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第二部 新春特別インタビュー 林業・木材産業の展望 ―国産材の利用拡大に向けて―鈴木 和雄氏
ウッドファースト社会の実現へ木材利用を国民運動に
杉田 2021年は、長引くコロナ禍において、林業・木材産業にとって大きな変化の一年となりました。2021年を振り返って、(一社)全国木材組合連合会(以下、全木連)の取り組み状況についてお聞かせいただけますか。
鈴木 2021年は、新型コロナウイルス感染症の拡大による緊急事態宣言により、企業活動にも大きな制約を受けました。それに伴い、在宅勤務やウェブでの会議など、これまで経験したことのない生活が続き、改めて自分の仕事のやり方、身の回りの環境等に気付きがあった一年であったかと思います。また、年初から輸入材の入荷減少、価格の高騰、いわゆる「ウッドショック」が顕在化し、工務店等の建築現場では大きな影響があり、改めてグローバル経済の中での資源の大切さを痛感した一年でもありました。
2021年6月に閣議決定された新たな森林・林業基本計画の中でも、いよいよ現実のものとなった国産材時代への取り組みが位置付けられ、全木連が提唱している「ウッドファースト社会」の構築へ、また一歩近付いたと考えています。
林野庁でも、様々な木材利用対策を講じられていますが、2021年に改正木材利用促進法を策定していただいたことは、木材利用の拡大について、地球環境保全への貢献という幅広い視点から、国民運動として展開する契機になると考えています。
杉田 改正木材利用促進法の成立に当たっては、全木連が事務局を務めておられる「森林(もり)を活かす都市(まち)の木造化推進協議会」(森林都市協議会)の活動がベースとなっています。まさに木材業界の待望であった同法の成立までの背景について、お聞かせいただけますか。
鈴木 戦後に植林された人工林が成熟し、伐期を迎える中で、2010年に公共建築物等木材利用促進法が制定されて以来、国、地方公共団体のご努力もいただいて、全国各地で学校、庁舎等の木造化が進み、最近では国が整備する低層の建築物の9割が木造で建てられるようにまでなりました。また、東京都港区のように地球温暖化の緩和のために木造、木質化を評価し直す動きも出てきました。
戦後、都市が木造から鉄筋コンクリート造、鉄骨造に取って代わられてきた歴史を振り返ると、戦後の旺盛な住宅需要に対して国産材が不足し、木材の輸入も自由化が図られておらず、更には台風等の大きな災害にも見舞われたことから、政治、行政、関係学会などの様々な取り組みを通じて、何年もかけて非木造化の動きが進められました。
全木連では、これらの動きを木造にもう一度引き戻すために、まず、木造で建てられないか、木質化できないか考えてみようという「ウッドファースト社会」の構築を2015年に提唱し、山側の団体である全国森林組合連合会等の関係団体と共同宣言に署名しました。これから日本の森林が伐期を迎え、国産材の生産が本格化する中、住宅需要の大幅な増加が見込めないことからも、大消費地である都市で、そして、これまであまり使われてこなかった非住宅分野や中高層建築物、外構施設などへの木材利用を進めることが課題であり、また、地球温暖化対策などの地球環境問題に対処するためにも、CO2を吸収し、再生可能な資源である木材の活用が大きなカギとなると考えたからです。
林野庁も、供給側だけでなく施主や施工者等の需要側も含めた「ウッド・チェンジ・ネットワーク」の枠組みを創設していただき、供給側と需要側が共通言語で、国産材利用の拡大に向けて取り組むための大きな弾みとなりました。全木連としては、そのような流れの中で、これまでも森林や木材の利用に対して様々な協力をいただいていた経済団体、地方議員の会を含めて、供給側、需要側の関係者による「森林を活かす都市の木造化推進協議会」を発足していただき、公共建築物だけではなく、民間の建築物においても「ウッドファースト」を考えていただく場にした次第です。これらの活動について、国会議員の先生方にもご理解をいただき、今回の法改正につながったものと考えています。
