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気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書統合報告書 地球温暖化は短期のうちに1.5℃へ到達

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第58回総会が、3月13日から3月20日にかけてスイス連邦のインターラーケンにて開催され、IPCC第6次評価報告書(AR6)統合報告書の政策決定者向け要約(SPM)が承認されるとともに、同報告書の本体が採択されました。今回は、同報告書の概要とともに、IPCCが公表しているシナリオをベースとした、TCFD提言に基づくナイス㈱の開示情報についてご紹介します。

9年ぶりとなる統合報告書の公表

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府間組織で、2023年3月時点で195の国と地域が参加しています。多くの研究者の協力の下、気候変動に関する最新の科学的知見を評価し、定期的に評価報告書を公表しています。

 第6次評価報告書については、2021年8月に第1作業部会報告書「自然科学的根拠」、2022年2月に第2作業部会報告書「影響・適応・脆弱性」、2022年4月に第3作業部会報告書「気候変動の緩和」が順次公表されており、これらの内容を踏まえ、このたび9年ぶりとなる統合報告書が公表されました。同報告書では、観測された温暖化とその原因などの現状と傾向、気候変動の影響やリスク及び緩和経路、気候対策の緊急性やその効果などについてまとめられています。

地球温暖化の要因は人間活動によるものと断定

 同報告書によると、地球温暖化を引き起こしてきた要因は、人間活動による温室効果ガスの排出であることに「疑いの余地がない」と断定した上で、1850~1900年を基準とした世界平均気温の上昇は、2011~2020年に1.1℃まで達しています。また、持続可能でないエネルギー利用、土地利用、生活様式及び消費と生産のパターンなどの影響で、現在も世界全体の温室効果ガス排出量は増加し続けているとしています。これにより、大気、海洋、雪氷圏、及び生物圏に広範かつ急速な変化が生じており、人為的な気候変動は、既に世界中の全ての地域において多くの影響を及ぼし、損失と損害をもたらしていると述べています。

 また、2021年10月までに発表された「国が決定する貢献(NDCs)」による世界全体の温室効果ガス排出量では、地球温暖化が21世紀の間に1.5℃を超える可能性が高く、温暖化を2℃以下に抑えることが更に困難になる可能性が高いことが示されました。

この10年の行動が数千年先まで影響を及ぼす

 同報告書においては、将来の排出量、気候変動、関連する影響とリスクなどを検討するために、温室効果ガス排出量が多いシナリオ、中程度のシナリオ、少ないシナリオなど、複数のシナリオが用いられています。これら全てのシナリオにおいて、継続的な温室効果ガスの排出は更なる地球温暖化をもたらし、短期のうちに気温上昇が1.5℃に到達するとしています。地球温暖化の進行に伴い、損失と損害は増大し、人間と自然のシステムのより多くが適応の限界に達すると指摘しています。

 一方で、将来的な変化の一部は既に不可避であるものの、世界全体の温室効果ガスの大幅で急速かつ持続的な排出削減によって、抑制しうる可能性も示されました。地球温暖化を抑制できるかどうかは、温室効果ガスの排出量正味ゼロを達成する時期までの累積炭素排出量と、この10年の温室効果ガス排出削減の水準によって決まるとしています。

 「全ての人々にとって住みやすく、持続可能な将来を確保するための機会の窓は急速に閉じている」と指摘した上で、今後10年に行う対策が、現在から数千年先まで影響を及ぼすと警鐘を鳴らしています。その上で、気候目標を達成するためには、気候変動に対応するための資金を何倍にも増加させる必要があると述べています。

1.5℃目標には2035年に19年比60%削減が必要

 気温上昇を1.5℃以内に抑えるためには、この10年間に全ての部門において急速かつ大幅で、即時の温室効果ガス排出削減が必要であると予測しています。世界の温室効果ガス排出量は遅くとも2025年までにピークを迎え、世界全体におけるCO2排出量の正味ゼロは、気温上昇を1.5℃に抑える場合は2050年初頭、2℃に抑える場合は2070年初頭に達成されるとしています(図1)。

世界全体の正味の温室効果ガス排出量

 これらのシナリオを実現するための段階的な削減量について、気温上昇を1.5℃に抑えるためには、世界全体の温室効果ガスを2035年に2019年比60%、2040年に同69%、2050年に同84%削減する必要があるとする新たな知見が示されました(図2)。

温暖化を1.5℃に抑える温室効果ガス削減量表

>環境省 IPCC第6次評価報告書

時を刻む気候の時限爆弾