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ニュース&レポート

「防災の日」特別企画 改めて自然災害への対策を考える

 毎年9月1日は「防災の日」、更に、この日を含む一週間(8月30日から9月5日)は防災週間です。この期間では、自然災害についての認識を深めるとともに、これらに対する備えを充実・強化することで災害の未然防止と被害の軽減に役立てるなどの目的で、講演会や展示会、防災訓練などが実施されます。今回は、「防災の日」特別企画として、地震や水災害などへの対策についてまとめました。

自然災害が起こりやすい日本列島

大地震の発生が切迫

 日本は、地形・地質・気象等の国土条件から、歴史的にも自然災害による甚大な被害に見舞われてきました。特に地震については、日本列島には多くの活断層やプレート境界が分布しており、世界におけるマグニチュード(M)6以上の大規模な地震の約2割が日本で発生しています。現在の日本では地震活動が活発化しているとされており、東日本大震災以降、毎年、行動に支障を感じるレベルである「震度5強」以上の揺れが記録され、その回数はこの10年で75回に上ります(8月25日現在)。今年に入ってからも、2月13日に福島県沖でM7.3、最大震度6強となる地震が発生したほか、宮城県沖において、3月20日にはM6.9、5月1日にはM6.8の地震が発生しており、それぞれ最大震度5強を記録しています。

 また、将来的な発生が懸念されている南海トラフ巨大地震と首都直下地震については、政府の地震調査研究推進本部が今年1月13日時点における予測を公表しています。これによれば、南海トラフ巨大地震については、30年以内にM8~9クラスの地震の発生確率が70~80%と予測されており、過去の南海トラフにおける地震発生の間隔等を鑑みて、発生の切迫性が高まっていると指摘しています。首都直下地震については、同じく30年以内の発生確率が70%程度と予測されており、首都圏において最大震度7となる地域があるほか、広い地域で震度6強から6弱の強い揺れになることが想定されています。

 政府は、両地震による被害想定についても公表しています(図1)。それによれば、南海トラフ巨大地震では、最大で死者約32.3万人、建物の全壊及び焼失棟数約238.6万棟と想定されており、被災地の経済被害は最大で約169.5兆円に上り、東日本大震災の16.9兆円をはるかに超えることが想定されています。また、首都直下地震では、最大で死者が約2.3万人、建物の全壊及び焼失棟数が約61万棟、経済被害は建物等の直接被害だけで約47兆円との試算が示されています。

大規模地震による被害想定

気候変動により水災害が激甚化・頻発化

 日本の河川は、ヨーロッパやアメリカと比べると全体の長さが非常に短く急勾配となっており、大雨に見舞われると河川流量が急激に増加し、洪水等の災害が起こりやすいという状況にあります。近年では、豪雨災害が激甚化・頻発化しており、「平成30年7月豪雨」「令和元年東日本台風」「令和2年7月豪雨」などによって、甚大な被害が発生しています(図2)。2019年の被害額は全国で約2兆1,800億円となり、1年間の津波以外の水災害被害額としては統計開始以来最大額を記録しています。

 また、氾濫危険水位を超過した河川数は増加傾向であり、比例するように土砂災害の発生件数についても増加しています(図3)。2018年には過去最多の3,459件に上り、2019年には1,996件、2020年には1,319件と、近年は多くの土砂災害が発生しています。2020年は、令和2年7月豪雨によって、37府県において961件の土砂災害が発生しており、これは過去最大クラスの広域災害となっています。更に、1時間雨量50㎜以上の短時間強雨の発生頻度についても、平均174回(1976年~1985年)から平均251回(2010年~2019年)と、直近30~40年間で約1.4倍にまで拡大しています。

 こうした水災害の激甚化・頻発化の背景には、地球温暖化の進行があると考えられています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、8月9日に公表した報告書において、気候の現状について、人間活動の影響が地球温暖化の要因だとした上で、将来あり得る気候として、「継続する地球温暖化は、世界全体の水循環を、その変動性、世界的なモンスーンに伴う降水量、降水及び乾燥現象の厳しさを含め、更に強めると予測される」と述べており、水災害の更なる激甚化・頻発化することが懸念されます(1面に詳報)。

