰が続くなど、先行き不透明な状況が続きました。このような状況の中、事業活動においては様々な変化への対応が求められます。今回は、新春特別対談として日本銀行横浜支店長の大竹弘樹氏をお迎えし、2024年の日本経済の展望や住宅・木材産業の可能性などについて伺いました。
【2023年の経済情勢の振り返り】
ペントアップ需要で日本経済は回復の動き
杉田 新年明けましておめでとうございます。さて、昨年の経済情勢は、相次ぐ地政学リスクの顕在化、物価高など、不確実性の高い一年となりました。2023年を振り返っていかがでしょうか。
大竹 海外経済については、グローバルなインフレ圧力が根強い中、各国中央銀行による利上げが継続した影響もあり、減速感が顕著になってきました。また、長期化するロシア・ウクライナ情勢に加えて、10月にはパレスチナ・イスラエル情勢の急速な悪化など、予期せぬ事態が発生し、先行きの不透明感が強い状態が続きました。
日本経済については、新型コロナウイルス感染症の第8波が2022年末から年明け以降も続きましたが、5月に感染症法上の位置付けが5類に移行し、経済活動が本格的に再開したことで、その影響も徐々に緩和されました。人や物の動きが回復し、これまで抑制されてきたインバウンド需要や国内の旅行・宿泊の需要が夏場にかけて盛り上がったのは間違いありません。また、産業面では、コロナ禍における半導体や自動車部品などの供給制約が徐々に緩和され、年末にかけて解消されたと言える状態まで戻ってきました。このようにコロナ禍からのペントアップ需要が日本経済を押し上げる方向に強く働き、総じて改善の動きが続きました。
杉田 各国の景気動向にはばらつきがあるように感じますが、いかがでしょうか。
大竹 アメリカに関しては、急速に利上げが進んできたことで一部では景気後退の懸念もありましたが、年末にかけて利上げが打ち止めされるとの観測が高まり、プラス成長のまま物価上昇が鈍化する軟着陸となる見通しが高まっています。中国については、従来からの若年層の離職率の高さに加え、グローバルな景気の減速もあり、内需・外需ともに弱さがあります。また、夏場以降は不動産開発会社における債務超過リスクの懸念も浮上しました。このように、国や地域ごとに景気の方向感が異なっている印象があります。
持続性が問われる企業の賃上げ
杉田 IMF(国際通貨基金)が2024年の世界経済見通しでインフレ率を上方修正するなど、世界的な物価高騰が続く中、日本においても原材料・仕入価格の上昇が続いています。住宅業界や建築業界も例外ではありません。これらの上昇に伴う価格転嫁はどの程度進んだと見ていますか。
大竹 原材料・仕入価格の上昇分をそのまま転嫁できているかというとそうではなく、様子を見ながら段階的な引き上げが繰り返されており、最終的な消費者物価から見れば値上げが続いている状況となっています。また、業界や企業規模によっても差があるというのが率直な印象です。例えば、自動車業界においては、完成車メーカーはもちろん、部品メーカーの組織体である(一社)日本自動車部品工業会の働きかけにより、中間サプライヤーは完成車メーカーに価格転嫁を求めるだけでなく、下位のサプライヤーからの価格転嫁も受け入れるといった意識が強いと感じます。一方で、こうした機能を果たす団体や組織がない業界ではどうしても個々の企業の競争力に依存せざるを得なくなり、とりわけ中小企業においては価格転嫁が難しい部分があると思います。
杉田 2023年の春闘では多くの企業においてベースアップが実施されましたが、企業規模等による差が出ているのでしょうか。
大竹 日本労働組合総連合会の集計ベースによると、2023年の春闘において全国で2.12%のベースアップが実現し、近年にない水準となりました。一方で、中小企業をはじめとする連合非加盟の企業が、こうした動きに追随できているかというと懸念が残ります。一部では、業績としては厳しいものの人手不足に対応するために、内部留保を取り崩すことで賃上げしているという声も聞かれます。こうしたケースでは、来年以降も持続的に賃上げができるかどうか疑問を感じざるを得ません。日本銀行としては、物価上昇を幾分上回る賃上げ率が毎年実現され、実質賃金がプラスになっていくことが望ましいのですが、2023年の春闘だけではまだその水準まで至っていないと感じています。今後、所得が物価上昇を安定的に上回り、個人消費がプラスになることで、経済成長への期待が高まっていくと考えています。
