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シリーズ 木材需要の拡大に応える『現場の力』⑥ 森庄銘木産業株式会社 伝統を守りながら新たな需要開拓に挑戦
奈良県奥大和エリアを拠点に活動されている森庄銘木産業株式会社様は、林業のほか、伝統的な天然乾燥による高品質な磨き丸太を中心とした木材製品の製造・販売まで、幅広く事業を展開されています。今回は、同社の森本定雄代表取締役にお話を伺いました。
林業と製品販売の二つの事業を展開する独自の強み
―森庄銘木産業株式会社様の事業内容についてお聞かせ下さい。
森本 当社は、「吉野の山を護り継ぎ、伝統ある銘木の技術を磨く」という企業理念の下、1927年の創業から現在に至るまで、木とともに時代を過ごしてきました。現在は、林業と木材製品の製造・販売の二つを事業の大きな柱として、吉野の山林から産出されるスギやヒノキに、当社独自のこだわりで付加価値をつけて提供しています。
林業においては、森林管理・伐採搬出から原木の販売に至るまで幅広く手掛けています。既存の枠にとらわれることなく、林業のアップデートを図りながら、業界の地位向上に努めています。自社所有の山林だけではなく、所有者様から委託を受けて管理している山林もあり、年間の出材量は合わせて約3,000m3ほどですが、数年のうちに5,000m3程度まで伸長させたいと考えています。
木材製品製造・販売においては、柱、梁、フローリングのほか、伝統的な技法で製造する「磨き丸太」を用いた床柱など、主に建築用の木材製品の製造・販売を行っています。
この二つの事業を手掛けていることが、当社独自の強みとなっています。例えば、製品に関する問い合わせや注文を受けた際には、製品在庫の状況だけでなく、山林の状況を踏まえた上でスムーズに対応することができ、更に、木材製品の提案・販売においても説得力が伴います。
また、林業家ならではの視点で、デザイナーや設計士とともに木質空間の企画・提案を行っているほか、「MORITO」という自社ブランドを立ち上げ、磨き丸太を用いたスツールや一枚板テーブルなど、オリジナルインテリアの企画・販売なども行っています。
天然乾燥にこだわった唯一無二の「磨き丸太」
―磨き丸太には、強いこだわりをお持ちですね。
森本 磨き丸太の製造においては、特に天然乾燥にこだわっています。まず重要なことは、原木を伐採するタイミングです。木は1年周期で成長しており、春先に水を吸収し始め、それが夏になって落ち着き、秋口にかけて表面の硬い部分が形成されます。そのため、木肌が締まり、表面が固くなる10月下旬から11月にかけて伐採するのが最適で、当社ではこの時期に1年分をまとめて行います。
次に、天然乾燥に欠かせない「葉枯らし」を約2カ月間行います。これは、伐採後、枝葉をつけたままの状態で山の斜面に対して上向きに寝かせておく作業で、これにより枝が水を吸い上げて幹部分が乾燥していきます。そして、年末から年明けにかけて運び出し、皮を剥く工程に入ります。丸太の皮は厚みがあるので、鎌を使って粗皮だけを先に剥き、その後、水圧の機械を用いてきれいに剥き上げていきます。これを用いることで、荒皮としぶ皮がきれいに取れ、小剥きが不要になりました。皮剥きが終わった丸太は、乾燥に伴う収縮によって起こる割れを抑えるため、チェンソーを使って背割りを施します。背割りされた丸太は、天日に晒して約20日間乾燥させます。この作業を行わないと、黒ずんでしまい、きれいに色が出ないため、手間を惜しまずに行っています。最後に、土壁造りの天然乾燥棟の中で、しっかりと温湿度を管理しながら乾燥させています(図1)。
―土壁の天然乾燥棟にはどのような効果があるのでしょうか。
森本 従来から土壁造りの家は、冬は暖かく、夏は涼しいという特徴があり、快適な室内空間を保つ効果があります。そのため、木にとっても良いのではないかと思い立ち、土壁の天然乾燥棟をつくりました(図2)。倉庫内で乾燥させるうちに相当な量の水分が抜けているはずで、揮発した水分による結露で倉庫中が水浸しになってもおかしくないのですが、実際にはそうならず、倉庫内は常に適正な湿度が保たれています。土壁本来の調湿効果を改めて実感し、これまで以上に品質に自信を持って、製品を提供することができるようになりました。
現在の木材流通においては、伐採後すぐに運び出し、乾燥機で人工乾燥させることが主流となっているのは確かです。迅速に乾燥でき、量産に対応できるというメリットがあるため、床柱の需要が旺盛であった時期には、当社でも乾燥機を使用していたこともありました。しかし、人工乾燥では、乾燥ムラが生じたり、磨き丸太本来の艶(つや)がなくなってしまったりするなど、品質への影響はどうしても避けられませんでした。また、高圧電力の膨大な維持コストもネックとなり、あえて時代に逆行する形にはなりますが、15年ほど前から改めて天然乾燥に舵を切りました。
時代とともに変化する生活様式と需要
―日本人の生活様式が変化していく中で、常に新たな需要の開拓に取り組んでいらっしゃいます。
