ニュース&レポート
2024年4月施行 改正建築物省エネ法の2年目施行 建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度
2022年6月に公布された改正建築物省エネ法に基づき、公布2年目となる2024年4月には「建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」等が施行される予定です。今回は、新たな省エネ性能表示制度案や再エネ利用促進区域制度の概要を中心として、改正建築物省エネ法の全体感やスケジュール、全面施行に向けた一連の取り組み等についてまとめました。
改正建築物省エネ法により省エネ対策が加速
2050年カーボンニュートラル、2030年度温室効果ガス46%排出削減(2013年度比)の実現に向けて、国内のエネルギー消費量の約3割を占め、木材需要の約4割を占めるとされる建築物分野における取り組みが急務となっています。
こうした背景を踏まえ、昨年6月に「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(改正建築物省エネ法)」が公布され、建築物の省エネ性能の一層の向上を図る対策の抜本的な強化や、建築物分野における木材利用の更なる促進に関する規制の合理化等が講じられました(図1)。
同改正により、2025年4月から全ての新築建築物への省エネ基準適合義務化が定められたほか、2024年4月には建築物の販売・賃貸時におけるエネルギー消費性能の表示制度の強化や、建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度等について施行される予定です(図2)。
省エネ性能表示の普及拡大に向けた制度の強化
改正建築物省エネ法に基づき、2024年4月に施行が予定されている「省エネ性能表示制度」では、表示すべき事項等を国土交通大臣が告示で定めるとともに、告示に従って表示していない販売・賃貸事業者に対し、国土交通大臣が表示を行うよう勧告することができる等の措置が追加されました。
これを受け、改正法に基づく表示ルールの検討を行うとともに、制度の施行に向けた環境整備の進め方を検討することを目的として、「建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度に関する検討会」が設置され、2022年11月以降、3回にわたって検討が進められてきました。同検討会では、消費者等にとって分かりやすく、販売・賃貸事業者にとって取り組みやすい、フィージブル(実現可能)な省エネ性能表示の仕組みを目指すことを基本的方針として議論がなされ、省エネ性能の表示ルール等を定める「告示」及び「ガイドライン」案が取りまとめられました。
新たな省エネ性能の表示ルール
新たな表示制度に基づく告示では、「表示すべき事項」「表示の方法」等が定められました。表示すべき事項として、省エネ性能を多段階に評価した結果を評価年月日と併せて表示することを定め、住宅については外皮性能(断熱性能)及び一次エネルギー消費量を、非住宅建築物については一次エネルギー消費量を記載することが定められました。一次エネルギー消費量については、省エネ基準からの削減率に応じた評価を星の数で段階的に示すこととし、住宅の断熱性能については、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」の断熱等性能等級1~7に相当する7段階で表示することとしています(図3)。
表示の方法については、消費者等が容易に建築物の省エネ性能を比較できるよう、国が様式を定めるラベルにより表示を行うこととし、販売・賃貸時の広告やホームページ等での表示が想定されています。また、任意で表示できる事項として、再エネ利用設備の有無や住宅の目安光熱費、第三者評価マーク(BELS)等を規定しています。
そのほか、遵守すべき事項として、多段階評価や目安光熱費の算出方法を定めるとともに、表示後に多段階評価の結果が低下する省エネ性能の変更が生じた場合には、表示の修正が必要である旨を規定しています。
省エネ性能表示のガイドライン
ガイドラインでは、省エネ性能表示の円滑・適正な施行を確保するとともに制度の普及拡大を図ることを目的に、消費者等に対する追加的な情報提供を行う際の表示事項等が定められました。
具体的には、第1章に「販売・賃貸事業者が努めなければならない事項」、第2章に「円滑・適正な省エネ性能表示のため販売・賃貸事業者等が留意すべき事項」、第3章に「制度の普及拡大に向けた望ましい省エネ性能表示のあり方」という構成で、告示の解説等のほか、表示に当たっての留意事項や望ましい表示のあり方(評価書による説明等)、建築時に省エネ性能を評価していない既存建築物についての対応等が提示されています。
