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ニュース&レポート

ナイス㈱ 「NIKKEI Real Estate Summit2023」で講演 木材利用促進と森林の循環利用に向けた取り組み

 ナイス㈱は、2月17日に東京国際フォーラムで開催された都市の未来を展望する大型サミット「NIKKEI Real Estate Summit2023」(主催:日本経済新聞社)にて、上席執行役員 資材事業本部副本部長の髙木靖、並びに執行役員資材事業本部木造建設事業部長の遠藤雅宏が登壇し、「脱炭素時代における木材利用促進の重要性」をテーマに講演を行いました。今回は、当日の講演の一部を収録してお送りします。

リアルエステート会場写真

木材産業を取り巻く環境の変化
脱炭素社会の実現に向けて求められる森林の役割

 ナイス㈱は、1950年に建築用木材を競りによって販売する「市売木材株式会社」として創業し、その後、業容を拡大しながら全国で木材市場を展開していきました。木材流通をルーツとする会社として、1980年から日本国内の山林の取得をはじめ、保全・育成にも取り組み、現在では、全国8カ所に総面積2,021.3haの社有林「ナイスの森」を保有しています。売り上げの約8割を占める建築資材事業では、全国の木材・建材販売店様に向けて、木材や建築資材の流通・販売を行っているほか、非住宅建築物の木造・木質化に向けた取り組みを進めています。

 木材産業を取り巻く環境は、大きく変化しています。まず、長期的なトレンドとして、脱炭素社会の実現に向けた世界規模の潮流が挙げられます。日本においては、2020年10月の「2050年カーボンニュートラル」宣言に基づき、2020年12月に「グリーン成長戦略」が策定され、2021年3月には地球温暖化対策推進法の改正案が閣議決定されました。そして、新たな地球温暖化対策計画では、2030年度の温室効果ガス排出量の削減目標を2013年度比で46%とすること、更には50%削減に向けて挑戦を続けることが表明されました。この削減目標46%のうち、2.7%については森林や木材によるCO2の吸収と、炭素の固定でまかなうことが目標として掲げられています。

 森林を構成している樹木は、光合成によって大気中のCO2を吸収し、伐り出され、建築物や家具となった後も体内に固定し続けます。そのため、地球温暖化対策として森林や木材が果たす役割は大きく、その機能を最大限に発揮させるためには、森林を適切に管理し続けることが重要です。「伐って、使って、植えて、育てる」という森林の循環利用を進めるために、建築物を中心に木材の利用を更に促進していく必要があります。

ウッドショックによる影響

 短期的な環境変化としては、新型コロナウイルス感染症の世界規模での拡大に伴い、木材の需給バランスが崩れて価格が高騰する、いわゆる「ウッドショック」と呼ばれる現象が、2021年より日本で顕在化しました。2022年に入ってからは、ロシアによるウクライナ侵攻に伴い、エネルギーや食糧価格が高騰し、世界的にインフレ基調が続いています。

 ウッドショック前後における、東京港の輸入木材の在庫量の推移からも影響の大きさが見て取れます(図1)。コロナ禍において、アメリカでは郊外への住み替え需要の高まりや超低金利政策に伴い、住宅着工が増加し、木材需要が高まりました。一方で、各国のロックダウンなどにより、木材の供給は滞り、物流網は停滞しました。木材のサプライチェーンは世界規模で混乱し、日本における木材入荷量も激減、2021年の東京港の在庫量は低水準で推移しました。

輸入木材の在庫量の推移グラフ

 その後、物流網の回復等により、ウッドショック下で買い増した材料が入荷され、2022年の年初には港頭在庫が膨らみました。そこに、ウクライナ情勢の影響などが加わり、先行きは不透明な状況です。また、ウッドショックの影響は、輸入材価格だけでなく国産材価格にも及び、価格が高騰しました。2021年11月ごろにピークアウトし、現在は調整局面に移行したものの、高値水準が続いています。

