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改正建築物省エネ法が全面施行 基準適合の可否の説明義務化がスタート

2019年5月に公布された「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の一部を改正する法律」(改正建築物省エネ法)が、今年4月1日に全面施行されます。これにより、小規模の住宅・建築物の設計時に省エネ基準への適否に関する説明を義務化する制度がスタートするほか、省エネ基準への適合義務制度の対象が中規模建築物にまで対象が拡大されます。今回は、4月1日施行の内容について説明義務制度を中心にまとめました。

2段階目として4月1日から全面施行

 改正建築物省エネ法は、建築物の省エネ性能の向上を図るため、省エネ基準への適合義務等の規制措置と、誘導基準に適合した建築物の容積率特例等の誘導措置とで構成されています。規制措置は、省エネ基準への適合義務制度、届け出義務制度、住宅トップランナー制度、そして今回スタートする説明義務制度の四つの制度からなります(図1)。また、誘導措置には、性能向上計画認定制度(容積率特例に係る認定制度)と省エネ性能に係る表示制度の二つがあります。

 同法は2段階施行となっており、第1段階として、届け出義務制度の合理化や、住宅トップランナー制度および容積率特例に係る認定制度の対象拡大といった措置が既に実施されています。第2段階となる、今回の4月1日の施行では、小規模の住宅・建築物の設計時に、建築士が省エネ基準への適合の可否について、建築主に説明することを義務付ける制度と、適合義務制度の対象拡大措置がスタートします。

改正建築物省エネ法の適応範囲

説明義務化

4月1日以降の設計委託住宅等が対象

 これまで、延べ床面積300㎡未満の小規模な住宅・建築物については、省エネ性能の向上に関する努力義務が課せられていました。しかし、建築主は省エネ性能の知識が不足しがちであることが課題となっていました。また、建築主がそのまま利用者となるケースが多いことから、今回の改正では、省エネ基準に適合した住宅・建築物の普及促進に向けて、努力義務が「省エネ性能の向上」から「省エネ基準適合」に強化されるとともに、新築等の設計時に建築士から建築主に対し、省エネ基準への適合可否について書面にて説明することが義務付けられました。

 この説明義務制度は、4月1日以降に設計委託を受けた住宅および建築物が対象となります。建売住宅を自社で設計・施工する場合は、建築主と建築士の間に設計委託関係がないため、同制度の対象には当たりません。また、分譲一戸建住宅については、建築士から分譲事業主に対して説明を行うことが求められますが、自社で設計・施工を行う場合には、同様に設計委託関係がないため対象外となります。

 対象となる規模は、床面積の合計が10㎡より大きく300㎡未満の住宅・建築物の新築と、床面積の合計が300㎡未満の住宅・建築物について行う増改築で、その増改築に係る床面積の合計が10㎡より大きく300㎡未満のものとなります(図2)。ただし、これらに該当しても、居室がない、または開放性が高く、空気調和設備の必要がない畜舎や自動車倉庫などの建築物や、文化財に指定された建築物など保存のための措置等により省エネ基準への適合が困難な建築物等については適用から除外されます。

省エネ的判届け出説明の判定フロー新築

説明義務化

説明不要の意向も書面で保存

 建築士から建築主への説明については、情報提供、評価・説明の実施に関する建築主の意思確認、設計を行う住宅・建築物の省エネ性能の評価、建築主への評価結果の説明の4ステップで進めることが想定されています(図3)。

 ステップ1の省エネ性能に関する情報提供を行う時期については、特に実施すべき期限等は定められていませんが、省エネ性能等は設計内容に大きく影響するため、事前相談のタイミングなど早い段階で実施することが推奨されています。その際、省エネ性能の計算等に必要な費用や、計算方法によって精度や費用が異なること、省エネ性能向上のために必要な費用や工期、性能維持のためのメンテナンス費用等についても説明を行い、建築主の理解を得ることが重要となります。

 ステップ2となる建築主の意思確認の時期についても、同様に期限は定められていませんが、設計プロセスや評価等に要する費用にも関係するため、設計契約前の事前相談の段階や、建築士法に基づく重要事項説明の際に行うなど、できる限り早期に実施することが推奨されています。なお、建築主の意思確認において、省エネ性能に関して評価・説明の必要がないと建築主が意思を表明した場合には、建築主より意思表明書面を提出してもらう必要があります。この意思表明書面は、建築士法に基づく保存図書として、15年間の保存が義務付けられます。ただし、建築主が評価・説明を希望しない場合でも、省エネ性能を高めることによる、快適性の向上や光熱費等のランニングコストの抑制、ヒートショックの防止など、その必要性や効果を十分に説明し、建築主の理解を得ておくことが、後のトラブルを避けることにつながります。

説明義務制度の四つのステップ

説明義務化

不適合時は適合とするための措置を説明

 建築主の意思確認後、建築士はステップ3として省エネ性能を計算し、省エネ基準に適合しているかどうかを評価します。省エネ性能の計算について外部の事業者に委託している場合でも、計算結果を踏まえ、当該建物の設計に携わった建築士の責任の下、評価を行う必要があります。なお、増改築の場合には、増改築部分だけでなく、建物全体について評価する必要がある点に注意が必要です。

