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ウッドショックの現状 国産材の活用とサプライチェーンの最適化が急務
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に端を発し、木材需給がひっ迫したことから世界的に木材価格が上昇する「ウッドショック」と呼ばれる現象が、年初より生じています。国内においても、供給不足によって輸入材の価格が高騰、それが国内需給の均衡を崩したことで、国産材価格の上昇につながり、住宅・建設業界に様々な影響を及ぼしています。今回は、ウッドショックが発生した要因などについて改めて振り返るとともに、直近の木材価格や需給状況についてまとめました。
米国の住宅需要の急伸で木材需要が増加
今回のウッドショックは、需要・供給・物流と複合的な要因により発生している点が大きな特徴です。まず需要面については、米国の住宅建築需要が急激に伸びたことが主な要因として挙げられます。新型コロナウイルス感染症の流行直後の2020年4月には、住宅着工戸数が年率換算で94万戸にまで急激に落ち込んだものの、5月には増加に転じ、2021年3月に173万戸を記録しました(図1)。これは、米国政府の金融緩和政策による低水準な住宅ローン金利や、テレワークの浸透により郊外の持ち家需要が高まったことなどが後押ししたと考えられています。
また、コロナ禍で自宅にいる時間が増えたことで、DIY需要が高まったことも影響しています。加えて、世界最大の木材輸入国である中国が、他国に先駆けてコロナ禍から早期に景気を回復させたことも重なりました。
木材の供給力不足や輸送運賃の上昇も影響
供給面については、米国における木材伐採業の雇用者数が2010年代半ばから減少を続けるなど、コロナ禍以前より木材産業の労働力は低下傾向にありました。また、虫害や山火事等の影響で原料が不足していたところに、コロナ禍で製材所が休業を余儀なくされたことも追い打ちをかけ、木材の供給能力が低下したことで、需給のひっ迫度合いを強める結果となりました。
物流面については、2020年末から、米国での木材輸入が急増した上に、コロナ禍に伴って港湾処理能力が低下したことで、北米にコンテナが滞留する事態となりました。更に、今年の夏以降は、中国において港湾作業員が不足したことで空コンテナが滞留するなど、世界的にコンテナが不足したことで、海上輸送運賃が急激に上昇しました(図2)。
このように、米国や中国を中心として世界的に拡大した木材需要に供給が追い付かなくなり、更に、コンテナ不足やそれに伴う海上輸送運賃の上昇なども重なり、日本国内においても輸入材が不足し、価格が高騰する状況となりました。また、日本ではコロナ禍でも住宅需要は堅調に推移し、代替として国産材を求める動きが強まったものの、供給側は需要減を見越して減産していたために急な増産に対応できず、国産の原木や製材の価格にも大きな影響を及ぼしました。
製材や集成材などの輸入が減少し、価格が上昇
直近の輸入材の状況について、林野庁の資料によれば、品目別の輸入量累計は、丸太が205万m3(同13%増)、合板が136万7,000m3(同6%増)と増加した一方で、製材が352万6,000m3(同10%減)、集成材が70万1,000m3(同14%減)と前年に比べて減少しています(図3)。
また、今年9月における製材の1m3当たりの輸入平均単価(総輸入額を総輸入量で除したもの)は、前月比12%増となる7万137円(前年同月比89%増)となりました(図4)。
国内の一部地域では徐々に落ち着きが見られる
国内の木材価格については、樹種や品目、地域によっても動きに違いが見られます。スギ原木の主要市場価格は、例年であれば春から梅雨の時期にかけて原木価格が下落する時期であるにもかかわらず、今年4月以降、価格が上昇する地域が多く見られています。九州地域では価格が一時的に高騰しましたが、直近では高値水準ではあるものの落ち着きも見られています(図5)。
また、ヒノキ原木の主要市場価格についても、スギと同様に全ての地域で大きく上昇しましたが、直近ではいずれの地域でも落ち着きが見られ始めました(図6)。
そのほか、製品価格については、輸入材の価格高騰に伴う国産材への代替需要により、現状、高値で推移しています(図7)。
住宅業界における影響と対策
国土交通省が中小工務店を対象に今年7月末に実施した、木材の品薄・価格高騰に関する影響調査によると、今年5月以降、9割を超える中小工務店において木材の供給遅延が発生しており、そのうち概ね3割前後が工事に遅れが生じていると回答しています。また、木材の供給遅延により、3割前後の中小工務店が、調査日からさかのぼって過去1カ月の間に新規の契約締結を見送り、また、同じく3割前後が新たに資金繰りが厳しくなっていると回答しています(図8)。
同省では、木材調達のめどが立たずに工期が延びる事例もあり、中小工務店に対する影響が大きいとの認識を示しています。こうした状況の中、短期的な対応として、中小工務店でも活用可能な融資制度の相談窓口等について周知するために、5月17日と7月30日の二度にわたって事務連絡を発出しました。更に、中長期的な対策として、安定的な木材確保等が可能な体制を構築することが必要であるとしています。そのための取り組みとして、2022年度予算概算要求において、木材価格の高騰や需給ひっ迫を踏まえ、中小工務店、建築士事務所、プレカット事業者、製材事業者、原木供給者等の木造住宅生産事業者の連携による安定的な木材確保に向けた先導的取り組みに対して、支援を強化することなどが盛り込まれました。
国産材の安定供給体制の構築に向けて
住宅の建築等に使われる木材の半数以上が輸入材である事態を踏まえ、今回のウッドショックをきっかけに、国産材への切り替えを進める動きが強まっています。一方で、国内林業の労働力不足など、国産材の安定供給には課題もあり、需給のミスマッチをなくし、効率的なサプライチェーンを構築することが求められています。
こうした背景を踏まえ、林野庁では、「低層建築物(住宅等)における効率的なサプライチェーンの構築支援」を展開しており、川下の需要に応じた原木供給や、森林から住宅建設の現場に至る物流の効率化等、マーケットインの発想に基づくサプライチェーンの全体最適化が図れるよう、事業者が需給情報等を共有できる取り組みを進めています。
また、建築用木材が適切かつ安定的に供給されることは、建築物における木材利用の促進にもつながります。今年10月1日に施行された改正木材利用促進法では、森林所有者、林業従事者、木材製造業者その他の木材の供給に携わる者に対して、木材の適切かつ安定的な供給に努めることを責務として規定し、建築物の整備における木材の利用の動向やニーズに応じた木材の適切な供給のために、木材の製造の高度化及び流通の合理化等に取り組むことを求めています。
今後、国産材の安定供給体制の構築に向けて、国産材のサプライチェーンの強化・活用の促進など、官民一体となって取り組んでいくことが重要となります。
国土交通省
2022年度予算概算要求概要
https://www.mlit.go.jp/page/kanbo05_hy_002340.html
林野庁
国産材の安定供給体制の構築に向けた需給情報連絡協議会
https://www.rinya.maff.go.jp/j/mokusan/ryutsu/kyougikai.html
国土交通省
木材の価格高騰・需給逼迫への対応について
https://www.rinya.maff.go.jp/j/mokusan/ryutsu/attach/pdf/kyougikai-187.pdf