「国産材のシェアの向上」に向けて
低層非住宅の木造化を推進

 こうした中、当社では品質の安定した木材の安定的な供給をはじめ、木材の利用促進に向けた様々な取り組みを進めています。そのために、木材流通の立場から川上・川中・川下をつなぎ、お互いに「顔の見える関係」を構築することで、「国産材のシェアの向上」と「国産材の価値の向上」の二つに取り組んでいます(図2)。

木材の需要創造を推進

 「国産材のシェアの向上」に向けた取り組みの一つが、非住宅建築物における木造化です。新設住宅着工戸数の減少が見込まれる中、建築物における木材利用を促進していくためには、非住宅分野での利活用を進めていくことが必要となります。

 建築物における木材利用の状況を用途別・階層別に見ると、1~3階建ての低層住宅の木造化率は8割を超えていますが、非住宅建築物の木造化率は1割以下と低い状況で、ここに木材需要の拡大の余地があります(図3)。当社では、これまで住宅事業で培ってきた建築のノウハウを非住宅に生かすことを基本方針として、3階建て以下の低層非住宅の木造化に取り組んでいます。

用途別階層別の着工建築物の床面積

木造・木質化のファーストコール機能を担う

 非住宅の木造化を実現するためには、情報、構造設計、木材調達、生産加工、施工といったあらゆる機能が必要となり、各分野における協力体制を構築し、それらを適切に組み合わせることが求められます。当社では、「ウッドビルディングネットワーク」という概念のもと、70年以上にわたって培ってきたグループ内の機能や取引先とのネットワークを

生かし、連携を図ることで、プロジェクトごとに最適な事業提案を行うことを可能としています(図4)。

ウッドビルディングネットワーク概念図

 木造化を検討する方々が抱えている悩みは、「木造にするためにはどうすればいいのか」「どこに相談すればいいのか」など、事業の初期段階のものが非常に多くなっています。そこで、木造建築に関するファーストコールセンターとして、2020年に「木造テクニカルセンター」を設立しました。同センターでは、ファーストコールの段階でお預かりした図面や簡単なスケッチを基に、耐力壁の位置や梁の太さ、大きさについて簡易構造計算を行った上で、概ね一週間で木造化の可否や躯体に関する概算費用などについて回答しています。回答に当たっては、調達のしやすさや建築コストなどを考慮し、一般流通材をベースとした提案を行っています。これまでに1,000件を超える相談を頂いており、事業化につながる案件も増加傾向にあります。

 同センターに様々な情報を集約することによって、地域材をふんだんに活用した構造設計や、情報段階での事業スキーム提案など、ネットワークの拡大によってお客様の様々なニーズへの対応を実現しています。

ウッドビルディングネットワークによる六つの機能

 ウッドビルディングネットワークの活用によって提供可能な機能は、①低層木造化、②サプライチェーン、③木質化、④最適化、⑤同業連携、⑥事業形態です。

 ①低層木造化については、3階建て以下の建築物は木造化が比較的容易で、施工面においても、当社の取引先であり、木造一戸建住宅の施工を得意とする建設会社様の対応可能領域のため、ネットワークを生かした施工が可能となります。②サプライチェーン及び③木質化については、当社がこれまで培ってきた木材調達ネットワークによって、一般流通材や各地域産材のスムーズな調達が可能となります。加えて、自社オリジナルの木材製品を活用した内装木質化についても積極的に提案しています。④最適化については、経済合理性の観点から、低コストで調達することが可能な一般流通材を軸に組み立て、構造提案を行います。空間特性によっては対応が難しいケースもあるため、その際には適材適所で様々な工法をミックスし、事業化に向けた提案を行っています。

