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ニュース&レポート

コロナ禍における換気の有効性

坂本氏

 世界中でまん延している新型コロナウイルスは、各国でワクチン接種が進んでいるものの、依然として警戒が必要な状況が続いております。そのような中、感染対策の一つとして奨励されているのが、密閉状態を回避するための「換気」です。今回は、換気の方法やその効果などについて、東京大学名誉教授の坂本雄三氏にお話を伺いました。

再認識される換気の重要性

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、換気の重要性が今、改めて認識されています。政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は、感染抑制のため、咳エチケットや手指衛生等に加え、「三つの密」(密閉、密集、密接)を回避することが必要であると提言しています。換気は、そのうちの密閉状態を回避することにつながるため、感染リスクの低減に向けて有効な手段として励行されています。

 建築物衛生法や建築基準法においては、空気清浄を目的として、換気について数量的に定めており、ホルムアルデヒド、浮遊粉塵といった汚染物質の許容濃度が設定されています。新型コロナウイルスについては、その実態の解明が進められているところですが、少なくとも空気中の濃度を薄めることが感染リスクの低減につながると考えられています。

換気による希釈効果と必要換気量

 換気によって、空気中の汚染物質濃度がどの程度薄まるのか、そして、そのために必要な換気量はどの程度かについては、簡単な計算モデルによって定量的に評価することができます。例えば、空間内に放出された汚染物質が一瞬にして空間全体に拡散し、空間内に均一に存在する「瞬時一様拡散」の状態であると仮定します。その場合、室内の汚染物質濃度(C1)は、汚染物質量(M)を換気量(V)で割った数値に、外気の汚染物質濃度(C0)を足したものとなります(図1)。これにより、換気量が多いほど室内の汚染物質濃度が下がることが分かります。

 また、室内の換気が十分かどうかの判断の指標として、人間の呼気に含まれる二酸化炭素(CO2)が用いられます。4人分の呼気に含まれるCO2の発生量と外気濃度を設定した場合、CO2の許容濃度1,000ppm以下とするために必要な換気量は毎時80m3以上となります。

 建築基準法では、住宅等の居室について、1時間当たりの換気回数を0.5回として換気量を算出することとされています。換気回数とは、居室の気積が何回換気されるかを示しており、0.5回とは1時間で気積の半分が入れ替わるということを意味します。密閉空間を想定して、外気の汚染濃度(C0)をゼロ、換気回数を0.1回と仮定した場合、密閉空間と一般的な空間との濃度比(C/C0)と換気回数は反比例の関係となります(図2)。換気回数0.1回の場合の濃度比1に対して、標準的な換気回数である0.5回の場合の濃度比は0.2となり、換気には、密閉空間における汚染物質濃度を8割下げる程の効果があることが分かります。

24時間機械換気と窓開け換気

 2003年7月の建築基準法改正により、全ての建築物において、24時間換気システムなど機械換気設備の設置が義務付けられました。換気方法には、給気と排気の両方を機械で換気する「第1種換気方式」、給気は機械、排気は自然に換気する「第2種換気方式」、給気は自然に、排気は機械で換気する「第3種換気方式」の三つの種類があり、いずれかを用いる必要があります。

 また、コロナ禍により、窓を2カ所以上開放することによる「窓開け換気」への関心が高まっています。窓開け換気は計算上、機械換気に匹敵する十分な効果が得られます。換気装置の故障など、機械による換気ができない場合に有効であると考えています。また、築年数が経過した古い住宅は、換気設備の性能が現在の基準を満たしていないケースも考えられます。そうした場合には、リフォームによって換気設備を交換、もしくは設置するなどの対策が必要となります。

空気清浄機を活用した感染対策

 換気への関心の高まりとともに、空気清浄機にも注目が集まっています。空気清浄機には、汚染物質の浄化方法によっていくつかの種類があります。フィルターのろ過作用によって集塵するタイプ、高電圧によって静電気を与えて集塵するタイプ、光や紫外線を照射して除菌するタイプ、次亜塩素酸水などを浸透させたフィルターに空気を通過させて除菌するタイプなどが挙げられます。フィルター式の場合、どの程度まで小さな汚染物質を集塵できるかが重要ですが、最近では、非常に小さな粒子であるウイルスなども集塵できる商品が開発されています。いずれのタイプも室内の空気を本体の中に集めて、それぞれの方法によって浄化した上で、室内に送り出す手法は共通しています。

 空気清浄機による効果についても、先ほどの換気と同様に定量的に評価をすることができます。ポイントになるのは、空気清浄機の風量と集塵効率で、計算モデルにそれぞれの数値を入れて計算をすると、風量を増やしていくことによって室内の汚染物質の濃度が低下していくことが分かります(図3)。注目すべきは、空気清浄機の風量の方が、集塵効率よりも汚染物質の濃度を低下させるには有効である点です。換気に加え、十分な風量で空気清浄機を稼働させることによって、空気中の汚染物質濃度を更に下げる効果が期待できます。また、空気清浄機は全館空調システムに併せて設置することで、建物全体の空気を清浄することができるというメリットがあります。

 コロナ禍で関心が高まっている換気ですが、感染対策として一時的に必要なものというわけではありません。衛生的な暮らしや健康的な住まいを維持するため、日常生活における重要性を理解することが大切です。十分な性能を持った設備により適切な換気を心掛け、感染対策を踏まえ、健康で快適な生活を送っていただきたいと思います。

希釈効果と必要換気量、増大による濃度低下、空気清浄機による濃度低下