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国土交通省 長期優良住宅普及促進法・品確法の改正法が10月1日施行 長期優良住宅の省エネ性能基準をZEH水準へ
「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」及び「住宅の品質確保の促進等に関する法律」がそれぞれ改正され、10月1日に施行されます。今回は、同改正法による長期優良住宅の認定基準の見直し、建築行為なし認定制度の創設のほか、住宅性能表示制度の省エネ性能における更なる上位等級の創設などについてまとめました。
長期優良住宅認定基準等の見直しについて
省エネ性能の基準を引き上げ
「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」の改正法に基づく改正省令、改正告示等が8月16日に公布され、長期優良住宅認定基準等の見直しや建築行為を伴わない既存住宅の認定制度の創設などについて、10月1日に施行されます。
認定基準等の見直しにおいては、省エネルギー対策の強化が図られます。長期優良住宅における従来の基準では、省エネ性能について断熱等性能等級4への適合が必要で、一次エネルギー消費量性能については求められていませんでした。一方、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、住宅の省エネルギー性能を一層向上させることが求められる中、長期優良住宅の性能要件として、従来より高い省エネ性能が必要とされています。
今回の改正によって、長期優良住宅における省エネ性能の基準がZEH相当の水準へ引き上げられ、住宅性能表示制度の断熱等性能等級5及び一次エネルギー消費量等級6への適合が求められます(図1)。
耐震性能の見直しで構造安全性を確保
新築における壁量基準についても見直しがなされ、構造安全性の確保が図られます。近年、断熱材や省エネ設備の設置などにより木造建築物が重量化していることを踏まえ、今年3月の社会資本整備審議会では、壁量計算等で構造安全性を確認している木造建築物の安全性確保のため、必要な壁量等の構造安全性の基準を整備する方針が示されました。こうした中、長期優良住宅の壁量基準についても見直しが必要とされ、議論が進められてきました。
従来の壁量基準は、耐震等級2または3となっていましたが、新基準の設定に向けた検証では、耐震等級3を満たすことで、建築物の重量化を踏まえても概ね長期優良住宅で求められる性能を有することが明らかになっています(図2)。
加えて、設計の現場における混乱を防ぐため、既存の基準を活用して早期に明示することが重要だとしています。今回の改正では、建築基準法における新たな壁量基準の検討が進められていることも踏まえ、暫定的に住宅性能表示制度の耐震等級3に見直されました。ただし、住宅性能表示制度における構造計算による場合は、引き続き実荷重を踏まえた上で耐震等級2以上の基準へ適合すれば、認定基準を満たすこととされています。また、太陽光パネル等を設置する場合は、仕様にかかわらず重い屋根の壁量基準を満たすこととされています。
そのほか、壁量規定における「2階建て以下の木造建築物に関する壁量基準に加えて配慮することが望ましい事項(柱の小径)」について、土台等へのめり込み防止及び柱の座屈防止の観点から、柱の負担可能面積を算出することが求められています。詳細については、国土交通省の長期優良住宅のページに掲載されている「長期優良住宅の認定基準技術解説(2022年10月1日版)」にて確認することができます。
建築行為なしで認定が可能に
従来の認定制度では建築行為が前提とされており、建築計画と維持保全計画をセットで提出しなければならない仕組みとなっていたため、既存住宅については、一定の性能を有する建物であっても、増改築行為を行わない限り認定を取得することはできませんでした。
今回の改正では、一定の性能を有する優良な既存住宅について、建築行為を伴わなくとも、維持保全計画のみの申請で認定を受けることができる仕組みが新たに創設されました。認定基準として、維持保全しようとする住宅の構造及び設備が長期使用構造等であること、維持保全計画に点検の時期及び内容を定めること、維持保全の期間が30年以上であることなどの条件を満たす必要があります。