 ⑤同業連携については、当社グループの機能だけでなく、提携プレカット工場や建設会社様、設計事務所様などと連携し、非住宅の木造・木質化を推進しています。例えば、住宅から非住宅へ新たな領域を見据える建設会社様との情報連携や、ウッドショックのような有事の際にも対応可能な木材調達連携、大型建築物における部位ごとの生産加工連携など、全国に広がるウッドビルディングネットワークを活用した事業化が可能です。⑥事業形態については、建設会社様から請け負う建て方工事や総合建設工事などの下請け工事、設計事務所様や事業主様の要請による元請け工事の双方に対応することが可能で、様々な用途の非住宅木造建築物の施工を手掛けています。

 建築物の木造・木質化を検討される際には、まずは木造テクニカルセンターへご相談いただき、ファーストコール機能及びウッドビルディングネットワークをご活用ください。

木造テクニカルセンター囲み

高木氏遠藤氏囲み

国産材を活用した木造住宅の推進

 国内における木材自給率は、最も低かった2002年から徐々に上昇傾向にあり、2021年には41.1%となりました。このうち、建築用材等の自給率は48.0%となっています。国としては、木材自給率を更に向上させていく方針ですが、そのためには木造住宅における国産材使用比率を上げていく必要があります。全国建設労働組合総連合が昨年12月に公表した「工務店の国産材利用の実態調査アンケート」の結果によると、ウッドショックを経た変化として、多くの工務店様が柱材や横架材などの構造材を中心に、「輸入材製品から国産材製品へ転換した」と回答しています(図5)。こうした需要に対して、安定的に国産材を供給していくために、当社では構造材から羽柄材、内外装材に至るまで、住宅1棟分の木材を国産材でセレクトしてパッケージ化した「国産材パッケージ」をご提案しています。

ウッドショックを経た変化についてグラフ

 一方、国内の森林においては高齢級化が課題となっています。建築用材としての適齢期を超えた大径木から増え続ける中、この活用を進めていく必要があります。大径木から木取りする場合、丸太の芯を中心に柱や土台、桁などの構造材を取り、その周辺の肉厚な部分からは大量の羽柄材が取れることになり、建築用材としての需給バランスが崩れてしまいます。そこで、大径木からラミナと言われる板を取り、それらを乾燥し、接着させた集成材を供給していくことが、大径材の有効活用につながると考えています(図6)。集成材は強度が明示される上、寸法の安定性も高いため、建築現場におけるトラブルが非常に少ないという利点があります。「国産材パッケージ」においても、国産のスギやヒノキ、カラマツなどの集成材でコーディネートすることで、大径材の活用につなげていきたいと考えています。

大径木における木取りの例

五味氏講演開催概要囲み

「国産材の価値の向上」に向けて
付加価値を高める木材製品の開発

 「国産材の価値の向上」に向けて、内外装の木質化についても積極的に提案しています。当社グループでは、「WoWooD®」という名称で、木質化に向けた取り組みをグループ横断型で進めています。昨年5月に実施した本社ビルの木質化リノベーションにおいても、社員から募ったアイデアを取り入れ、様々な木材の使い方に挑戦しています。

 木質化を提案するに当たり、オリジナル木材製品の開発にも取り組んでいます。スギを中心として主に国産針葉樹の大径材を活用した「Gywood®」は、木材の表層部を特に圧密して高密度化した木材製品です(図7)。表層部と比べて中層部は圧密度が低いため、針葉樹の特長である調湿性の高さや熱伝導率の低さ、衝撃吸収性、軽さなどはそのままに、広葉樹のように傷が付きにくい硬さを併せ持つ、ハイブリッドな無垢素材です。また、同じくオリジナル木材製品の「ObiRED®」は、宮崎県産飫肥(おび)杉の大径材の赤身部分だけを使用しています。飫肥杉は、豊富な抽出成分により高い防腐・防蟻性能を持ち、古くから造船の材料としても用いられています。独自の乾燥技術によって高い形状安定性も併せ持ち、デッキ材などのエクステリア材として活用されています。