そのような中で、全木連では、森林都市協議会の活動を通じて、川上から川下までの関係者のみならず、経済界、地方公共団体等も含め、幅広い関係者の協力を得ながら、木材、国産材の利用拡大に努めています。特に、これまであまり使われてこなかった非住宅等への木材利用と、それらに使用可能なJAS製品など、品質・性能が確かで消費者の信頼に応えることのできる合法木材と合法伐採木材の供給の推進を図っていきます。そして、木材利用の拡大を国民運動として展開するとともに、「山に返せる木材利用」について需要者の理解を醸成し、品質・性能の確かな国産材について安定供給体制の構築に努めたいと考えています。
国産材の利用拡大への課題が浮き彫りに
杉田 「ウッドショック」については、アメリカの木材価格が先物市場で2021年5月から乱高下し、日本でも報道により一般消費者まで広く知れ渡りました。「ウッドショック」から見えた課題等について、ご見解をお聞かせいただけますか。
鈴木 昨年は、新型コロナウイルス感染症の拡大による世界的な生産、物流の停滞に加え、米国や中国などの経済対策による景気刺激効果など、木材に限らず、世界全体における資源の安定供給に対する不安といった、グローバリズムの問題点が表面化しました。
輸入材供給の不安定化は、国産材への期待を招きましたが、国産材は伐採から製材、加工、乾燥といった一連の生産過程において、人や設備など一定のキャパシティーでの対応となり、一気に供給を増やすことができない中で、需給のアンバランスが起きてしまいました。ただし、輸入材のほとんどは柱なら柱、板なら板といったように、製品として入ってきており、しかも要求する品質のものだけを選んで輸入することができますが、国産材の場合は、山で伐採される丸太をどのように木取りし、使い切るかという工夫が必要になります。今回も、輸入製品に代わるものとして国産材の一般流通材への需要が増加しましたが、品質の優れたいわゆる役物等の需要は低迷し、山全体としてみると、決して適正な需給の関係だったとは言えない面もありました。
「ウッドショック」を通じて学んだことはいくつかあります。一つ目は、JASの格付け等、品質や性能が確かな製品の供給拡大の必要性、二つ目は、流通の各段階におけるストック機能を含めた安定供給のためのサプライチェーンの構築、そして三つ目は、原木の安定供給を実現するため、持続可能な森林経営を目指している森林所有者を木材産業側がどのようにお手伝いできるのかという点です。これらは、非住宅、中高層建築物への国産材利用を進めるためにも必須の課題だと考えています。
今後の木造化・木質化のモデルとなる物件を表彰
杉田 鈴木会長が会長を務められている木材利用推進中央協議会では、「木材利用優良施設コンクール」を実施され、木材利用の推進等に寄与する優良な施設を毎年表彰されています。2021年度についても10月に受賞施設が発表されました。
鈴木 木材利用推進中央協議会が主催する2021年度の木材利用優良施設の表彰には、全国から72作品の応募を頂き、内閣総理大臣賞に岡山県の「あわくら会館」、農林水産大臣賞に宮城県の「高惣ビル」、国土交通大臣賞に兵庫県の「タクマビル新館」、環境大臣賞に千葉県の「流山市立おおぐろの森小学校」、林野庁長官賞に長野県の「木曽町役場庁舎」等3点が選ばれました。
この表彰は1984年から行っており、2018年度からは内閣総理大臣賞も創設されました。最近では各地域の国産材を生かして、中高層を含めた様々な建築物の応募があり、施主だけではなく、設計者、施工者の皆さんの関心が高まっていると感じています。
特に、地域の森林からの木材生産に関わる川上と、それ以降の木材流通や製材加工といった川下が密接に連携することで、地域の活性化に貢献している事例の増加が顕著となっています。純木造だけではなく、木造と鉄骨造、鉄筋コンクリート造等とを組み合わせた、都市型の中高層建築物が本格的に拡充してきていること、ほとんどの応募作品がクリーンウッド法に基づいた材料調達を行っていることなどが全体としての特徴となっており、今後の建築物の木造化、木質化に向けたモデルとも言えると考えています。
杉田 当社が施工した「洋光台南第一住宅集会所・管理事務所」(設計:㈱スタジオ・クハラ・ヤギ)も優秀賞を頂きました。受賞施設は、デザインや構造など、先進性や共創性、バックストーリーなど素晴らしいものばかりで、毎年大変楽しみにしております。
カーボンニュートラルへ木材利用の意義の普及を
杉田 2021年は、まさにカーボンニュートラルの実現へ、世界的に一気に動きが加速した一年となりました。日本においても、10月に地球温暖化対策計画が閣議決定されました。カーボンニュートラルに向けたご見解をお伺いできますか。
