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特別インタビュー 危機を乗り越えるためのBCMへの取り組み
住宅の内装建材を幅広く手掛ける永大産業株式会社では、中期経営計画「EIDAI Advance Plan 2023」に基づき事業活動を展開しています。今回は、同計画において掲げられている事業継続マネジメント(BCM)の取り組みについて、永大産業株式会社 代表取締役執行役員社長の枝園 統博氏にお話をお聞きしました。
木を活かし、よりよい暮らしを
―改めて、これまでの永大産業㈱様の歩みや取り組みについてお聞かせください。
枝園 最初に、当社の敦賀事業所パーティクルボード工場で今年5月に発生した火災事故、並びに同日、子会社であるENボード㈱で発生した火災事故により、皆様に大変なご迷惑をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます。亡くなられた社員のご冥福をお祈りし、ご遺族に対し心よりお悔やみ申し上げますとともに、負傷された社員の方々に心からお見舞い申し上げます。敦賀事業所における事故の発生原因及び損害状況については、関係当局の調査が継続しており、当社も全面的に協力しております。ENボード㈱では、復旧工事が完了し、安全に稼働できることを確認した上で、6月26日より生産を再開いたしました。
当社は、戦後復興資材であった合板を製造販売する企業として、1946年に大阪市大正区にて創業しました。社名である「永大」には、永遠に大きく発展するという意味が込められています。1959年には、プリント合板の製造販売を開始しました。当時は、合板に対して、耐久性等の観点から住宅の建築用材として否定的な見方が多くありました。そこで1961年には、合板を使用したモーターボートの試運転によって耐水性を示すなど、独自の取り組みによって建築用材としての合板の性能を証明しました。1964年には、大阪事業所と敦賀事業所を開設し、生産拠点の拡大とともに企業としての発展を図ってきました。
現在の事業内容としては、建材分野(フローリング・室内階段)、内装システム分野(室内ドア・造作材・収納製品)、住設分野(システムキッチン・洗面台)の「住宅資材事業」と、パーティクルボード分野を中心とした「木質ボード事業」の二つで、売上構成は、住宅資材事業が約90%、木質ボード事業が約10%となっています。また、生産拠点として、大阪事業所、敦賀事業所、山口・平生事業所及び複数の子会社や関連会社を有しているほか、全国に41の営業拠点を展開しています。
―2007年には、基本理念を刷新されました。どのような思いが込められているのでしょうか。
枝園 当社では、基本理念として「木を活かし、よりよい暮らしを」を掲げています(図1)。人は昔から「木」と暮らしをともにし、自然と調和してきましたが、物質的な豊かさを求めすぎるあまり環境破壊を引き起こし、真の豊かさとは何かを見失ってしまいました。
当社は、住まいづくりの中で「木」を活かし、よりよい暮らしを実現することこそ、本当の豊かさであると確信しています。それは、この地球で「共に生きる」という考えのもとに、持続可能な社会が確立して初めて可能になると考えています。地球環境に配慮した製品による「地球との共生」、豊かな住環境を創造し、地域社会の発展に貢献する「社会との共生」、人々の住生活をより豊かで快適にする「人との共生」を通じて、豊かで持続可能な社会の実現に貢献する企業であり続けることを目指しています。
風被害をきっかけに事業継続計画(BCP)を策定
―中期経営計画「EIDAI Advance Plan 2023」において、BCM(事業継続マネジメント)に関する貴社の姿勢が明らかにされています。
枝園 2018年9月4日に近畿地方を襲った台風21号によって大阪事業所が被災し、工場への浸水や建屋の一部破損等の被害が発生しました。大きな被害がなかった工程については、再稼働に向けた点検、整備作業を進めた上で、9月10日から順次生産を再開したほか、生産再開まで時間を要する一部の製品については、子会社である永大小名浜㈱及び各協力会社による代替生産を行うなど、供給面の影響を最小限に抑えるべく対応を進めました。
この被災によって多額の特別損失を計上するなど、2018年度の親会社株主に帰属する当期純損失は34億34百万円となりました。これを機に、BCP(事業継続計画)を策定し、現在は、事業の継続能力を高めていくための活動であるBCM(事業継続マネジメント)に取り組んでいます。
―事業継続に向けて、具体的にどのような取り組みを推進されているのでしょうか。