また、2024年度からの制度施行に向けて、ガイドラインの公表以降も、WEB上での説明会動画の配信や制度周知のチラシの配信、制度HP・リーフレットの公表等、省エネ性能表示の実装に必要な環境整備を引き続き実施していく予定です。
省エネ性能表示の先行的な取り組みを支援
国土交通省は8月21日、省エネ性能表示制度の施行に先立ち、既存住宅・建築物の販売・賃貸の際の広告等への省エネ性能表示を行う先行的な取り組みを支援することを公表しました。
主な事業要件は、300㎡以上の既存住宅・建築物における省エネ性能の診断・表示で、補助費用対象としては、①省エネ性能評価のために実施する現況調査に要する費用、②設計一次エネルギー消費量・BEI等の診断に要する費用、③基準適合認定表示やBELS等の第三者認証取得に必要な申請手数料、④表示に要する費用の四つを定めています。なお、応募期間は8月21日から11月30日までとしています。
再エネ利用設備の導入促進に向けた制度
同じく2年目施行となる「建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度」については、「建築物省エネ法に基づく『建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度』促進計画の作成ガイドライン案」が公表されています。
同制度は、建築物への再エネ利用設備の導入促進を図るため、改正建築物省エネ法に基づき新たに制定されたもので、市町村が建築物への再エネ利用設備設置の促進に関する計画等を作成・公表することで、促進区域において再エネ利用設備の導入につながる措置を講じることを定めています。
ガイドライン案では、促進区域において建築士による再エネ導入効果の説明を義務付ける措置が示されたほか、建築基準法の形態規制の合理化により、促進計画に定める特例適用要件に適合して再エネ設備を設置する場合に、高さ制限や容積率制限、建蔽率制限について特例が認められること等が定められています(図4)。
円滑施行のためのサポート体制を構築
8月7日に開催された官民による第2回「改正建築物省エネ法・建築基準法の円滑施行に関する連絡会議」では、2年目施行に関する情報共有のほか、施行に向けた体制づくりや今後のスケジュールについて協議されました。同会議では、改正建築物省エネ法の円滑な施行に向けて、設計者や施工者、審査者、発注者等が適切に対応できるよう、関係団体と連携し、実行性のある周知活動を展開するための議論がなされました。
具体的には、改正法の全面施行の際、事前周知活動のみでは十分に情報が行き届かない申請者が一定数生じることを想定し、全都道府県において申請図書の作成や申請手続きについて個別にサポートする体制を構築することが示されました。サポート業務の実施費用は国が負担することとし、今年度は岩手県や静岡県等の8県で先行的にサポート体制を立ち上げ、全国展開に向けて課題や留意点の整理を行うこととしています。
今後、11月上旬に関係事業者向けの改正法制度説明会や設計等実務講習会を全国で順次開催するとともに、説明会動画の配信も行われる予定です。省エネ講習テキスト、4号申請マニュアルについては11月下旬に公表・配布される予定です(図5)。
改正法に伴い基本的方針についても改正
8月8日に開催された第24回建築環境部会では、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する基本的な方針」の改正案が示されました。
改正建築物省エネ法の施行に伴い、基本的方針についても全面的に改正予定とし、改正に当たっては、2年目施行において必要な対応を措置するとともに、3年目施行の省エネ基準適合義務化に対し早期の対応を促すため、3年目施行分の内容も含めた改正内容とし、今秋の公布と、2年目施行と同時となる2024年4月の施行が目指されます。
基本的な方針の改正案では、現在の章立てをベースに、一部を統合整理した上で改正法の内容を反映するとともに、「建築物への再生可能エネルギー利用設備の設置の促進に関する計画に関する基本的な事項」を新設する方針が示されています。
省エネ性能の高い家づくりをサポート
一連の法改正により、省エネルギー性能の高い家づくりの重要性が一層高まる中、工務店様やビルダー様においても、省エネ計算や基準適合審査の申請など、様々な対応が求められています。ナイスサポートシステムでは、省エネ計算サポートや光熱費シミュレーションサービスのほか、各種申請書の作成や申請図面のチェック、ZEHの申請サポート等を一括で行っています。適合審査の申請等は複雑で多岐にわたるため、豊富な実績を持つサポートセンターのサービスをぜひご活用ください。
※ 図はすべて国土交通省資料より作成