【2024年の経済情勢の展望】
自給率向上と輸入確保の両立が重要
杉田 2024年も地政学リスクの高まりが続く見通しですが、経済に与える影響はどう見ていますか。
大竹 ロシア・ウクライナ情勢の長期化に加え、パレスチナ・イスラエル情勢も急速に悪化しています。これらの地域は、穀物や原油、天然ガスといった資源の産出地でもあることから、こうした紛争が続く限りは資源価格に影響が及ぶリスクは免れないと考えています。特に、パレスチナ・イスラエル情勢の根底には宗教対立があり、紛争の影響が中東全域に及ぶようなことがあれば、原油価格の動向について一段と不確実性が高まる可能性があります。また、台湾問題を巡り米中対立が深刻化するなど、アジア圏においても地政学的な緊張感が高まっています。こうした政治的な対立は、経済面にも影響を及ぼし、景気を下押しする材料となるため、状況を注視していく必要があります。
杉田 木材業界では、コロナ禍に端を発した木材不足・価格高騰、いわゆるウッドショックにより供給不安につながりました。これらの経験から、木材の自給率を高めて安定的に国産材を供給していくことが重要だとの認識が広がっています。海外からの輸入に依存するリスクについてはどのようにお考えでしょうか。
大竹 大きな観点として、自国の脆弱性や潜在的なリスクを軽減する経済安全保障があると考えています。食料については以前から自給率に関する議論がなされており、不測の事態が生じた場合でも最低限必要とされる食料の供給を確保することが目指されています。また、近年では、金融や情報管理なども含めたインフラにおける経済安全保障についても、議論が進んでいます。重要なことは、自給率を高めつつ、一方で海外からの輸入ルートを確保するための方策を講じておくことではないでしょうか。木材についても、国内で自給自足できる部分だけでなく、ものによっては海外からの輸入に頼らざるを得ない状況があると思います。国内で賄うべきものと、海外からの輸入を確保するものをうまく使い分けることで、地政学的な緊張の高まりに対する耐性が強くなると考えています。
杉田 当社グループは、昨年5月に農林水産省と「国産材の利用拡大に関する建築物木材利用促進協定」を締結し、国産材の取扱量拡大に向けて取り組みを進めています。大竹支店長がおっしゃる通り、輸入材が適している用途もあるため、適材適所でバランスを取りながら国産材の取り扱いを強化していく方針です。
堅調な企業収益で国内株価に期待感
杉田 日米の金利差が拡大していることに伴い、円安が進行しています。為替の動向については、今後どのような動きが想定されるでしょうか。
大竹 為替相場については、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に合った形で形成されることが望ましいと考えています。この点において、日本銀行では、賃金の上昇を伴う形での物価安定目標(前年比2%の消費者物価上昇率)の達成を目指しており、いわゆる「イールドカーブ・コントロールの運用の柔軟化」を行いつつ、金融緩和を維持しています。一方、米国や欧州の中央銀行による金融政策について、金融市場では利上げは最終局面にきているとの見方が多いようですが、インフレ率はいずれも2%を上回って推移しています。各国における今後の経済・物価情勢によっては、各国の中央銀行による金融政策の方向性に対する金融市場の見方が修正されることが予測されるため、為替相場が変動するリスクは、円安・円高のどちらの方向にもあると考えています。
杉田 昨年の日経平均株価は、約33年ぶりに3万3,000円台を回復するなど、底堅い動きを見せましたが、今後の見通しはいかがでしょうか。
大竹 昨年後半にかけて続いた株価の上昇は、上場企業の堅調な企業収益に支えられています。直近においても企業の収益・設備投資計画は強めの数字が出ておりますので、今後に向けて企業収益の改善が更に明確になれば、株価にも好影響が及ぶ可能性はあり、見通しとしては期待が持てると考えています。一方で、企業経営を巡る環境として、海外経済や価格転嫁の動向、人手不足などは懸念材料となるため、これらの要因が企業業績に及ぼす影響について注視する必要があります。