新たに創設された建築行為なし認定制度は、建築行為時ではなく、事後的に認定を受ける仕組みであるため、新築または増改築の時期に応じて適用された基準を満たした上で、申請時点で建物に著しい劣化等が生じていないことが原則となります(図3)。
なお、長期優良住宅制度の創設前に建築された住宅や、増改築基準の創設前に増改築された住宅については、当時参照すべき基準がなかったことから、創設当初の増改築基準(2016年4月1日時点)が適用されます。
認定手続きでは、増改築の認定時と同様の書類によって、現況検査と長期使用構造等であることの確認等が行われます。ただし、建築行為なし認定制度の認定基準は、新築または増改築の時期によって決まるため、別途、それぞれの施工時期等が分かる工事履歴書の提出が求められます。
また、建築行為なし認定を受けた住宅を取得する際、住宅ローン減税の特例措置や「フラット35」の金利引き下げ等の支援制度を受けることができ、いずれも認定を受けた住宅の取得時に利用可能となります。
建築行為なし認定制度の活用が想定される例として、長期優良住宅制度の創設前に建築された住宅や、新築時及び増改築時に認定申請されなかった住宅などが挙げられ、認定によって住宅の付加価値の向上及び流通時の差別化につながることが期待されます。
住棟全体での評価方法を導入
共同住宅における省エネルギー性能の評価方法についても、見直しがなされます。従来の評価方法では、外皮性能と一次エネルギー消費量性能について、住戸ごとに評価されていましたが、今回の改正で、一次エネルギー消費量性能の評価方法について、従来の「住戸ごとの評価方法」に加えて、「住棟全体で評価する方法」が新たに導入されます。なお、住棟全体で評価する場合、申請対象外の住戸についても評価対象とし、非住宅部分は対象外となります。
また、共同住宅に関する認定基準についても合理化が図られています。規模の基準について、従来は2人世帯の誘導居住面積水準をもとに55㎡以上とされていましたが、近年、世帯人員の減少が進んでいることなどを踏まえて40㎡以上へと見直されました。そのほか、維持管理・更新の容易性、可変性、耐震性などの基準についてもそれぞれ見直しがなされています。
住宅性能表示制度の見直しについて
断熱等性能等級6・7を新設
住宅性能表示制度についても見直しがなされています。今年4月に施行された断熱等性能等級5及び一次エネルギー消費量等級6に引き続き、更なる上位等級の水準について検討が進められてきました。そして、3月25日に断熱等性能等級6及び7の創設に関する告示が公布され、10月1日に施行されました。
外皮平均熱還流率及び冷房期の平均日射熱取得率の基準については、冷暖房に関する一次エネルギー消費量の削減率を元に水準が設定されており、等級6では概ね30%削減、等級7では概ね40%削減が目安とされています。なお、沖縄等の8地域については、等級6を上回る現実的な日射遮蔽対策が想定されないことから、等級7の設定は行わないこととなりました(図4)。
昨年の12月1日から30日にかけて実施されたパブリックコメントにおいて、等級7は基準として高すぎるのではないかといった意見も寄せられましたが、国土交通省では、住宅性能表示制度は任意の制度であり、必要に応じて選択できるよう、新たな等級を設けるとしています。また、設計者や消費者に対して、住まいのニーズに応じて各種性能を選択することが重要である点を周知する方向性です。
そのほか、同制度における「温熱環境・エネルギー消費量に関すること」の項目について、従来は断熱等性能等級または一次エネルギー消費量等級のいずれかが必須評価項目となっていましたが、同じく10月1日改正施行の告示により、いずれも必須評価項目となります。
施行スケジュール
10月1日以降は断熱等性能等級5が必須要件に
改正法の施行スケジュールについては、省エネ基準や耐震基準等を見直すタイミングが異なると、審査者や設計者、消費者などにとって分かりにくくなるため同時に施行することとし、長期優良住宅、住宅性能表示制度ともに10月1日に施行されます(図5)。
なお、長期優良住宅における施行日前後の基準の適用については、施行日より前に長期使用構造等確認を申請済みの場合は旧基準が適用となりますが、所管行政庁への認定申請が2023年3月31日までのものに限られます。また、規模の基準については、申請の時期にかかわらず、2022年10月1日以降に所管行政庁の認定を受ける場合は、新基準が適用されます(図6)。
※ 図は全て国土交通省資料より作成