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林野庁 森林環境税及び森林環境譲与税 森林整備とその促進に向けて広がる市町村の活用実績
2019年度に、市町村による森林整備等の新たな財源として「森林環境譲与税」の譲与がスタートしました。また、2024年度からは、森林環境譲与税の財源となる「森林環境税」の課税が開始されます。今回は、同税制の概要に加え、各市町村における森林整備等に向けた譲与額の活用事例等についてご紹介します。
森林整備の財源として市町村に譲与
日本の国土の約7割を占める森林には、温室効果ガス削減や土砂災害の防止、水源の涵養といった様々な機能があります。一方で、林業の採算性の低下や所有者不明の森林の顕在化、担い手の不足などにより、手入れが行き届かない森林が増えているのが現状です。こうした状況を踏まえ、森林整備等に必要な地方財源を安定的に確保する観点から、2019年3月に「森林環境税」及び「森林環境譲与税」が創設されました。
森林環境税は、国税として一人当たり年額1,000円を賦課徴収するもので、2024年度から運用が開始されます。また、森林環境譲与税は2019年度から運用されており、私有林人工林の面積、林業就業者数及び人口による客観的な基準で按分して市町村及び都道府県に対して譲与されています(図1)。国民によって納税された森林環境税が、国を通して全国全ての市町村及び都道府県に配分され、森林整備やその促進のための取り組みに活用されています。
徐々に拡大する取り組み実績
森林環境譲与税の使途については、森林の整備に関する施策、森林の整備を担う人材の育成及び確保、森林の有する公益的機能に関する普及啓発、木材の利用促進に関する施策等に要する費用に充てることとされています。その活用額は毎年増加しており、2019年度の96億円から2021年度には270億円まで拡大しています。更に、2022年度には472億円にまで達し、譲与額に対する消化率は9割超となる見込みです(図2)。当初、都市部などの私有林人工林面積の少ない市町村については、森林整備のための資金需要が小さいことから譲与額を全額積み立てるケースが見られたものの、最近では公共施設等における木材利用や普及啓発イベントの開催などを中心に、活用が広がっています。
また、実施項目ごとの推移を見ても、ほとんどの項目で毎年増加しています。例えば、2021年度における森林整備面積は、2019年度の約5倍となるなど、取り組みが着実に進展しています(図3)。
具体的な取り組みを事例集として公開
林野庁では、各自治体における森林環境譲与税を活用した取り組みについて事例集を作成、公表しています。事例集では、事業内容や事業スキームに加え、工夫や留意した点などについて、画像やイラストを交えながら分かりやすく紹介されています。
例えば、秋田県大館市では、森林経営管理制度等の創設を機に市の体制を充実させ、秋田杉の原産地として幅広い取り組みが推進されています。2021年度には、新たに78.6haの森林を市に集積、1.2haを林業経営者に再委託したほか、ドローンを活用した現況調査等が実施されました。
また、島根県美郷町では、新たな林業の担い手の確保に向けて、パンフレットの作成や農林大学校の学生向け説明会を開催し、林業の魅力についてPRしています。そのほか、林業作業員の労働環境の改善に向けて、空調服などの安全装備品の経費について支援しています。
市民向けのイベントによる普及啓発活動
神奈川県川崎市では、木の良さを感じられる「都市の森」の実現に向けて、公共建築物や民間建築物への木材利用、地方創生に資する連携事業等が展開されています。このうち、普及啓発イベントとして、森林が身近にない市民に木材利用の意義や木の良さを伝えることを目的に、「優しい木のひろば」を2019年から毎年開催しています。同イベントでは、木製楽器によるお子様向けのコンサートや、木製品を用いたワークショップ、自治体や民間企業によるブース展示などが行われており、当社グループにおいても、オリジナル木質商品「Gywood®」による遊具の出展や、大工用具のカンナを使って木を削る体験会などを実施しました(図4)。
林野庁では、こうした事例集の公開のほか、PRパンフレットや一般向け説明パネルを作成するなど、森林環境譲与税の周知に向けた取り組みを進めています(図5)。
>林野庁HP 森林環境税及び森林環境譲与税 PRパンフレット
※ 図1~3、 5は林野庁資料より作成