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特別インタビュー 新たな価値の創出による社会貢献を目指して ケイミュー株式会社 代表取締役社長 木村 均 氏
外装建材のリーディングカンパニーであるケイミュー㈱は、製品や技術の革新と新たなマーケットに積極的に挑戦し、その存在感を高めています。今回は、2023年に設立20周年を迎えられるケイミュー㈱の代表取締役社長木村均氏に、20年間の歩みや将来を見据えた成長戦略についてお聞きしました。
ケイミュー設立から20年間の歩み
-ケイミュー㈱様は、2023年で創立20周年を迎えられます。これまでの歩みや取り組みについてお聞かせください。
木村 当社は、2003年に㈱クボタの住宅建材事業と松下電工㈱(現パナソニック㈱)の外装建材事業を統合して設立した会社で、屋根材、外壁材、雨とい等の商品を中心に取り扱っています。設立当時は、イラク戦争への自衛隊派遣や、日経平均株価がバブル崩壊後の最安値水準となるなど、明るいニュースが少なく、新設住宅着工戸数も2003年度が117万戸と、ピーク時の163万戸から大幅に減少傾向にありました。こうした住宅需要の減少に伴い、サイディングメーカーにおいても事業統合や設備廃却が進み、合従連衡の時代の中での設立となりました。
-二つの異なる会社の事業統合は、どのように進められたのでしょうか。
2003年8月に対外発表をしてから、12月に新会社として設立するまで、わずか4カ月しかありませんでした。驚異のスピード感だったと思います。この約4カ月の間、三つの課題に注力して取り組みました。
まず一つ目は、「異文化の融合」です。これまで競合していた2社が、4カ月後には仲間になるということで、異なる組織・文化・風土を融合する必要がありました。二つ目は、「事業の統合」です。商品や設備などの統一が重要となる中で、異なる商流を統一することが最も困難を極めました。一番大きな課題となったのが、三つ目の「システムの統合」です。当時はIT技術が今ほど進歩しておらず、オペレーターに対する十分な教育・準備ができていませんでした。そのため、12月に新会社としてスタートした途端、受注業務のトラブルが相次ぎ、多大なご迷惑をおかけする事態となってしまいました。当社としても尽力しましたが、即座に対応できず、1年間でシェアを大きく落とす結果となりました。まさにマイナスからのスタートでした。
そこからお客様の信頼を回復させ、18~19年かけてシェアの拡大を図ってきました。お陰様で、屋根材、外壁材、雨といなど、外装商品を総合的に取り扱う日本最大の外装建材メーカーとなりました。ここから次の30周年に向けて、更に飛躍していきたいと考えています。
CSVを実現する三つの「Innovation」
-30周年に向けて、今後どのような方向性を目指していくのでしょうか。
木村 企業にとって、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)に取り組むことは重要なことです。しかし、それだけでは企業は永続できず、事業を成長させていかなければなりません。そこで重要なのが、事業を通じて社会課題を解決し、社会価値と経済価値の両立を目指すCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)であり、当社ではCSVに重点を置いた成長戦略をとっています。
少子高齢化や自然災害の激甚化など、社会環境が大きく変化する中、住まわれる方の安全・安心、住宅としての美しさと長寿命、職人の不足、脱炭素化などの課題を、当社の技術を用いて解決するために、イノベーションの実現による新たな価値の創造と、既存マーケットだけにとどまらない、新しいマーケットへの挑戦が重要だと考えています(図1)。
-新たな価値の創造を図るためのイノベーションについて、具体的にお聞かせください。
木村 当社では、新しい価値の創造に向けて、「ROOF Innovation」「EXTERIOR Innovation」「MATERIAL Evolution」の三つの切り口で取り組んでいます(図2)。