杉田 国民の生活という観点では、昨年11月に閣議決定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策」が注目されます。賛否含め様々な議論がありますが、この経済対策が講じられることによる効果はどのように見ていますか。
大竹 総合経済対策は、賃金の上昇、購買力の上昇、適度な物価上昇による好循環の完成を目指しています。日本経済における重要な課題に即し、適切な施策が盛り込まれ、迅速に実施されることで、課題解決につながっていくことを期待しています。
「2024年問題」は様々な業種に影響
杉田 2024年4月以降に建設・運送業界において時間外労働の上限規制が適用となる、いわゆる「2024年問題」への対応が喫緊の課題となっています。人手不足や運送費の上昇などが懸念される中、企業の景況感や収益などへの影響はどう見ていらっしゃいますか。
大竹 「2024年問題」の対象業種である建設業や運送業については、全国的に人手不足感が強い状況が続いています。これらの業種は他業種を支えるという要素が強く、例えば、物流抜きでサプライチェーンは成り立たず、全ての産業が物流によってネットワーク化されているという側面があります。また、建設業についても、住宅や工場、ビルといった建物が経済活動の基盤になっています。これらの業種において人手不足による供給制約が強まる場合には、様々な企業活動に影響が及ぶ可能性があります。対策として、人材採用の積極化、省人化・省力化に向けた投資やDX化など、様々な見直しが行われていると思います。ただし、それらの対策が全て実行できれば、結果として人手不足が解消できるのか、物流がこれまでのように機能するのか、建設は工程通りに進むのかについては、ふたを開けてみないと分からない部分が多くあり、引き続き注視していく必要があります。
杉田 当社は、全国に13カ所の木材市場と30カ所の物流センターを有しています。まだ不確実な部分が多くありますが、これらの拠点を「2024年問題」への対策として活用することなどを検討しています。
大竹 全国的に、物流センターや倉庫などの施設が増加しています。これは、増加する物流需要に対してオペレーションを効率化する点において、重要な取り組みであると考えています。一方、貴社のように物流機能を有する企業においては、その機能をどのように合理化し、2024年問題に対してカスタマイズしていくかが重要な課題であると思います。仮に、貴社が持つ物流機能の合理化によって余力が出てくれば、そのサービスを外部に提供するなどの可能性も出てくるのではないでしょうか。いずれにしても、これまでの延長線上のやり方では難しい時代になりつつあります。非連続的な部分が多くなるため、それを見越した上で適切に対応することが重要ですが、確たるものが見えづらいという点は各社共通の課題であると認識しています。
【住宅・木材業界の展望】
所得の拡大期待で住宅需要回復も
杉田 日本の人口減少は加速しており、2056年には1億人を割り込むと予測されています。比例するように、新設住宅着工戸数も減少傾向が続いていますが、今年の住宅需要はどのような展開になると見ていますか。
大竹 日本における住宅需要は根強いものがありますが、「持ちたい」ということと「持てる」こととの間にどの程度のギャップがあるのかがポイントだと思います。このところ、住宅の物件価格の上昇は著しく、住宅関連企業からは、共働き・共稼ぎの世帯であっても購入のハードルが上がっているという声が聞かれます。既に生じている地価や資材価格の上昇に加えて、建設業の人手不足に伴い請負金額が更に上昇する可能性もあります。住宅需要の先行きについては幾分慎重に見ておく必要があると考えています。
一方で、今後も企業の賃上げが続き、将来に向けて所得の拡大期待が消費者側に生まれれば、物件価格の動向にもよりますが、住宅需要が回復してくる可能性はあります。こうした観点からも、持続的な賃上げは重要であると考えています。
杉田 当社では、新築のマンションや一戸建住宅を供給するとともに、中古住宅流通やリフォーム、管理などの事業にも注力しています。住宅ストック分野に関する今後の可能性はどう見ていますか。
大竹 ストックについては、既存住宅流通市場の活性化に国土交通省が積極的に取り組んでいる印象を持っています。一戸建住宅やマンションのリフォームなどは、新築よりも価格的に手を出しやすい側面があり、新築に比べると大きなマーケットではないかもしれませんが、成長可能性においては期待が持てる分野であると考えています。