森本 戦後の復興期においては、木造住宅が多く建設されました。当時は和室が主流であったため、床柱を中心に銘木の需要も旺盛な時期でした。ありがたいことに得意先にも恵まれ、問屋さんがわざわざ泊りがけで来社され、出荷前の製品に先行予約していくこともあるなど、毎晩のように出荷していました。
こうした需要に対応できたのは、創業者に先見の明があったからこそだと思っています。約50年前に、まっすぐ伸びる性質があり、磨き丸太の製造に適している北山杉の苗を約5万本仕入れ、植林したのです。これが功を奏し、約20年前の床柱需要に対応できたおかげで、今の当社があると言っても過言ではありません。
昭和の終わりから平成に差し掛かった頃から、徐々に生活様式が変わってきました。端的に言えば、従来の「床に座る」生活から、「椅子に座る」生活へと変化し、人々の生活は大きく変化しました。それに伴って、和室や床の間の必要性が薄れ、その分広いリビングを求める傾向が強まるなど、家づくりにも変化が生じました。こうした時代の流れの中で、残念なことですが、磨き丸太の需要も減っていきました。
また、1995年に発生した阪神淡路大震災も、大きなターニングポイントとなったと感じています。当時、築年数が経った古い木造住宅がかなり倒壊し、木造は地震に弱いという誤ったイメージが流布されてしまいました。木造住宅に対する需要が、この震災を機に激減してしまったのです。
そのような中、吉野の山林が産んだ価値ある素材を、今の生活様式や建築にいかに使っていただくかを模索し続け、実際、各地の展示会に出展したり、最新のトレンドについても情報を収集するなど、あらゆる対策に取り組みました。そこで見出したのが、「タイコ化粧梁」です。柱が見える伝統的な真壁工法から、柱が見えない大壁工法の住宅が主流となっていく一方で、柱ではなく、梁を見せる住宅が流行し始めたのです。そこで、スギやヒノキの新たな見せ方として、梁の製造にも力を入れ始めました。この「見せる梁」をご提案することで、素材にこだわる工務店様にとっても他社との差別化につながります。また、何よりお施主様にとっても、訪れた方に自慢できる家づくりが可能となります。実際、一度使っていただいた工務店様の満足度は非常に高く、引き続きご採用いただいています。どんなに時代が変化しても、本物を求める方や、木に親しみを感じる方は一定数いらっしゃいますし、当社はそうした声に自信を持って応えられる製品を常に提供していかなければならないと考えています。
また、この化粧梁を考案した最大のポイントは、曲がった木材が使えるということです(図3)。本来、原木丸太は板や柱を挽くために、通直であることが求められ、曲がっている丸太は市場価値が下がってしまいます。そうした木材を「見せる梁」として活用し、付加価値をつけることで、手塩にかけて大切に育成している山林に、少しでも還元していきたいという思いがあります。
非住宅においても磨き丸太の需要が増加
―住宅以外の物件でも採用は進んでいるのでしょうか。
森本 少子化などの人口構造の変化により、住宅における需要が減少する中、「木のおもてなし」という側面から、観光施設や商業施設、福祉施設からお問い合わせをいただくことが増えています。直近では、奈良県十津川村の高級旅館や京都市の商業施設で当社の磨き丸太を多数採用していただきました。ロビーや客室などでふんだんに使われている磨き丸太の姿は圧巻でした。また、2010年に施行された公共建築物等木材利用促進法の影響もあり、幼稚園や老人ホームなどの教育・福祉施設で採用していただくケースも増えています。ナイスさんが施工を手掛け、2019年に竣工した神奈川県横浜市の「きらり保育園」でも、出節のある化粧柱をご採用いただきました。園児たちが直接触れられるよう、エントランスホールに設置されており、園児たちが楽しそうに触ったりぶら下がったりしているかと思うと、大変喜ばしいです(図4)。丸みのある木には、角材にはない温かみがあり、こうした施設に好んで使っていただけるのではないでしょうか。また、非住宅においては比較的太い素材が必要となり、その分割れなどのリスクも心配されますが、天然乾燥棟にて温湿度を管理しながらじっくりと滑らかに乾燥させているため、こうした需要に対しても自信を持って出荷しています(図5)。
山への感謝の気持ちを忘れず、信頼関係を第一に
―最後に、木に携わる中で大切にされていることについて、お聞かせ下さい。
森本 当社の事業は、「吉野の森を創り、育て、護り、そしてその森から生まれる製品をご提案すること」です。山や、そこに育ってきた木々への敬意と感謝の気持ちを忘れたことはありません。計画的に間伐を繰り返し、持続的に森林資源を生かすことにこだわり、山林を管理しています。そのため、毎年12月7日には、山の神様へお供え物をして木に対する感謝を示すとともに、林業に従事する方々の労働災害がないことを祈願しています。
また、今回のウッドショックにおいて木材価格が高騰したことによって、利益を最優先して立ち回った会社が散見されました。しかし当社では、従来からの関係性を大切にし、価格だけではなく、今後も継続的に関係を構築できる企業様に対して、素材を提供していきたいと考えています。今後も、当社に関係する全ての方々との信頼関係を大切にしながら、事業を営んでいきたいと考えています。
―本日はお忙しい中ありがとうございます。今後ともお力添えをお願いいたします。