津波以外の水害被害額の推移

土砂災害の発生件数の推移

災害リスクの軽減に向けて積極的な政策展開が進む

地震被害の軽減に向けて一戸建住宅の耐震性を確保

 こうした自然災害について、政府は新たな住生活基本計画において、住まいなどの安全・安心の確保に向けた取り組みの必要性を訴えるなど、対策を強化しています。例えば、耐震性が不足した住宅ストックの耐震改修・建て替え等による住宅・市街地の耐震性の向上や、自然災害の激甚化・頻発化に対応するため、土砂災害等のハザードエリアを踏まえた安全なまちづくりに関する法整備などが進められています。

 住宅の耐震性能については、その建築時期によって違いがあります。建築基準法における耐震基準は、1981年6月の大規模改正以降の基準を「新耐震基準」、それ以前は「旧耐震基準」として区別されており、「新耐震基準」により建てられた住宅については耐震性があると判断されます。更に、木造住宅については、阪神淡路大震災を受けて2000年に耐震基準の厳格化が図られ、これが現行の耐震基準となっています。つまり、木造住宅については、旧耐震基準、新耐震基準、そして現行基準の建築物が混在している状況にあります。

 前述の南海トラフ巨大地震の被害想定においては、建物の耐震性の強化による被害の軽減効果についても推計されています。これによると、住宅の耐震化率を約82%で試算した場合には、地震の揺れによる全壊棟数が約107万1千棟、建物倒壊による死者数が最大で約6万5千人であるのに対し、耐震化率を95%に引き上げた場合には、揺れによる全壊棟数が約51万5千棟、建物倒壊による死者数は最大で約2万9千人にまで抑えられるとの推計が出されています(地震動は陸側ケースを想定)。

 実際に過去の地震において、耐震性の有無によって被害に差が出ていることも分かっています。2016年の熊本地震において二度の震度7に見舞われた、熊本県益城町における国土交通省の調査・分析によれば、調査・分析した1,955棟のうち、297棟(15.2%)で倒壊・崩壊の被害があり、そのうちの72.1%に当たる214棟が旧耐震基準で建てられていました。また、新耐震基準で建てられた住宅の中でも、特に現行の耐震基準で建てられた住宅の被害は小さく、倒壊した7棟のうち大半は施工不良や地盤の変形等が原因とされています。更に、住宅性能表示制度の耐震等級3の住宅については大部分が無被害であり、高い耐震性が実証された結果となっています。

 一方で、2018年における住宅の耐震化率は推計で約87%にとどまっています(図4)。これは、総戸数約5,360万戸のうち約700万戸で耐震性が不足していることを意味しています。住宅の区分別では、共同住宅では耐震化率が約94%に達していますが、一戸建住宅では約81%にとどまっているのが現状です。国は、耐震化率について、2030年までに耐震性を有しない住宅ストックをおおむね解消することを掲げており、一戸建住宅の耐震改修、建て替えの促進は、本目標を達成し、来たるべき大地震に備えるために非常に重要な課題であり、住宅業界にとっての使命とも言えます。

住宅の耐震化の進捗状況

増大する水災害リスクに対して土地利用等の見直しが進む

 水災害リスクの増大に対する対策としては、「流域治水」を推進することが掲げられています。「流域治水」とは、集水域と河川区域のみならず、氾濫域も含めて一つの流域と捉え、流域に関わる行政、企業、住民などのあらゆる関係者により、地域の特性に応じてハード・ソフトの両面から流域全体で治水対策に取り組むという考え方です。具体的には、氾濫をできるだけ防ぐ・減らすために、堤防整備やダム建設・再生、砂防関係施設の整備等を進めるともに、被害対象を減少させるために、土地利用の規制・誘導や、不動産業界と連携した水災害リスク情報の提供などが推進されています。

 住まい方や土地利用についても、自然災害リスク抑制の観点から見直しが必要とされており、防災・減災のための住まい方や土地利用を推進し、災害による被害対象の減少や被害の軽減を図る動きが出ています。災害ハザードエリアにおける新規開発を抑制することや、危険度が高い浸水想定区域と土砂災害警戒区域における開発許可の厳格化のほか、同エリアからの住宅の移転を促進するため、移転する住宅等への登録免許税の特例措置の創設など、インセンティブの強化などが行われています。