鈴木 持続可能な社会をつくるために、カーボンニュートラルは実現が必要な目標であり、その目標達成に向けて木材業界が果たすべき役割は大きいと考えています。木材は、森林で二酸化炭素を固定し、木材として利用している限りは炭素を貯蔵し、最終的に廃棄、焼却しても二酸化炭素を増加させないという、まさにカーボンニュートラルな資源です。
また、小中学校などの技術家庭科で椅子や本箱を作った経験から分かるように、金属などの他の材料と違い、特別な機械を使わなくても手作業でも加工でき、丸太から製品までの加工に要するエネルギーも少ない材料です。
今回、林野庁より「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」が示され、建物等に使われた木材の炭素貯蔵量を簡単に計算できる計算式を公表していただきました。今後は、ライフサイクルアセスメントなど、原料調達から加工、輸送等まで含めた一連のライフサイクル全体を通じて、エネルギー投入の「見える化」を行うことで、普段はあまり気がつかない木材の材料としての優れた点について、消費者の皆さんに知っていただくことも重要と考えています。
木材の合法性の確保は最低限の要件
杉田 SDGsやESG投資等の観点から、世界において木材の合法性への関心が高まっています。全木連では、まさに合法木材に関して先導的役割を担っていらっしゃいますが、今後の合法木材の流通及び利用の拡大に向けたご見解をお聞かせいただけますか。
鈴木 全木連は、2006年に開始されたグリーン購入法と林野庁のガイドラインによる合法木材供給体制の確立について、林野庁の指導もいただきながら、主導的な役割を果たしてきたと考えています。当時は、途上国を中心に森林関係法規の整備や執行体制が必ずしも十分とは言えず、我々輸入国、消費国もそのような違法に伐採された木材を輸入しない、使わないという取り組みと途上国への支援が課題となっていました。
そのような中で、2016年に「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」(通称:クリーンウッド法)が制定され、木造建築の施工事業者までを含め、幅広い木材関連事業者に対し、自分たちが取り扱う全ての木材の合法性について確認することが求められています。
現在は、2006年当時と異なり、世界的にも森林認証など持続可能な森林経営に向けた取り組みが拡大し、カーボンニュートラルやSDGs、ESG投資など、使う側の人たちの中にも森林、木材への関心と期待が高まっている中、木材の合法性については、ある意味、最低限の要件ではないかと思っています。現在、クリーンウッド法の実績や今後の方向についての検討が進められていると聞いていますが、ぜひ、例えば、間伐から主伐へと移行する中で、再植林といった次世代の森林づくりへの取り組みなど、合法性だけではなく、森林や木材について、一歩進んだ評価が得られるような仕組みにしていただければと考えています。
国産材利用の拡大に向けた新たなステージへ
杉田 木材・建築関係者の皆さんにメッセージをお願いいたします。
鈴木 2021年は、新型コロナウイルス感染症の拡大や「ウッドショック」など、社会経済活動に大きな影響をもたらしました。その反面、リフォームも含めた住宅需要については堅調に推移し、地域の貴重な資源として、国産材の利用拡大への関心もかえって高まったのではないかと考えています。
我が国の森林、林業、木材産業、そして地域経済の再生を考える中で、今ほど木材利用が重要視されることは、かつてなかったことと思います。この国産材への追い風をしっかりつかまえて前に進むためには、川上から川下までの安定的で信頼されるサプライチェーンを構築し、需要者の期待に応えていく必要があります。また、国産材の利用が地球温暖化対策やSDGsにどのように貢献できるかを、需要者、消費者に見える形で伝えて、材料としての木材に新たな価値を見出すことも重要な課題となっています。そういう意味では、これまでに築き上げた石垣の上に、今年はいよいよ城の柱を建て始める年になるのではないかと期待しています。
杉田 当社も国産材の利用拡大、そして森林資源の循環利用に向けて、微力ながら取り組んでいきたいと考えております。本日は貴重なお話を頂き誠にありがとうございました。