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ニュース&レポート

国土交通省 建築基準法改正 2025年施行 4号特例縮小で木造住宅の安全性確保へ

 「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」が6月17日に公布され、住宅・建築物の省エネ対策の推進と、木材利用の促進が図られています。今回は、同改正法のうち、4号特例の範囲縮小や構造規制の合理化など、木材利用の促進に向けた改正について、現時点で検討されている内容をまとめました。

建築確認・検査における4号特例制度の見直し

2階建て木造住宅も構造規定審査の対象に

 6月17日に公布された「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」では、省エネ基準適合義務化や住宅トップランナー制度の対象拡充といった省エネ対策の加速に加えて、木材利用の促進のための建築基準の合理化等についても盛り込まれました。

 建築基準法では、原則全ての建築物を対象に、工事着手前の建築確認や、工事完了後の完了検査といった必要な手続きが設けられていますが、都市計画区域等の区域外においては、一定規模以下の建築物は建築確認・検査の対象となっていません。また、都市計画区域等の区域内であっても、階数2以下かつ延べ面積500㎡以下の木造建築物などの建築物は「4号建築物」として分類され、建築士が設計及び工事監理を行った場合には、建築確認・検査において構造規定などの一部の審査が省略される制度、いわゆる4号特例制度が設けられています。

 ただし、近年は断熱材や省エネ設備の設置といった省エネ化の促進に伴って建築物が重量化しており、地震による被害リスクが高まっていることから、木造建築物に関する構造安全性の確保が必要な状況が指摘されていました(図1)。

建物重量と地震力の関係

こうした背景を踏まえ、今回の改正では、建築確認・検査の対象外となっている建築物の範囲及び4号特例制度の対象となっている建築物の範囲を縮小しました。階数2以上または延べ面積200㎡超の建築物については、木造・非木造の構造種別や都市計画区域等の内外にかかわらず、建築確認・検査の対象となります(図2)。

建築確認における構造等の審査省略対象の見直し

 これにより、工務店様やビルダー様が手掛ける一般的な規模の2階建て木造住宅について、これまでは構造規定などの一部の審査が省略されていましたが、同改正法の施行以降は特例の対象外となり、建築確認の際に構造計算書等の設計図書の提出が求められることとなります。なお、200㎡以下の平家については、引き続き特例の対象となります。

4号特例制度の導入から見直しまでの経緯

 4号特例制度は、建築行政職員の体制が限られており人員が不足する中、建築確認や完了検査が十分に実施できなかったことなどを背景に1983年に導入されました。その後、1998年の建築基準法改正による建築確認・検査の民間開放等によって、建築確認・検査の実施率が格段に向上し続ける一方で、同制度を活用した多数の住宅において不適切な設計・工事監理が行われ、構造強度不足が明らかになる事案が断続的に発生したことなどを受け、制度の見直しが検討されてきました。

 しかし、2007年6月に施行された改正建築基準法により建築確認・検査が厳格化された影響で、確認申請が下りない事案が急増するなど建築現場に混乱が生じたことから、2010年1月に当面は制度を継続することが公表されました。その後も、2014年及び2016年の建築基準法改正における社会資本整備審議会建築分科会の答申では、引き続き検討すべき課題として同制度の見直しが位置付けられてきました。また、2020年3月には、建築確認・検査の対象外となる建築物や4号特例制度の対象となる建築物も含めて、全ての建築物について、配置図、各階平面図、構造計算書等の構造関係図書、工事監理報告書等の保存が建築士事務所に義務付けられました。こうした経緯に加えて、省エネ化が進み重量化する建築物について、構造安全性の基準への適合を確実に担保し、消費者が安心して木造住宅を取得できる環境を整備するため、今回、同制度の見直しが決定されました。

確認申請等のオンライン化を推進

 国土交通省では、新たな建築確認・検査制度について、申請側及び審査側への周知・習熟をきめ細かく行うなど、体制整備について万全を期すことで、全国で円滑な施行を図るとしています。また、確認申請等のオンライン化等の推進によって更なる効率化や負担軽減を図る考えです。具体的には、2020年に閣議決定された規制改革実施計画の内容を踏まえ、建築確認等の手続きについて、オンライン利用率目標等を定める基本計画を策定・公表しており、建築確認については、達成期限を2025年度末とした上で、オンライン利用率50%を目標に掲げています。