「ROOF Innovation」は、ロングセラーの屋根材「カラーベスト」に代わる、新シリーズ「グランネクスト」の浸透を進めています。イメージの異なる斬新で個性的な形状と質感の屋根材をラインアップしています。ディテールに至るまでの美しいデザインが特徴で、建築家やデザイナーの方々にもご好評をいただいています。また、屋根下地のメンテナンスサイクルを30年から80年へと長期化を目指す通気下地屋根構法をご提案しているほか、省施工・廃材削減の観点から、屋根材メーカーとして世界初となる本格的なプレカットについても取り組みを開始しています。
「EXTERIOR Innovation」では、「全てを兼ね備えた常識を覆す外壁材」を目指す「外壁ルネサンス」という取り組みを始動しています。外壁材は、厚みが16㎜、耐候性は15~30年、汚れ防止機能がトレンドとなる中、当社では、三大革新として、①中高級品の厚みは18㎜を標準とし、②光触媒コートとセラミックコートに高耐候性コートを追加することで、業界初の色40年品質を実現、③業界唯一の光触媒工業会による抗菌・抗ウイルス認証を取得しています。更に、屋根と外壁の技術を融合させ、シームレスな外観デザインを実現する「LAP-WALL」シリーズにおいて、今年7月より、天然素材に迫る質感の「Wood」「Brick」「Flat」の3柄を発売しました。
逆転の発想で誕生した「SOLIDO」の開発秘話
-三つ目の「MATERIAL Evolution」は、直訳すると「素材の進化」ですが、これについてお聞かせいただけますか。
木村 当社の「SOLIDO」という商品の開発ストーリーについてご紹介したいと思います。「SOLIDO」は、セメント素材の質感をそのまま表現することで、フェイク建材にはない質感と自然素材との調和を目指したセメント系建築素材です。開発当時、当社の課題として、①工業製品を好まない建築家やこだわり層に響く商品が少ないこと、②消費者の環境意識の高まりでサステナブルな商品が求められていることの二つがありました。当社では、管理職に向けて経営戦略実践研修を実施していますが、そこであるチームから、これらの課題を受けて、天然素材に迫る商品で、かつ、再生材料を徹底的に活用したサステナブルな商品、この二つの要件を兼ね備えた次世代プレミアム商品とブランドの立ち上げが必要だと提言がありました。これが「SOLIDO」の開発のスタートとなりました。
従来の工業製品には、豊富な色・柄と意匠表現や、高いレベルで均一な品質など、長持ちする美しい仕上がりが求められる傾向にありました。これに対し、建築家やこだわり層が求めるのは、素材が持つ風合いや、一枚一枚違う表情が感じられる製品で、まさにサイディングの裏面のような仕上がりでした。このような両者の価値観のギャップを踏まえ、開発チームによる試作を行いましたが、天然素材の風合いを生かしながら作ったサンプルは、1枚ごとに異なるムラが発生し、工業製品としては許されない仕上がりとなっていました。当時、担当者は「売り物にならない、失敗した」と考えていたそうです。しかしながら、そのサンプルを見た建築家の方々からは大絶賛いただき、「セメントならではの素材感・質感が出ている」と逆に評価される結果となりました。まさに、失敗からの大逆転という形で、天然素材に迫る商品という課題をクリアしました。
サステナブルな商品という二つ目の課題についても、様々な工夫を重ね、コーヒーショップで使用済みのコーヒー豆や紙カップ、当社の現場で回収した端材などを使用し、再生材比率60%を達成しました。これにより、窯業系内外装材として史上初めて、「グッドデザイン賞2016」において「ベスト100」を受賞しました。また、海外でもデザイン性を高く評価いただき、デザイン界における「オスカー賞」と称される「ドイツIFデザイン賞」を受賞しました。こうして、「SOLIDO」のリサイクルの仕組みや素材の自然な表情等が広く社会に認められ、現在では、内装や外壁、設備、床といった建材としてだけにとどまらず、茶器など、素材そのものとして使用され始めています(図3)。
非住宅市場の深耕と海外市場の開拓
-新たなマーケットへの挑戦として、非住宅市場や海外市場についてはどのように取り組まれていますか。