杉田 住宅購入者の経済的負担という面では、物件価格だけでなく住宅ローン金利にも注目が集まっています。現在、長期金利に連動する固定型が上昇傾向にあり、短期金利に連動する変動型との差が拡大している状況です。今後、住宅ローンはどのような展開が考えられるでしょうか。
大竹 日本銀行では、金融緩和の枠組みとして導入する、10年物国債の金利を低位に抑制するイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)について、2022年12月に一部の運用を見直し、許容変動幅を段階的に緩和しました。また、昨年7月には、経済・物価を巡る不確実性がきわめて高いことに鑑み、運用を柔軟化し、上下双方向のリスクに機動的に対応していくことで、この枠組みによる金融緩和の持続性を高めることとしました。長期金利は2022年12月頃まで0.25%程度で推移していましたが、最近は0.5%を超える水準で推移しており、それに伴って長期固定型の住宅ローン金利も上昇しました。一方、短期の政策金利については引き続きマイナス0.1%で維持しているため、短期金利に連動する変動金利型の住宅ローンは低水準にとどまっています。あくまで一般論となりますが、短期の政策金利が修正された場合には、短期金融市場における金利の変動を通じて、住宅ローンの変動金利にも影響が及ぶと考えられます。
杉田 現状、長期固定型との金利差から変動金利を選択する方が多くなっていますが、仮に変動金利に影響が及んだ場合、住宅需要にはどのような影響が考えられるでしょうか。
大竹 短期金利の上昇が変動金利に波及した場合、変動金利は従来よりも利用しづらくなるでしょう。一方、その時点における長期金利水準の程度に加えて、住宅金融支援機構の【フラット35】において、子どもの人数に応じて金利を引き下げる仕組みが新設されるなど、融資の側面からの住宅取得支援策の動きも合わせて見る必要があります。視点としては、長期固定型と変動型それぞれの金利絶対水準と相対関係の二つがあると考えています。絶対水準として、固定型と変動型がいずれも上昇するようなことがあれば、住宅ローンを利用しづらくなり、結果的に住宅需要が下押しされる可能性があります。逆に、相対関係でみて、長期固定型が魅力的になることもあり得ます。これまでは変動金利の利用が主流であったのに対して、長期固定型で優遇金利などを活用するといった動きが出てくれば、需要の減退が緩和される可能性はあると考えています。
カーボンニュートラルの実現と木材産業の可能性
杉田 気候変動対応が各国における喫緊の課題であり、脱炭素化は世界的な潮流となっています。こうした取り組みの重要性についてはどのように評価されていますか。
大竹 地球温暖化が問題視され始めた当初は、懐疑論のような意見もあったと記憶していますが、最近では全く聞かれなくなりました。気候変動や気象災害の激甚化などの主な要因が、温室効果ガス排出による地球温暖化であるという認識が広く周知されたということだと捉えています。懐疑論が再燃するようなことでもない限り、カーボンニュートラルや脱炭素の比重は今後も高まっていくと考えています。
日本銀行でも気候変動対応は重要な課題であると認識しています。2021年には、「気候変動対応を支援するための資金供給オペ」という制度を導入しました。これは、脱炭素を含めた企業の気候変動対応の取り組みに対して金融機関が投融資を行う場合に、日本銀行が長期かつ低利の資金でバックファイナンスを行う制度です。これにより、企業の気候変動対応の取り組みを間接的に支援しています。
杉田 カーボンニュートラルの実現に向けては、二酸化炭素吸収源として森林が果たす役割も大きく、森林資源の循環利用を進めていく必要があります。また、昨年10月に閣議決定された「花粉症対策初期集中対応パッケージ」では、発生源対策としてスギ人工林の伐採・植え替え等の加速化やスギ需要の拡大などが盛り込まれ、日本の人工林面積の約44%を占めるスギの利用促進が図られます。こうした中、今後の木材業界の可能性についてはどのようにお考えでしょうか。
