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シリーズ 木材需要の拡大に応える『現場の力』④ 佐伯広域森林組合 次世代に引き継がれる森づくりを推進
大分県南部で活動されている佐伯広域森林組合様は、伐期を迎えた森林資源を活用するとともに、良質な森林資源を次代に引き継いでいくために、大規模な製材工場を核に、50年を1サイクルとする、独自の循環型林業「佐伯型循環林業」を推進されています。今回は、同組合の戸髙壽生代表理事組合長に、お話を伺いました。
森林整備から製材、住宅供給まで
――佐伯広域森林組合様の事業についてお聞かせ下さい。
戸髙 当組合は、佐伯市、弥生町、本匠村、宇目町、直川村、蒲江町の六つの森林組合が広域合併を行い、大分南部流域の1市5町3村を一円とする森林組合として1990年に発足し、お陰様で今年30周年を迎えました。現在は、約150人の役職員がおり、会員への指導事業のほか、森林整備事業、林産事業、販売事業、製材加工事業、購買事業などを行っています。佐伯市内で2カ所の共販所を運営しており、2カ所合算の取扱量は20万㎥を超えて大分県内でも最大で、大分県南部地域の木材流通の拠点となっています(図1)。
――2009年に大規模な製材工場が稼働しました。
戸髙 当組合では当初、年間で約3万㎥の丸太消費量がある製材工場を所有していましたが、戦後造林された人工林が既に50年生を超え、この工場では能力不足となりました。そこで、いかに付加価値を高めて販売していくかについて検討し、製材工場の新設に踏み切りました。2009年に稼働した宇目工場は、年間丸太消費量が12万㎥と、国内にある国産材製材工場の中でもトップクラスの規模となっています(図2)。
現在は、間柱を中心に、梁、桁、横架材等を製材しています。この工場では、生産性を徹底的に追求しており、例えば、原木の曲がり具合をコンピューターにより一本一本計測し、それぞれの異なった曲がり具合に合わせながら製材を行う機械を導入し、直材だけでなく、同じように曲がり材も有効に利用しています。
生産量が一気に4倍に増加したため、稼働当初は、これだけの需要が本当にあるのかという不安もあり、大手取引先様をはじめ、各地へ精力的に訪問を重ねました。大分県庁にも協力いただき、当時の副知事にこれに同行していただいたほか、ナイスさんにも色々とお力添えをいただきました。規模のメリットというのもやはりあり、当組合に注文すれば何でも迅速に揃うという評価が頂けるようになり、程なく軌道に乗せることができました。
また、継続して取引いただくには、しっかりとした製品づくりを進めていかなければならないという観点から、品質の向上に日々努めています。今年は、バイオマスボイラーと乾燥機を増設しており、これにより、KD材の比率を70%から90%にまで引き上げる考えです(図3)。
――大分県南部は木材の品質に定評があります。
戸髙 大分県全体を見ると、日田市が有名な林業地です。大規模な森林所有者がそれぞれ工夫しながら良い苗を植えて、栄えてきました。一方で、当佐伯市には大規模所有者がそれほどおらず、組合が主導して造林が進められたエリアです。もともとは、広葉樹の燃料林が中心でしたが、戦後の拡大造林に伴い、一気にスギの造林が進められました。
その際、成長が早く、通直で、芯の色も良いことから、地域で指定された飫肥(おび)スギが積極的に植林されました。一般的に50年生のスギの収穫量は、1ヘクタール当たり400㎥程度ですが、当地域では600㎥程度と、1.5倍近い収穫量があります。更に、スギは他の樹種と比べて含水率が高いため乾燥が難しく、乾燥過程で曲がったり、ヒビが入りやすいといった特徴がありますが、飫肥スギはそういったことが非常に少なく、製材時の品質の安定につながっています。現在は、飫肥スギのうち、タノアカ、アラカワ、姶良(アイラ)20号、マアカといった4品種を、「佐伯杉」として植えています。
――ナイスでは、飫肥スギの赤身のみを使用した材を「ObiRED®」としてブランド化してご好評いただいており、良い品種だと実感しています。
「佐伯型循環林業」を推進
――佐伯広域森林組合様から見た、現在の林業の課題についてお聞かせ下さい。
