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シリーズ 木材需要の拡大に応える『現場の力』② 池見林産工業㈱ コロナ禍で安心して暮らせる商品を提案
コロナ禍において、「新たな日常」を生活の中に取り入れるため、住宅においても抗ウイルス商材などの開発・実装が進められています。シリーズ「木材需要の拡大に応える『現場の力』」では、無垢板の内装材メーカーとして全国トップクラスの規模を誇り、今年6月、業界に先駆けて抗ウイルスフローリングを発売した、池見林産工業株式会社代表取締役社長の久津輪光一氏にお話を伺いました。
イノベーションでトップメーカーに
――池見林産工業様の経営方針、注力事業についてお聞かせ下さい。
久津輪 当社は、1947年に池見材木店として創業し、1962年に現在の社名である池見林産工業㈱を設立しました。この「林産」という二文字に当社の全ての思いが詰まっています。つまり、山から享受するヒノキやスギといった日本の森林資源を社会にご提供していくことが、当社の経営の骨子となります。創業当時は製材業が中心でしたが、現在はそこから一歩進み、床材や壁材の製造といった木材加工業を主な事業としています。
当社の歴史を振り返ると、国産材針葉樹の欠点と向き合い、克服するためのイノベーションの連続でした。針葉樹は、成長の過程で枝が派生した丸い形が節として幹に残ります。このうち、枝の樹皮部分までが幹の中に残っているものは「死節(しにぶし)」「くされ節」と呼ばれています。死節、くされ節は、それ以外の部位と比べて乾燥による収縮率が大きく、製造過程で節が抜け落ちて穴が開いた板材となってしまいます。そのため、節のない「無節(むぶし)」の材と比べると市場価値が大きく落ちてしまうのです。ところが、ヒノキには無節の材が1割未満程度しかありません。そこで、残り9割超の節のある板材をいかに活用するかを考えて生み出したのが、ヒノキの枝で埋木を施す補修方法です。これが当社にとって第一のイノベーションであり、これを生かして1985年に開発したのが純木桧化粧床板商品「桧舞台」です。
「桧舞台」は、死節、くされ節を少し大きめにくりぬき、そこをヒノキの枝で成形したコマ型の埋木で補修し、再生したものです(図1)。この商品の開発により、当社は国産無垢内装材のトップメーカーとして歩みを進めてきました。現在は、節の状態などから、リーズナブルな「普及品」、節が少なめの「上小節」、「無地」の3グレードでご提供しているほか、床暖房にも対応した「ゆかだん桧舞台」も販売しており、日本全国をはじめ、海外にも輸出しています。
無節材のニーズ拡大に応える
――その後も新しいイノベーションを次々と起こしていらっしゃいます。
久津輪 ここ数年、非住宅の木質化等が進んでいることもあり、内装材についても無節のニーズが高まっています。しかし、無節のヒノキの板材の流通量は少ないため、そのニーズの全てにお応えするのが難しい状況でした。そこで、加工技術でどうにか対応できないかと考え、開発したのが「桧ハイブリッド化粧無地」で、当社の第二のイノベーションです。節がある板を基材として用い、1~2㎜程度の薄さにスライスした無節の突き板を表面に貼り付けることで、見た目は無節の材をつくり上げました。つまり、節あり材と無節の材のハイブリッドで、これは床材と壁材をご用意しています。
無節の材は、節あり材と比較すると、価格が約2倍となります。しかし、この「桧ハイブリッド化粧無地」は、1.2~1.3倍程度の価格でご提供が可能で、無節の材をリーズナブルに、しかも大量に出荷することができます。更に、ふんだんにある節あり材の利用量を増やすことで、森林資源の循環利用にも貢献するなど、まさに一石二鳥だと考えています。
抗ウイルスフローリングを新発売
――今年6月、コロナ禍におけるニーズを見据えた新商品を発表されました。
久津輪 世界中で新型コロナウイルス感染症が拡大する中、ウィズコロナ・ポストコロナ時代として「新たな日常」が求められ、住宅においてはウイルス対策が重要となります。そこで、抗ウイルス塗装を施した商品を開発しました。この「抗ウイルスセラミック塗装」が当社にとっての第三のイノベーションです。実は、当社では20年程前から抗菌塗装商品の開発を進めてきました。更に、学校をはじめ文教施設の木質化に携わる機会も増えていく中で、今後、インフルエンザなどへの対策が求められると確信し、より高度な抗ウイルス塗装の研究を昨年末に開始しました。そのようなところに、今回の新型コロナウイルスが猛威を奮い出したのです。
「抗ウイルスセラミック塗装」は、耐摩耗・耐傷性に優れ、車いすでの利用にも対応した高性能なノスコセラミック塗装に、更に特殊な薬剤を配合した塗料を塗装することで、抗ウイルス性能を付与したものです(図2)。これにより、試験繊維上(フローリング上)のウイルス量を99%以上低減させる効果が確認できました。抗ウイルス塗装が施された内装材を活用いただくことで、コロナ禍においても、お客様に安心をご提供できると考えています。
各地域産材の加工に対応
――非住宅を見据えた商品開発にも積極的に取り組んでいますね。
久津輪 当社の製品は、学校などの文教施設をはじめ、多くの公共施設で活用いただいています。公共施設では、それぞれの地域産材の活用が求められます。遠隔地での木材調達という課題はあるものの、当社の埋木補修の技術により、地域産材を再生して余すことなく活用することで、大型案件にも対応しており、地域産材の加工受皿企業となっています。
また、学習指導要領の改訂により学校で武道が必修となったことで、武道場の需要が高まりました。これに伴い、当社では2012年に木造の武道場を本社の近隣に建築しました(図3)。公民館等としても活用できるため、行政関係者からも多数の問い合わせをいただいています。
この武道場は現在、地域貢献の一環として地域の剣道クラブに無償で貸与しています。耐候性試験の意味も込めて、管理は全てこのクラブにお任せしていますが、児童たちが熱心に掃除することで、良い状態を保ってくれています。このように愛着を持って接してくれるのも木造の良さの一つだと感じています。
業界を上げて情報発信を
――最後に、池見林産工業様の今後の展望についてお聞かせ下さい。
久津輪 当社は、様々な新製品の開発・供給を通じて、日本の山を活性化することに貢献していきたいと考えています。生産量を増やすことは、山に資本を返すことにつながるという強い使命感を持って、国産針葉樹による内装材の製造に取り組んでいきます。
社会全体で森林資源を今以上に活用し、循環型社会を構築していくことが、日本の目指すべき将来像だと考えています。そのためには、国産材を使う意義について、業界を上げて消費者に向けて発信していく必要があります。
「木を使うことは良いこと」だと徐々に浸透してきました。しかし、これからは、「なぜ良いのか」について数値で示していくことが求められると考えています。「なぜ森林にいると心が休まるのか」「なぜ内装材に木を使うと眠りが深くなるのか」「リビングを木質化するとなぜ快適なのか」など、しっかりとしたエビデンスを示し、「なんとなく良い」という認識から脱却しなければなりません。そのためには、業界が手を携えて情報を発信し、普及・啓発していく必要があると考えています。
当社は、社員とその家族も含めると約500人の生活を山に支えてもらっています。山から受けた恩をしっかりと山に返していくために、できることを全力で行い、山とともに生きていくことが、木材・住宅・建築業界に携わる者の使命だと感じています。こうした使命感を共有するナイスさんと、ぜひ一緒に木材産業を盛り上げていきたいと思っています。
――本日はありがとうございます。今後ともお力添えをお願いいたします。