木村 非住宅市場については、商品力を強化するべく、住友金属鉱山シポレックス社と中高層非住宅向け新工法「フィルドラ」を共同開発し、10月から全国展開を開始しました。同工法は、両社の技術を融合し、耐火性や断熱性、耐震性という必要な基本性能はそのままに、新たな価値として、外観に美しさをプラスした商品です。外観を容易にリニューアルできるという特長があり、今後拡大させていきたいと考えています。また、「SOLIDO」が先兵隊となって建築家や大手ゼネコン会社、大手内装デザイン会社とのコネクションを構築することで、新たなビジネスチャンスを広げています。
海外市場については、日本発の屋根材・外壁材を世界に広げ、現地の暮らしや建物が抱える課題を解決していきたいという強い想いのもと、グローバル展開を着実に実現しています。2017年にKMEW USA、2018年にKMEW RUSSIAを設立し、2019年にはインドネシアに屋根材の技術供与を実施しました。また、2021年には中国・タイでも販売を開始しています。特に、北米においては、全米ホテルチェーンや中層集合住宅に採用されるなど、非戸建ての分野で採用されており、今後も注力していきます。
環境・建築業界・地域社会への貢献
-CSRの取り組みについて、お聞かせいただけますか。
木村 まず、環境への貢献は、企業が永続するための絶対条件であると考えています。そうした中で、当社としてはSBT※1認証を今年度中に取得し、自社のCO2排出量の削減に努め、脱炭素化に向けた取り組みを強化していきたいと考えています。
また、建築業界に身を置く企業の使命として、業界発展のため、根幹を担う建築家を支援したいという想いのもと、NPO法人アートアンドアーキテクトフェスタ(AAF)が主体となって活動している「U35」「建築学生ワークショップ」を支援しています。「U35」は、35歳以下の若手建築家による建築の展覧会で、著名な建築家の講評を通じて、次世代を担う建築家の育成・研さんを促すイベントです。「建築学生ワークショップ」は、全国から建築を学ぶ学生が集まり、著名な建築家の指導のもと、実際に小型建築物を構築・展示し、講評を通じて建築学生の育成を図るプログラムです。当社はこれらのイベントに協賛し、活動支援を行っています。
地域社会への貢献としては、設立10周年に合わせ、奈良県で地域密着型の社会貢献活動を開始し、2015年には「飛鳥ケイミュー橘の里」を設立しました。これは、高松塚古墳付近の遊休地を当社が開拓し、そこに日本最古の柑橘系植物「大和橘」の木を植え、近隣の障がい者施設の方に栽培をお願いすることで、歴史の保存や雇用支援につなげるとともに、収穫した橘果実を商品化することで、地域ブランドの創出に貢献するものです。地域振興への貢献に向けて、今後も継続的に取り組んでいきます。
「しなやかさ」と「永続性」で更なる飛躍を
-経営者として大切にされていることについて、お聞かせください。
木村 現在のように先行きが不透明な時代において必要なことは、「しなやかさ」だと考えています。「しなやかさ」とは、「柔らかな頭」を持ち、一つの考えに固執しないこと、状況に応じて「フレキシブル」な対応をすること、環境の変化に対応しながらも信念や軸がぶれず、「よくしなる」こと、そして、上品で「エレガント」であることです。これからも、「しなやかさ」を大切に経営に臨んでいきたいと思います。
また、企業として大切にしなければいけないのは「永続性」だと考えています。永続できなければ、企業としての社会的責務を果たすことができません。企業が永続していくためには、強固な基盤をつくることが必要であり、強固な基盤とは、単なる売り上げや利益ではなく、当社に代わる企業が他に存在しない、社会的存在意義をつくることだと考えています。当社は引き続き、次の30周年、40周年に向けて、更なる飛躍を遂げていきたいと思います。
-本日はありがとうございました。
※1 SBT(Science Based Targets):パリ協定(世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準(Well Below 2℃)に抑え、また1.5℃に抑えることを目指すもの)が求める水準と整合した、5年~15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標のこと