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気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書 21世紀中に1.5℃超の温暖化「可能性高い」
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は4月4日、第6次評価報告書における第3作業部会報告書の政策決定者向け要約(SPM)を公表しました。同報告書では、温室効果ガス排出量は増加し続けており、パリ協定の努力目標を達成するためには3年後までに排出量を頭打ちにする必要があると指摘しています。今回は、気候変動の緩和に関する最新の知見など、同報告書の内容についてまとめました。
緩和策の普及が進展も、温室効果ガス排出量増加
このたび報告書を公表した第3作業部会では、温室効果ガスの排出削減など、気候変動の緩和に向けた対策について評価を行っています。報告書によると、人為的な温室効果ガス排出量は、2010年以降、全ての主要な部門で世界的に増加しています(図1)。更に、2021年10月31日~11月13日に開催されたCOP26より前に発表・提出された各国のNDC(Nationally Determined Contribution/国が掲げる目標)のままでは、21世紀中に温暖化が1.5℃を超える可能性が高いと指摘しています。
一方で、温室効果ガスの排出を削減し続けている国の存在についても示しており、少なくとも18カ国が10年以上にわたって排出削減を持続させているとしています。また、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)向け蓄電池など、低排出技術のコストは継続的に低下していると述べています(図2)。例えば、2010~2019年にかけて、太陽光発電及び蓄電池で約85%のコストが削減されており、地域によって違いはあるものの、太陽光発電は10倍以上、電気自動車は100倍以上と、大きく普及が進んでいます。ただし、開発途上国においては、これらの技術を可能にする条件が整備されていないため、普及が遅れているとも指摘しています。
建築分野に気候変動緩和の潜在的可能性
産業革命前からの気温上昇を1.5℃以下に抑えるというパリ協定における努力目標を達成するためには、温室効果ガス排出量を2025年までに減少に転じさせ、2030年に2019年比で43%、2050年に同84%削減する必要があるとも述べています。また、温室効果ガスの排出量を削減し、気温上昇に歯止めをかけるためには、早期に対策を講じることが不可欠であるとした上で、その実現のために有効な気候変動緩和策についても示しています。
建築分野においては、省エネルギー化や再生可能エネルギーの導入などの緩和策を適切に実施することにより、新築と既存建物の改修の双方において、将来の気候に建物を適応させながら全ての地域でSDGs達成に貢献する大きな潜在的可能性を有するとして、2050年には温室効果ガス排出量の正味ゼロに近付くと予測しています。
そのほか、化石燃料の大幅削減、低排出エネルギー源の導入、広い範囲での電化といったエネルギー分野や、電気自動車の普及促進をはじめとする運輸分野における取り組みなど、脱炭素化に貢献し得る多くの緩和策が存在すると述べています。
気候変動対策の加速はSDGs達成に不可欠
本報告書では、気候変動対策とSDGsの関係性についても触れています。現在生じている気候変動問題は、これまで繰り返されてきた持続可能でない生産・消費行動が要因となって引き起こされたものであり、効果的な緩和策を早急に実施しなければ、人々の健康や生活、生態系の健全性や生物多様性を更に脅かすことになると述べています。また、気候変動対策を加速させることは、SDGs達成に向けて不可欠であるとする一方で、両者の間にはシナジーだけではなく、「原子力発電」と「安全な水と衛生」など負の効果を招くトレードオフも存在すると指摘しています。適切な政策によって気候変動対策と他のSDGsとのシナジーを最大化しつつ、トレードオフを回避もしくは低減することが、より多くの削減機会を増やすことにつながるとしています。
IPCC第6次評価報告書においては、第1作業部会が昨年8月に気候現状分析や将来予測について、第2作業部会が今年2月に気候変動の被害などについてそれぞれ報告書をまとめており、今回の第3作業部会の報告書も含めた統合報告書が、今年9月に公表される予定です。