 こうした方針に基づき、昨年8月には宅地建物取引業法施行規則の一部が改正され、不動産取引時における重要事項説明時に、ハザードマップにおける取引対象物件の所在地について説明することが義務化されました。また、今年5月には「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が改正され、これまでは認定基準として地震以外の災害リスクは考慮されていませんでしたが、「自然災害による被害の発生の防止または軽減に配慮されたものであること」が追加されました。これにより、土砂災害、津波、洪水など、災害リスクが特に高いエリアについては認定対象から除外されるほか、自然災害のリスクに応じて、建築制限の強化や、必要な対策の要請などが行われるようになります。これについては、今秋に具体的な基準が告示される予定です。また、住宅金融支援機構が提供する「フラット35S」の利用要件も変更され、土砂災害特別警戒区域(通称:レッドゾーン)内における新築住宅の建設または購入について、10月以降に設計検査の申請を行う場合は、「フラット35S」が利用できなくなります。

 また、今年5月には災害対策基本法が改正され、市町村が発令する避難情報が大きく変更されました。同法においては、災害の危険性について5段階の警戒レベルで分類されており、災害発生時には市町村などによって警戒レベルに応じた避難情報が発令されます(図5)。これまで、警戒レベル4には、避難勧告・指示が混在しており、本来避難すべき避難勧告のタイミングで避難せずに逃げ遅れによって被災するケースが多数発生していることから、本改正では、避難指示に一本化し、警戒レベル4で必ず避難することを求めています。

5段階の警戒レベル

災害対策として普段からの備えを

 いつ起こるか分からない自然災害への対策は、住宅などのハード面だけではなく、ソフト面における日常の備えも重要となります。事業者においては、建物や社内外のガラス、壁、看板、塀などの安全化を進めるとともに、避難通路の確保、事務機器等の転倒防止対策、コンピューターなどの高度情報機器類の安全対策の実施など、事業所内外の安全化に普段から取り組んでおく必要があります。また、停電や断水等に備えて、非常用照明器具や発動発電機、飲料水や食料を準備しておくことや、いざという時のために地域の住民組織や自主防災組織などの訓練に職場単位で積極的に参加するなど、日頃から地域との結び付きを深めておくことも重要となります。

 家庭においては、阪神淡路大震災などでは、家具の下敷きになって死傷した方が多数いたことなどからも、転倒しないように家具を壁に固定することや、それが難しい場合は、なるべく背の低い家具を選択したり、倒れた時に出入り口をふさがないように、向きや配置を工夫することなどが重要となります。また、電気やガス、水道などのライフラインが止まった場合に備えて、普段から3日分程度の飲料水や保存の効く食料などを備蓄しておくことが必要です。更に、自宅が被災した場合は、安全な場所で避難生活を送ることになるため、非常時に持ち出すべきもの、例えば、飲料水や食料品、貴重品、救急用品、携帯ラジオ、携帯電話の充電器、衣類、洗面用具などを、あらかじめリュックサックなどに詰めて準備しておくことなども必要です。そのほか、家族同士で安否確認の方法や、避難場所、避難経路などを事前に取り決めておくことなども重要となります。

※ 図1~4は国土交通省資料より、図5は内閣府(防災担当)・消防庁資料より作成

NPO法人 住まいの構造改革推進協会

ステキ信頼リフォーム推進協会へ事業継承。年内をもって発展的解散へ

 NPO法人住まいの構造改革推進協会(以下、住構協)は、「阪神淡路大震災を風化させてはならない!」を合言葉に、住宅建築に携わる地域工務店様に対して、耐震診断・耐震補強等、住まいの安全性を高める技術・手法の指導・普及を行い、一般ユーザーの住宅の安全性(耐震性)向上に寄与することを目的として2003年に設立、2004年にはNPO法人の認証を取得しました。以来18年にわたり、耐震技術認定者の育成などに注力するとともに、大地震発生時の現地調査などによる家屋の倒壊原因などの究明及びその情報発信、更には各種イベントを通じた一般消費者への住まいの耐震化の重要性に関する普及啓発など、活動を重ねてきました。

 2017年には、住構協の事業をより一層拡大・発展させる趣旨で一般社団法人ステキ信頼リフォーム推進協会(以下、ステキ信頼)が設立され、以降、住構協はその趣旨に則りステキ信頼への事業の移管等を進めてきました。現在、ステキ信頼は、国土交通大臣登録団体として一層の事業拡大が図られており、また、このほど事業の実質的な移行が完了することに伴い、住構協は2021年12月をもって事業を終了する予定です。なお、住構協が担ってきた活動については、ステキ信頼に継承されます。

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