オリジナル木材製品Gywood

オリジナル木材製品による木質化提案

 これらのオリジナル木材製品は、兵庫県淡路島に昨年4月にオープンした、建築家の坂茂氏の設計による「禅坊 靖寧」においても多く使用されています。自然に優しい素材が最大限に活用されている同施設において、外壁、窓枠の格子、構造材の化粧材、内装の造作等、随所に使用されており、建物全体の木質感を高めています。中でも、同施設を象徴する100mに及ぶウッドデッキには、「ObiRED®+Gywood®」を使用しており、裸足で歩くことでスギ本来の温かみや木の優しさを感じることができます。

 また、他の企業との連携により、エクステリア商品や家具の素材としても活用が進んでいます。具体的には、アルミ製のフェンスや門扉など、エクステリア材の製造を手掛ける四国化成工業㈱様が開発した「国産材ウッドフェンス」の格子として「ObiRED®」が採用され、商品化されました。また、飛騨高山の老舗家具メーカーである柏木工㈱様とのコラボレーションにより、「Gywood®」を用いたソファやテーブルなどの家具を提案しています。

 オフィス空間の木質化も推進しており、例えば、オフィスで使用される一般的な会議テーブルの天板や幕板を、「Gywood®」に交換することを提案しています(図8)。大規模な工事を要することなく、手軽にオフィスや会議室の木質化を実現するウッドチェンジの提案にも、積極的に取り組んでいます。また、京都市をはじめとする5者とで昨年8月に締結した「建築物等における北山杉の利用促進協定」に基づく取り組みの一環として、本社ビルの1階ロビーから2階の接客スペースにかけて、階段等の手摺の一部に京都北山杉の磨き丸太を被せて使用しています。

 こうした取り組みを通じて、今後も、国産材のシェアと価値を向上させ、木材需要の創造を推進していきます。

オフィス空間におけるウッドチェンジ

森林の循環利用に向けて
適正利益を川上へ還元し、再造林を促進

 当社では新たに、森林の循環利用に向けたサプライチェーンの構築を図っています。森林面積が国土の68.4%を占めている日本は、森林蓄積が毎年6,000万㎥増加しているのに対して、利用される木材の量は約半分にとどまっており、豊富な資源を十分に活用できていないのが現状です。中には、適切な管理がなされずに荒廃した森林も見受けられ、国内最大の資源である森林を、いかに次世代へ引き継いでいくかという点が大きな課題であると言えます。

 木は、光合成によってCO2を吸収しますが、同時に呼吸によって排出もします。樹種によっても異なりますが、建築材料として広く使われるヒノキやスギは、樹齢10~20歳頃が最も活発にCO2を吸収し、高齢化によって徐々に吸収量と排出量の差が縮まり、温室効果ガス吸収源としての機能が衰えていきます。そのため、伐採・再造林の循環を更に促進する必要がありますが、その実現には再造林に必要な適正利益を山側へ還元していくことが重要となります。

循環型サプライチェーンの構築へ

 当社では、木材製品の安定調達と日本の森林の循環利用を目指すべく、一昨年に素材流通部を新設し、製材工場や合板工場などの各事業者様への原木供給等の取り組みを開始しています。また、昨年10月には、ナイス原木流通㈱を新設し、社有林「ナイス徳島の森」をはじめ、その他の山林における原木の伐採や保管・選木など、原木の生産及び流通を手掛けるほか、伐採跡地への植林など、川上における循環型の取り組みを進めています(図9)。この徳島県における取り組みを全国に広げ、品質の高い国産材を安定的に供給し、再造林や育林に必要な適正利益を山側へ還元していくことに加え、マーケットのニーズに沿った情報を川上に提供し、それに基づく生産体制の構築を図っていきたいと考えています。

徳島県における原木の生産流通の取り組み

 当社グループは、日本の森林を守り、次世代の方々に継承していくことを使命とし、この考えに賛同していただける業界の皆様とともに、今後も循環型サプライチェーンの構築を進め、2050年カーボンニュートラルの実現に貢献してまいります。