閉じる

ニュース&レポート

特別寄稿 カーボンニュートラルと住宅断熱

 脱炭素社会の実現に向けて、ZEHの普及促進を図るべく様々な施策が講じられる中、今回は、東京大学名誉教授の坂本雄三氏に、住宅の省エネ政策の動向や、新築住宅における断熱の上位等級の新設、リフォームによって実現できる省エネで健康的な暮らし等についてご寄稿いただきました。

坂本氏

ZEHの普及に向けた取り組みの加速

 パリ協定の長期目標の達成が危ぶまれる中、世界各国で一層の地球温暖化対策を講じていくことが求められています。日本では、昨年10月に地球温暖化対策計画を改訂し、2030年度の温室効果ガス排出量の削減目標を2013年度比で26%から46%へと大幅に引き上げました。今年6月17日には、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」が公布され、2025年以降に新築される全ての建築物に対して省エネ基準への適合が義務付けられました。

 国土交通省、経済産業省、環境省による「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」のロードマップでは、省エネ基準適合義務化によるボトムアップのほか、レベルアップ、トップアップの3段階で住宅・建築物の省エネ対策を示しています。このうち、レベルアップでは住宅性能表示制度におけるZEHレベル以上の上位等級の設定、トップアップではZEHよりも更に省エネレベルの高いZEH+などへの補助が盛り込まれるなど、省エネ化の促進に向けてZEHへの期待が大きいことが読み取れます。2021年にはZEHが新たに約7万戸、これまでの累計では約30万戸が建設されていると見られており、世界的にこれだけ多く建てられている国はそうはないと思います。

住宅性能表示における上位等級

 住宅性能表示制度における省エネ性能に関する上位等級の設定については、ZEH水準の基準として、断熱等性能等級5及び一次エネルギー消費量等級6が創設され、今年4月に施行されました。更に、ZEH水準を上回る基準として、断熱等性能等級6・7が今年10月に施行される予定で、これらの基準は断熱性能の基準値を定めてグレードで評価する「HEAT20」におけるG2・G3の基準値とほぼ合致しています(図1)。

図1断熱等性能等級

欧米各国の断熱基準と比較しても、等級7は環境先進国で高い断熱基準が設けられているドイツの基準を上回る数値となっており、世界トップレベルの高断熱基準であると言えます。

 また、私が知る限りでも、地域区分5~7地域において等級7基準の住宅を提供する会社が10社以上存在しています。つまり、超高断熱住宅の商品化・供給は始まっており、市場における高断熱化の流れはどんどん進んでいる状況にあると言えます。

 一方で、超高断熱住宅にすることで、窓からの日射によって家が熱くなる、オーバーヒートの現象が生じるのではという懸念も生まれます。これについては、外皮平均熱貫流率(UA値)の違いによる室温上昇の推計によると、6地域で等級4相当から等級7相当に断熱性能を高めた場合、ブラインドを外付けするなど日射遮蔽をしっかりと行うことで、室温が極端に上昇するのではなく、10℃弱に抑えられます(図2)。

図2超高断熱住宅にけるオーバーヒートを予測したグラフ

超高断熱化すると、春や秋など冷房機器の使用が少ない時期には、日射による室温上昇によって冷房負荷が増えますが、真夏の暑い時期には、断熱性能の低い家と比べて冷房負荷が小さくなるため、相殺すると年間での冷房負荷はさほど増えることはありません。しかし、やはり外気温が低いときに日射により室内が暑くなることが想定されますので、超高断熱化するには、外付けのブラインドなどの対処が必要になると思います。

断熱リフォームが健康に与えるプラスの影響

 新築だけではなく、リフォームによって省エネ性能を向上させる取り組みも進んでおり、スマート化(省エネ・機能化)とウェルネス化(快適・利便・安全)に取り組むことで、より良い暮らしを実現することができます。省エネ性能と良い暮らしの関連性については、断熱性能による体感温度と暖房負荷について示されたグラフから読み取ることが可能です(図3)。

図3断熱水準における体感温度と暖房負荷

このグラフの横軸は、冬に暖房を消した際の朝方の室温を示しています。例えば、人がいる時だけその場所を暖める「部分間欠暖房」の場合、現行の省エネ基準では10℃を少し超える程度ですが、HEAT20のG3水準では15℃まで高まるなど、その効果を一目で確認することができます。

 断熱リフォームに当たっては、熱損失の大きい開口部の断熱が効果的ですが、等級3の建物を等級5以上まで引き上げるような大幅な改修には外壁の断熱改修も必要で、そのために壁のUA値を実測する方法も有用とされています。また、全熱(顕熱+潜熱)交換換気システムが進歩しており、年間を通して十分な換気と省エネを両立させることが可能となったため、省エネ改修の一つの手法として加わっていくのではないでしょうか。もし全面的な改修を目指すのであれば、外皮の高断熱化とともに全館空調システムを組み合わせることで、建物内全体を良好な温暖環境に保つことが可能となります。

 カーボンニュートラルに向けた世界的な動きに対して、日本国内でも、一層の省エネ対策や再生可能エネルギーの拡大が図られていきます。住宅・建築物においては、高断熱化とZEHの普及拡大が重点施策となっており、断熱等性能等級7のような超高断熱と言える水準もスタートします。加えて、新築でも、リフォームでも、優れた建材と住宅設備を用いることで、良い暮らしと省エネを実現していくことが求められます。