大竹 これまでも、木造以外のビルや住宅を含めて、内装や装飾には木材が広く利用されてきました。また、森林資源の活用拡大のため、ビル等の構造部材といった建築資材としてだけでなく、木質バイオマス発電やペレットストーブなどへの利用拡大の取り組みが行われてきたと認識しています。近年では、構造部材として木材を活用したビル等の建物の規模が大型化・高層化する方向にあります。
また、世界的な課題である気候変動対応、とりわけカーボンニュートラルを実現するうえでは、再生可能エネルギーの利用拡大など様々な取り組みが必要ですが、森林の整備や森林資源の活用もその重要な一つと考えられます。植林から始まり、間伐等の維持管理、伐採、製材・加工、利用まで含めた一連のプロセスの中で、最終需要を支える木材業界における木材利用拡大の取り組みは大きな意義を持つものだと思います。花粉症問題においても同様で、国民の約4割が罹患していると言われる花粉症を減らすためには、スギの新たな需要を開拓して利用を促していく必要があり、木材業界が果たす役割に期待するところです。
杉田 当社においても、スギの付加価値を高めて需要を創造する取り組みを進めています。オリジナル素材の「Gywood®」は、軟らかいスギの表層部を圧密して硬度を高めたもので、様々な用途での活用を提案しています。例えば、会議用テーブルや学習机の天板としても採用されており、手軽に木質化が図れ、スギの需要拡大に資する点などが評価され、「ウッドデザイン賞2023」において最優秀賞(経済産業大臣賞)を受賞いたしました。今後も、カーボンニュートラルや花粉症問題の解決に貢献できるよう、努めていきます。
【ポスト・コロナにおける企業経営】
求められる持続的な賃上げと人手不足対応
杉田 今後の企業経営においてはどのような点を重視すべきとお考えでしょうか。
大竹 いよいよポスト・コロナの局面へと移行し、コロナ禍前とは経済動向が大きく変化しています。様々なモノやサービスの価格が上昇し、2023年の春闘に見られるように、賃上げを通じた従業員への還元も必要となっています。2024年以降の持続的な賃上げを実現する上でも、適切な価格転嫁の実施も含めて、企業収益を改善する取り組みが重要になると考えています。
また、人手不足への対応も重要な課題です。国内では、高齢者や女性の労働参加がかなり進んできており、今後はデジタル化や設備投資等を通じて、生産・サービスプロセスの省力化・効率化を進めることが必要になると考えています。このほか、政府の対応次第にはなりますが、外国人材の活用も検討すべき課題であると認識しています。
杉田 「ChatGPT」をはじめとする生成AIの実装化もかなり進みつつあると感じています。生成AIの実装化により多くの仕事が代替されるとも言われていますが、この点についてはいかがでしょうか。
大竹 生成AIの仕組みは、広く一般に広がっている知見をベースにしています。インターネット上などで流布されている情報には、正しいものとそうでないものがあるため、AIが導き出した解答を判断する能力は引き続き人間側に求められると思っています。正しい情報や一般的な事実から集約されたものであれば問題ありませんが、事実であろうと判断したものが自分たちにとってどのような意味を持つのかを考えるのは人間です。情報の整理などはAIの方が優れている可能性がありますが、生成AIの台頭により人間による判断の重みは増すのではないでしょうか。
杉田 最後に、住宅・木材関連事業者の皆様へのメッセージをお願いします。
大竹 日本では長きにわたって木材が利用されてきており、木の中で暮らすことが普及し、人の生活と木材が強く結びついてきたと思っています。本日、貴社の本社ビルを見学させていただき、香りや質感、安らぎなどの効能も含めて、木材には他の素材では代替できないものがあり、今後も大切にされていく素材であると改めて実感しました。加えて、カーボンニュートラルというグローバルな課題に対するソリューションの一つとして、木材利用の重要性が一段と高まっています。数十年という森林資源の循環サイクルを考えると、林業から木材利用までのプロセスにおいて、政策面でも、各企業の事業面でも、長期的な視点と一貫した対応が重要となります。森林の育成・管理と木材利用の拡大を両立する、関係事業者様の取り組みに期待しています。
杉田 本日は貴重なお話をありがとうございました。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。