閉じる

ニュース&レポート

  • トップ
  • ニュース&レポート
  • 森林・林業白書 特集 気候変動に対応した治山対策 持続可能な地域づくりに向けて森林整備や治山事業を強化

森林・林業白書 特集 気候変動に対応した治山対策 持続可能な地域づくりに向けて森林整備や治山事業を強化

 林野庁は5月30日、2022年度の「森林・林業白書」を公表しました。特集では、「気候変動に対応した治山対策」が取り上げられています。今回は、森林が有する国土保全機能や、気候変動等に対応した治山対策などについてご紹介します。

森林の機能と治山事業の役割

 森林は、地球温暖化防止に貢献する地球環境保全機能などを有しているほか、山地災害防止機能・土壌保全機能、水源涵養機能等も備えており、山崩れや洪水を防止・軽減し、地形が急勾配で降水量が多い日本において国土保全上重要な役割を担っています。このうち、山地災害防止機能・土壌保全機能は、樹木の樹冠や下草、落葉等が土壌を雨滴から保護することで土壌が地表の水分を吸収する能力を確保し、地表を流れる水による侵食を防ぐ表面侵食防止機能と、樹木の根が土砂や岩石等を固定することで表土層の崩壊を防ぐ表層崩壊防止機能が発揮されることにより、発現します(図1)。

表面侵食表層崩壊防止機能

 また、森林の機能の維持・向上を図る治山事業は、山地災害から国民の命や財産を守ることに寄与するとともに、水源の涵養や良好な生活環境の保全、形成を図るなど、重要な国土保全施策の一つとなっています。

気候変動に対応したこれからの治山対策

 近年の気候変動による大雨等の増加に伴い、1カ所当たりの災害規模が増大傾向にあるなど、山地災害が激甚化するとともに、発生形態も変化しています。「国土強靭化基本計画」(2018年閣議決定)においては、事前防災・減災のための山地災害対策を強化することが位置付けられ、2020年には、強靭な国土づくりの推進を目的に、激甚化する風水害などを重点対策とする「防災・減災、国土強靭化のための5カ年加速化対策」が閣議決定されました。

 治山対策における具体的な取り組みとして、山地災害危険地区のうち、特に緊要性の高い地区において治山対策の推進を2025年度に80%まで向上させることを目標とし、集中的に対策が進められています。広島県東広島市の事例では、「平成30年7月豪雨」によって山陽自動車道が一時通行止めになるなど甚大な被害が発生、山地災害被害額は255億円となったものの、その後の治山ダムの設置等により、2021年8月の大雨では土砂流出等を防ぎ、山地災害被害額が1億円にとどまるなど、効果を発揮しています。

 また、気候変動の影響による水害の激甚化及び頻発化を踏まえ、あらゆる関係者が協働して流域全体で水害を軽減させる「流域治水」を、国土交通省ほか関係省庁等が連携して推進しています。2021年3月には、全ての一級水系などで流域治水プロジェクトが策定・公表され、その全てにおいて森林整備と治山対策も位置付けられました(図2)。

流域治水の取り組み

森林・林業施策による災害に強い地域づくり

 今後、森林の有する国土保全機能をはじめとする多面的機能を発揮させるため、重視すべき森林の機能に応じたゾーニングや伐採造林届出制度等により、適正な森林施業の確保が図られます。また、森林所有者の経営への関心の薄れや森林の所有者不明等により、間伐や再造林等の森林整備が進んでいない状況を踏まえ、森林整備事業等による支援、造林コストの低減に向けた技術の開発・普及、森林経営管理制度等による森林の集積・集約化等が実施されます。

 林野庁は、治山対策・森林整備による森林の維持・造成は、気候変動による山地災害や洪水の激甚化への適応策であるとともに、二酸化炭素の吸収源として気候変動の緩和にも貢献すると述べています。加えて、治山対策等による森林機能の維持・向上は、生態系を活用した防災・減災やグリーンインフラの考え方にも合致していることから、森林・林業施策全般による適切な整備・保全を、持続可能な地域づくりに貢献する取り組みとして位置付けています。

>森林・林業白書

ウッドデザイン賞2023