枝園 まずは、万が一の場合でも安定的な供給責任を果たせるよう、生産拠点の複数化を進めました(図2)。具体的には、静岡県でENボード㈱のパーティクルボード生産工場の建設に着手し、昨年より操業を開始しています。また、2020年には群馬県前橋市でキッチンや洗面化粧台を生産する関東住設産業㈱が操業を開始しました。更に、物流拠点についても同じく2020年に埼玉県草加市に草加物流センターを設置するとともに、翌年には本社敷地内に新たな物流倉庫を建設し、本格的な運用を開始しています。資材の調達先についても複数の企業をリスト化した上で、調達状況について週次で確認するようにしています。
また、物流や情報システムの改革を進めています。本社物流センターにおいては、大雨などの影響による浸水の可能性を想定し、倉庫全体の基礎の高さを通常よりも50㎝かさ上げしたほか、隣接する本社倉庫とともに安定的に電力が供給されるよう、受電設備を1階ではなく2階に設置しました。貨物用エレベーターについては、仮に1基が故障しても業務が滞ることがないよう、この類の倉庫では稀な2連式を設置しています。更に、不測の事態により2階から運び下ろすことが困難になった場合のために、2階正面に大型バルコニーを設けることで、クレーンによる搬入、搬出を可能とするなど、BCMの一環で建設された物流倉庫として、工夫が施されています(図3)。
情報システムについても、仮に生産に異常が生じても遅滞なくお客様に納期回答ができるよう、改善を図っています。具体的な措置として、二次元コードを用いた新たな物流管理システムを導入し、生産から出荷までの過程を追跡できるシステムを構築しています(図4)。日々、非常に多くの製品を生産・出荷しているため、それらが今どこでどのような状態にあるのかを、リアルタイムで把握できる仕組みに切り替えています。
―災害発生時のマニュアルも作成されています。内容についてお聞かせください。
枝園 災害が発生した際の人的被害及び業務への影響を最小限にとどめるため、「大規模災害発生時の初動対応マニュアル」を整備しています。このマニュアルでは、今後、巨大地震等の大規模災害が発生した場合に備え、迅速かつ的確に行動するための行動基準、災害対策本部設置の判断のほか、グループ全従業員の安全確保、システム・生産設備復旧のための手順についてまとめています。
これらの仕組みやマニュアルは、いざという時に有効に機能しないと意味がありません。当社では、大規模な地震などによって被害が出たことを想定し、安否確認のための社内連絡網が正しく機能しているか、策定したBCPが有効に機能しているかなどについて確認するためのトレーニングを実施しています。また、2018年の台風による被災を風化させないために、被災した9月4日を「防災の日」と定め、毎年当社グループ全体で非常時のための訓練を行うこととしています。
「安全第一」はトップの経営姿勢
―事業を継続する上での、「安全」へのお考えをお聞かせいただけますか。
枝園 企業は営利を目的とした集団であり、利益を追求するのは本来の姿ですが、重要なのは「利益の稼ぎ方」と考えています。有名な標語に「安全第一」という言葉があります。これは、1906年に米国のU.S.Steel社のゲーリー社長によって提唱された経営方針ですが、それまでの「生産第一、品質第二、安全第三」という方針を「安全第一、品質第二、生産第三」に改めたものです。周囲の反対を押し切って新しい方針を実施に移したところ、災害が減少したのはもちろんのこと、製品品質も大幅に向上し、安定した生産活動ができるようになったそうです。
「安全第一」は、作業員に注意喚起を求めるものではなく、経営者が常日頃から肝に銘じなければならない経営方針であり、トップの経営姿勢です。5月に発生した火災事故を受けて、改めて最優先すべきは人命であり、何が何でも命は守らなければならないということを全社員に伝えました。その上で、各現場で安全性に支障をきたすようなことはないか、危険な経験をしたことはないかなど、事故や災害につながり得る要素を集約し、対策を講じていくことが経営者としての務めであると考えて取り組んでいます。
―最後に、業界の皆さんへのメッセージをお願いします。
枝園 製品の生産工程において大型の施設や設備を要する装置産業では、装置を順調に稼働させて製品を安定的に供給していくことが絶対条件です。ただし、想定外の事故が起きて生産に支障が出てしまうケースがあることも事実です。そのため、パーティクルボードやMDF、合板などの製品について、メーカー同士で融通し合うことが必要と考えています。企業によって得手不得手があり、生産したことがない製品に対応することはできないため、日頃から各企業が連携しておくことが重要です。
BCMにはコストを要しますが、事故が起きることを前提に実現性のある事業継続計画を策定することが必要です。また、その計画の有効性を確認し、ブラッシュアップをするための定期的な訓練が欠かせません。「備えあれば憂いなし」ということを肝に銘じて、今後も皆様から選ばれる会社となるよう、引き続き努力してまいります。
―本日はありがとうございました。