伝統的木造建築物の構造適判における特例

伝統的な建築物における負担軽減

 通常は構造計算によらず、仕様規定に適合させることで構造安全性が確保される小規模建築物であっても、伝統的木造建築物などでは、大黒柱、伝統木造小屋組み、石場建てなどの一部の仕様が特殊で仕様規定を満たせない場合、高度な構造計算によって構造安全性を確認することが求められます。その場合、建築確認に加えて、構造計算適合性判定を受けなければならず、仕様規定に適合する一般的な小規模木造建築物に比べて設計や手続きに要する負担が大きく、伝統的構法の担い手が減少する一因になっているとの指摘もあります。

 こうした状況を踏まえ、今回の改正では、小規模な伝統的木造建築物について、構造設計一級建築士が設計または確認を行い、専門的知識を有する建築主事等が建築確認審査を行う場合は、構造計算適合性判定を不要とし、手続きの合理化が図られます。

構造安全性の検証法の合理化

3階建て木造建築物の構造計算を合理化

 近年、断熱材や省エネ設備の設置スペースを確保するために、階高を高くした建築物のニーズが高まっています。ただし、3階建ての木造住宅であっても、高さ13mまたは軒高9mを超える場合には、高度な構造計算によって構造安全性を確認する必要があり、これが省エネ性能を高めた建築物の負担が大きくなる一因であるとされています。一方で、一定の耐火性能が求められる木造建築物の規模については、安全性の検証の結果、4階建て以上または高さ16m超に見直されています。

 こうした状況を受け、今回の改正では、階高の高い3階建て建築物のうち、簡易な構造計算によって構造安全性を確かめることが可能な範囲について、高さ16m以下かつ階数3以下に見直されました(図3)。

簡易な構造計算の規模

構造計算が必要な範囲を拡大

 2014年の豪雪被害を受け、大スパンなどの要件に該当する建築物では、構造計算において積雪荷重を割り増すこととされていますが、2階建て以下で延べ面積500㎡以下の木造建築物については、大スパンの屋根であっても構造計算が求められていないのが現状です。一方、建築物に対する多様なニーズを背景として大空間を有する建築物が増加しており、これらの建築物に対応した構造安全性の確保が必要とされています。

 今回の改正では、木造建築物のうち、構造安全性の確保のために構造計算が必要となる建築物の範囲を、500㎡超から大空間を有するものも含まれる300㎡超に拡大されました(図4)。

木造建築物の構造計算対象の規模

中大規模建築物における防火規定の合理化

建築物における木材利用を更に促進

 中・大規模建築物の木造化ニーズは更に高まりを見せており、建築物全体の木造化に加え、主要構造部の特定の部材や意匠上重要な空間に限って、部分的に木造化するニーズも見られるようになりました。

 一方で、中・大規模建築物の木造化において、延べ面積が3,000㎡超の場合は、主要構造部を耐火構造等とするか、3,000㎡以内ごとに壁等で区画することが求められるなど、設計上の制約が大きいことが指摘されています。今回の改正では、3,000㎡超の大規模建築物について、火災時に周囲へ大規模な危害が及ぶことを防止でき、木材をそのまま見せる「現し」による設計が可能な構造方法を導入するとしており、その一例として、大断面の木材部材を使用しつつ、防火区画を強化することにより、周囲への延焼を制御できる構造が示されました(図5)。

木材の現しによる新たな構造方法例

 また、部分的な木造化においても、建築物全体の規模等によって例外なく他の構造部分と同じ水準の防火性能が求められることなどが課題として挙げられています。それに対して、壁及び床で区画され、防火上・避難上の支障がない範囲内において部分的な木造化を可能とする方針です(図6)。

部分的な木造化イメージ

そのほか、高層部と低層部が一体的に整備される建築物の場合、建築物全体に高い耐火性能が要求され、低層部分の木造化がしにくいという課題に対して、高い耐火性能の壁等や、十分な離隔距離を有する渡り廊下で分棟的に区画された高層部と低層部を、それぞれ防火規程上の別棟として扱うことで、低層部分の木造化が可能となります(図7)。

防火規定上の別棟扱いのイメージ

 同省では、これらの構造計算や防火規定の合理化によって、建築物における木材利用の更なる促進を図っていく考えです。

国土交通省
脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)について



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