 最後に、ステップ4として、建築士は評価結果に基づき、省エネ基準への適合可否について建築主に説明します。説明は書面で行うことが義務付けられており、説明に用いた書面は、保存図書として15年間の保存が義務付けられます。そのため、建築主に説明後、説明書面の写しを保存することになります。これらの書面は、建築確認申請時の審査対象ではありませんが、都道府県等による立ち入り検査の際、適切に保存がなされていない場合、建築士法に基づく処分の対象となる可能性があります。

 省エネ基準に適合していない場合には、建築主に省エネ基準に適合させる努力義務が課せられていることと併せて、同基準へ適合させるために必要な措置について説明し、適合を促す必要があります。例えば、断熱性能の向上のための断熱材や窓の変更、日射遮蔽性能の向上のためのひさしの設置、一次エネルギー性能の向上のための給湯器や照明の変更、太陽光発電設備の設置などの提示が想定されます。評価結果の説明時期については、その内容を踏まえて、建築主が設計内容の変更を希望する場合も考えられることから、着工までの余裕を持ったタイミングで行うことが推奨されています。

 なお、建築主の意思表明書面および説明書面の参考様式は国土交通省ホームページ(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/shoenehou.html)に掲載されています。

説明義務化

ITを活用した説明も可能に

 国土交通省では1月に、建築士法に基づき設計委託契約等を締結しようとする際に行う重要事項説明について、テレビ会議等のITを活用して行う「IT重説」の本格運用を開始する旨を発表しています。これに伴い、省エネ基準への適合可否の説明義務制度においても、建築士から建築主への説明を対面ではなく、テレビ電話等のITを活用して行うことが可能となる予定です。その際、同省では、建築士と建築主の合意形成が適切に行われるよう、建築士が説明に用いる書面をあらかじめ建築主に郵送することや、説明の際には建築士と建築主が双方向でやり取りできる環境とすることなどが重要であるとしています。なお、ITを活用して説明を実施する場合、説明の実施方法に関して、別途、建築主の意思表明書面を作成する必要はありません。

 ITを活用した説明の具体的な実施方法について、同省より今後示される予定です。

適合義務化

適合義務の対象範囲を中規模建築物に拡大

 もう一つ、4月1日施行となる適合義務制度の対象拡大については、これまでの床面積2,000㎡以上の大規模建築物から、300㎡以上の中規模建築物にまで対象が拡大されました。同制度は、建築基準法に基づく建築確認と連動しており、300㎡以上の中規模建築物についても、今後、省エネ基準への適合性について審査を受ける必要があります。

 具体的には、登録省エネ判定機関等による省エネ適合性判定(省エネ適判)を受け、そこから交付される適合判定通知書を建築確認申請時に提出することになります(図4)。また、工事段階において、省エネ建材や設備の仕様等に変更があった場合は、必要に応じて軽微な変更の手続きや、軽微な変更に該当しない場合は、計画変更手続きが必要となります。なお、計画変更となった際には、改めて登録省エネ判定機関による省エネ適判を再申請することになります。

 適合義務制度の拡大措置は、4月1日以降に確認申請するものが対象です。ただし、届け出義務制度に基づき、4月1日以前に届け出を行っている場合は対象外となります。

省エネ適判対象物件に関する手続きフロー

更なる規制強化を示唆

 国土交通省によれば、住宅・建築物の省エネ基準の適合率は、2018年度には、非住宅建築物全体では95%、住宅では69%とほぼ7割にまで上昇しています(図5)。このうち、小規模の住宅については適合率が73%と、ここ4年間で20ポイント以上も上昇するなど、急速に省エネ基準への適合が進んでいます。

 更に、住宅・建築物分野は、政府が昨年策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において、重要分野の一つとして掲げられています。その中で、今後の取り組みとして、「2030年までに新築住宅の平均でZEH」に加え、「今世紀後半の早期に住宅のストック平均でZEH」が新たな目標として示されています。その上で、当面は省エネ性能が高い住宅や省エネ改修に対する政策支援により自立的な普及への環境を整備しつつ、普及状況を踏まえ、省エネ基準適合率の向上のため、更なる規制的措置を検討することの必要性が示唆されました。

 昨年12月には、「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」を設置し、住宅・建築物におけるエネルギー性能の向上に向けた規制・制度の在り方についても議論が進められています。2月24日に行われた第5回会合において、「現在の省エネルギー基準を全ての建築物で適合義務化すること」が提言され、国土交通省はこれを受けて、新たに策定される予定の「住生活基本計画(全国計画)」に、「住宅の省エネ基準の適合率を向上させるための更なる規制措置の導入を検討」することを盛り込むなど、今後、省エネ基準への適合はより求められていく状況にあります。

住宅規模別の省エネ基準適合率

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