戸髙 全国的に木材価格が低迷しており、森林所有者にとって厳しい状況が続いています。以前、原木市場における木材の適正価格について試算したところ、造林から市場までの生産者価格の損益分岐点は1㎥当たり1万2千円、更に、森林所有者が意欲を持てる価格水準は、少なくとも1㎥当たり1万5千円となりました。低下している森林所有者の意欲をいかに盛り上げ、再造林を進めていくかというのが、私たち森林組合に求められている役割だと考えています。
当組合では、2009年に「森林・林業再生プラン」が策定されたことを契機として、林業の本来あるべき姿をしっかりと検証し、いかにあるべきかについて熟慮を重ねました。その結果、大型工場を核として、「木材の生産」と「公益的機能の保全」の両面から、持続可能な森林経営を目標とする「佐伯型循環林業」を提唱し、推進してきました。これは、苗木生産・植林(造林)から、下刈り、枝打ち・除伐、間伐、皆伐(50年伐期施業)、原木集荷、製材、木材利用に至るまで、50年サイクルで当組合が一貫して行うというものです。これにより、地域資源をフルに活用して、地域の雇用を創出し、永続的に森林を守るための地域循環・地域活性化を目指しています。
この「佐伯型循環林業」を推進していくに当たって、まず苗木の確保が課題となりました。そこで、当組合で必要な数を生産していこうと考え、苗木の育成について、農林水産業の振興のために特に業績のあった方に授与される天皇杯を受賞された方に指導いただき、コンテナ苗の生産を開始しました(図4)。これは、宮崎県林業技術センターが開発した「Mスターコンテナ苗」と呼ばれるもので、四季を通じて効率的な植栽ができ、しかも、枯れにくいという特長があります。現在、当市内において、年間20万本を生産しています。
――地域材を活用した、住宅の供給にも取り組まれています。
戸髙 木材の付加価値の向上という観点から、「地域材パネル住宅」の供給を目指しています。在来工法の外周部をパネル化したもので、柱・桁・間柱にサッシ・断熱材と外部面材を一体化してパネルのパーツを成形しています。これにより、製材後の木材価格を通常の1.5倍程度にすることができています。
この一体化したパネルを組み合わせることで、現場では一日で上棟できます。そのため、大幅な工期短縮が可能であり、このパネルを全て工場生産とすることで、安定した品質で高性能な家づくりを実現できます。在来工法によるパネル工法はほとんどなく、今後、拡大していきたいと考えています。
また、バイオマス発電において、未利用材の活用を進めています。かつては埋もれていた材が価値を生むようになり、これが木材価格の下支えとなっています。当市の隣に位置する豊後大野市のバイオマス発電所に、年間3万トン以上のチップを納入しています。更に、来年8月には大分市においてバイオマス発電所が稼働する予定であり、当組合としてもチップの破砕機を増設して対応する予定です。
重要なことは、次代に森林資源を継承していくために、伐採跡は必ず再造林をしていくことです。森林所有者の意欲が減衰している中で、この再造林を徹底するというのは簡単ではありませんが、課題を一つずつ克服しながら、取り組んでいきます。
人材の育成により環境の変化に対応
――今年30周年を迎えられました。次の30年を見据えていかがでしょうか。
戸髙 新型コロナウイルスの感染拡大により、先が見えにくくなっています。更に、これを克服しても、長期的には新設住宅着工戸数の減少は疑いようがなく、木材需要をいかに増やしていくかが大きな課題となっています。
当組合は理念の一つとして、「私たちは英知を結集し、果敢に挑戦する情熱を持ち続ける森林組合を目指します」と掲げており、こうした時代に果敢に挑戦していくためには、何よりも「人づくり」が欠かせないと思っています。そして、職員をはじめ、関係する方々が、前向きに意欲を持って取り組んでいけるように、運営していくことが求められていると考えています。
幸い、当組合の理念に共感する優秀な人材が集まってきました。これまで、佐伯型循環林業の推進に当たって、何度も大きな壁に直面しました。しかし、それを乗り越えるために皆で知恵を出し合い、新たな発想を生み出すことで、次の時代につながるヒントが得られました。これにより、今があると思っています。人材をしっかりと育成して次代に継承し、環境変化に対応したビジネスモデルを築いていきたいと考えています。
――本日はありがとうございます。今後ともお力添えをお願いいたします。